なんか結局変な報道が入り混じる台湾漁船と海保巡視船の衝突事件。

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10日未明、尖閣諸島近海の領海で、台湾漁船と警戒活動中の海保巡視船が衝突、台湾漁船が沈没しました。
 【日台】魚釣島沖の日本領海内で海保巡視船と台湾漁船が衝突 漁船は沈没[06/10]
 http://news24.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1213055148/

尖閣海域で台湾漁船が拿捕されたり追い出されたりするのは、これまでもけっこうあったことだけれど、これまでと一味違うのは、相手の漁船と巡視船が接触し沈没したというところ。
報道を読む限り、日本の巡視船が接近したところジグザグ航行を繰り返すなどといった行為が原因に読めるので、こと今回に関しては海保GJというか決して責められる話ではないよね。もっとも、漁船側の主張が若干異なっているそうなので、今現在のところ乗組員などのうち3人が石垣島で引き続き事情聴取を受けていて、残りは台湾に帰国したんだって。
通常のパターンであれば、台湾側はいちおう尖閣諸島の主権を主張しつつ、「当該海域には漁業権の整理がついていないのだから拿捕などは行うべきではない」と言っておいて、漁民を安全かつ速やかに帰国させて一件落着させるというもの。
現に、10日の時点での台湾の外交部のコメントはシンプルなもので、乗組員らの安否と帰国に関するものがメインでした。
 http://www.mofa.gov.tw/webapp/content.asp?cuItem=32025&mp=1 (中華民国外交部)

ところが今回、余計なところから火がついちゃいました。今回、話がおかしな方向に向かいつつあるのは、半分以上これが原因だと思う。
 【日台中】台湾遊漁船衝突沈没事故に中国外務省が強い不満を表明 [08/06/10]
 http://news24.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1213105836/
運悪く、火曜日の中国外交部の定例記者会見の重なり、秦剛報道官への1発目の質問でこれが飛び出した。上のスレの共同の記事では、
> 『重大な関心と強い不満』を表明、日本政府に尖閣諸島付近での『違法活動』を中止するよう求めた。
> (略)秦報道官は尖閣諸島について「古来中国固有の領土であり、中国は論争の余地のない主権を有している」と主張、
> 日本側に事故の再発防止も求めた
とだけしか出ていないので、外交部のサイトから引っ張ってみます。

> 「答:釣魚島は昔から中国の固有の領土であり、中国が争いようの無い主権を有している。
> 我々は日本の海上保安庁の船に対して、釣魚島附近の海域での活動や中国台湾の漁船を沈没させたことに関し、
> 重大な関心と強烈な不満を表明する。
> 我々は日本政府に対して、釣魚島附近の海域における不法活動を停止し、類似事件が再発することを要求する
 http://www.fmprc.gov.cn/chn/xwfw/fyrth/t445819.htm (中華人民共和国外交部)

こらこら共同通信、「日本側に事故の再発防止も求めた」って記事では書いてるけど、これだと「事故の起きるような手段を用いずに」としか読めないじゃん。秦剛はこともあろうに、「尖閣海域での上保安庁の活動は不法な活動なので停止せよ」って言ってて、活動を停止することで事故再発を防げって「要求」してるんだよ。こんなアホな要求をご丁寧に「『違法活動』を中止するよう求めた」を前半に切り離してオブラートに包んでどうすんのさ。

やれやれついでが、12日の毎日新聞。こっちもスレが立っています。
 【日台/遊漁船事故】外交部声明『尖閣は台湾領土』背後に世論圧力も [08/06/12]
 http://news24.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1213238836/
という、11日の外交部コメントをベースにしたトホホな記事。記事によれば、台湾の外交部がスレタイのとおり主権問題について改めてコメントを出したことになり、
> 尖閣諸島について『台湾の領土であり、主権を宣旨し、守ることに疑いの余地はない』とする声明を発表した。
> (略)11日付の台湾各紙が事故を大きく取り上げたことから、世論の圧力が加わり、
> 強い姿勢を示す必要に迫られたとみられる。
と分析しています。その外交部コメントも引用してみましょ。あんまり長くないので全文翻訳。

> 我が国の漁船「連合号」の13人は石垣島で健康診断を受けたあと、本日(11日)午前6時半に、
> 無事に台湾に帰国した。外交部では、衝突事件発生後13人が平穏無事に台湾に帰ってこられたことに
> たいへんほっとしている。このほか、政府は漁民の権益を非常に重視しており、既に駐日代表処に対して、
> 船長および乗組員の残り3名を速やかに帰国させるよう日本政府に申し伝えるよう指示した。
>
> さて、釣魚台の主権争いについては、わが政府は一貫して我が国の領土であるという立場を堅持している。
> 主権の宣言と維持について政府の決心は揺るぎないものであり、変わることのないものである。
> しかし、今後も平和的で理性のある外交交渉の方式によって釣魚台の主権争いの問題にあたることを堅持する。
> また、今後は海巡署とも協力し、漁業保護を強化していく。
>
> 外交部では、今回の事故の発生について、既に日本側に抗議を表明しており、現在のところお互いに
> 事故調査を行い、仮に日本の巡視船に事故の原因がある場合には、外交部は国民の権益保護の立場に則り、
> 関係機関を通じて日本側に対して漁民の求償を手助けするだろう。
> 台日間では、既に15回にわたる漁業交渉が行われてきたがコンセンサスを得るにはいたっておらず、
> 日本政府が速やかに我々と交渉を行って漁業権問題を解決し、紛争を取り除き、損害を避け、
> 両国の友好な関係を期待する。
 http://www.mofa.gov.tw/webapp/content.asp?cuItem=32036&mp=1 (中華民国外交部)

ということで、毎日の記事だけ読むと、あたかも竹島における韓国の主張のように、「とにもかくにも領土問題」という立場に見えるけれど、今回の外交部コメントでも主権の話はあくまで一部にすぎません。むしろある意味10日のコメントにもあった従来どおりの主張を分量だけ増やしたっていう感じ。しかもよくよく読めば、解決のための交渉もやぶさかではないという姿勢を見せているにも関わらず、台湾側が強硬な言い方をしているかのような記事の書き方はどうにかならないかなあ。
10日に秦剛が行った「中国台湾の漁船」という発言に対して、行政院の史亞平新聞局長が「そのような言い方は歓迎できない」ってコメントしていたけど、この毎日新聞の書き方っていうのもまさにそんな感じ。いやいや、むしろ時系列を考えれば、「中国台湾の」という秦剛発言がきっかけとなって11日の主権発言が飛び出したと解してもおかしくはないよね。

これはあくまで台湾びいきなおいらの考えなので割り引いて読んでほしいのですが、台湾の尖閣諸島に対する主権の主張は大きく分けて3つの意味があると思うんです。
1つはナショナリズム的な主権の主張。これがいちばんカンタンな発想で、いちばん火がつきやすい。後述するけど馬英九なんかはこれですね。そして、とかくこのグループとして一緒くたにされやすい。しかもそれを見て受け取る側もこのタイプが多かったりする。「台湾が日本に対して主権を主張=台湾も反日」って変換ですね。こまったもんです。
もう1つは、あくまでこの海域が優良な漁場であることからの実利的な主張。つまり、尖閣諸島での漁業権益は手放しがたい、さりとて日本側に分がある以上、主権の存在を否定して「漁業権だけキープ」というのは至難の業。となればあくまで主権を主張して、ひとまず主権問題は棚上げしてキープしつつ、漁業権益の問題を先行してまとめ、一定の権益を確保してソフトランディングを図ろうっていう考え。おいらの甘い見込みかもしれないけど、先行して漁業問題でお互い納得できる結果が得られれば、主権の問題では台湾は譲歩するような希ガス。
さて、これにも絡むのだけど、最後の1つというのは台湾という「国」としてのアイデンティティを賭けた主張。1つ目と大きく異なるのは、「俺たちのものだ」という考えか「わが『国』のものだ」という考えかという点。日本や韓国だとこれがニアリーイコールなので、気がつかないかもしれないけど、台湾にとってこれは大きな違い。2つ目の漁業問題の絡みとも関係するのだけど、これまで行われてきた日台の漁業交渉というのは、決して「国と国」という立場ではないのです。日本が台湾を国として認めていない以上、おおっぴらには言っていないけれど主権争いの相手となる「国」ではないのだから、建前上主権争いのテーブルそのものが存在しないはずなんです。いやいや、霞が関の人たちには「ないことになっている」んです。台湾がことさらに主権の主張とセットで「外交交渉による解決」を訴えるのは、頼るべき隣人であるはずの日本が、交渉のテーブルの存在自体を「ないことになっている」とすることに対する悲痛な訴えとしか見えないんです。

上の毎日の記事でスレが立って中を見てみると、案の定「台湾よお前もか」みたいな話になっていて、ことのほかげんなりでっす。どうも竹島と同じ考えの人が多いみたいだし。「ハーグで決着」だなんて簡単に言うけど、そもそも国際司法裁判所のテーブルに乗るためには一定のハードルがあるんです。
「国のみが、裁判所に係属する事件の当事者となることができる」と国際司法裁判所規程に定められており、台湾のように国連に加盟していない国(国って言っちゃうよ)の場合は、国連憲章の第93条第2項で「国際連合加盟国でない国は、安全保障理事会の勧告に基いて総会が各場合に決定する条件で国際司法裁判所規程の当事国となることができる」っていうのをクリアする必要があります。中学生がプールの裏や河原に呼び出して「白黒つけようぜ」っていうのとは、根本的に違うんです。
しかもピンと来た人もいるだろうけど、当事国になるために「安全保障理事会の勧告に基いて」とある以上、常任理事国である中国が「台湾の主権に関する争い」についてその存在自体を認めるわけがない。この状態でなお、コメントの一部を切り抜いてきて印象操作して何の意味があるんだろ、毎日新聞さん。はたしてわがままな主張をしているのは台湾だけなのか。美麗島からのかくも哀しい声は、今日もメディアに叩き落されているようです。

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