天下のまわりものに振りまわされてみたりして。

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皮肉なことに、以前「西の魔女と東亜+のソース第一主義は死んだらしい。」で書いた映画『西の魔女が死んだ』を観にいった連休に、同時にまたしても東亜+のソース第一主義が試されるニュース&スレッドがやってきました。
【台湾】抗日指導者が10元硬貨の「顔」に、「蒋介石」から交代 反対意見多かったが馬政権に押し切られる[07/21]
http://news24.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1216629867/

ここで言う「抗日指導者」というのは、台湾の日本統治期の活動家、蒋渭水のこと。ここで蒋渭水+馬英九でピンと来た人は、去年の話の延長戦だと思ってください。
東亜+的に気になる単語がこの「抗日指導者」。例えばこのスレタイが「10元硬貨の「顔」、「蒋介石」から交代 反対意見多かったが馬政権に押し切られる」だったら、スレタイの印象もスレの流れもかなり違ったものになったんじゃないかと思う。それほど「抗日」とか「反日」なんていうのは、カンタンかつ危険な着火剤なんです。哀しいことに。
こういう時に気をつけなければいけないのは、蒋渭水がどんな人だったのか(抗日指導者だったのか)というのと(後述するけど)、どこでその肩書きが加わったのかということ。通常日本語版の記事であれば、事実→新聞社が記事→φ★が記事選択→φ★がスレタイ作成という3回バイアスがかかるんだけど、このスレは元記事になっているのが、レコードチャイナ。ということはレコチャイが中国本土紙(しかもこの場合「台湾網が報じた」形式なので)から訳す作業もあるので、事実→新聞社が記事→中国大手紙(レコチャイの場合新華社か人民日報が多い)が記事→レコチャイが翻訳→φ★が記事選択→φ★がスレタイ作成という最大5バイアスがかかることに。
で、探してみたんだけど、レコチャイが引っ張ってきた記事ってこれかな?
http://taiwan.huanqiu.com/society/2008-07/167813.html (環球時報)
http://www.chinataiwan.org/xwzx/bwkx/200807/t20080720_701143.htm (中国台湾網)
あ、中身の記事はいっしょです。中国台湾網が報じる→その内容をそのまんま引用する形で環球時報が報じる→レコチャイがそれを和訳。っていう流れでしょう。ここで面白いのはそれぞれの記事のタイトル。

「台湾島で新10元硬貨を発行へ 蒋介石の肖像が蒋渭水に変わる」(中国台湾網)

「台湾の新10元硬貨は蒋介石の肖像から抗日烈士に変わる」(環球時報)

「抗日指導者が10元硬貨の「顔」に、「蒋介石」から交代―台湾」(レコードチャイナ)

「【台湾】抗日指導者が10元硬貨の「顔」に、「蒋介石」から交代 反対意見多かったが馬政権に押し切られる[07/21]」(東亜+)

と、ここでもやってくれたのはやっぱり環球時報でした。これが例えば環球時報を訳してスレが立っていたら、3%くらいの確率で「はいはい環球時報環球時報」ってなったかもしれないし、中国台湾網で立っていたらまったく違うスレタイになっていただろうしね(中国台湾網でも本文に「抗日先烈」ってあったりするので気休め程度だろうけどさ)。そういう意味ではレコチャイはうまく「役割を果たした」と思うし、本文は中国台湾網も環球時報も変わらないのにタイトルとソース元で(恐らく)これだけ伸びが変わる東亜+はやはり相変わらずなんだろうね。

さて、せっかくなのでお話を蒋渭水に戻しましょ。今回めでたく環球時報によって抗日指導者となってしまった蒋渭水なんですが、一般的には「誰、それ?」だと思います。そして、ちょっと前までは恐らく台湾でも知名度は限られていたんじゃないかと推測されます(自信なし)。というのも、昨年7月の討論会(後述)で、謝長廷から国民党執政時に歴史教科書にいっさい載っていなかった言われているので。

結局何をやった人かというと、Wikipediaあたりで見てほしいんですが、1890年に宜蘭県で生まれ、現在の台湾大学医学部にあたる総督府医学校を卒業後、林献堂らと台湾文化協会を設立したり、台湾民衆党を発足させるなど、大衆教育や社会運動に取り組んだ人でした。つうかごめん、Wikipediaより「認識台湾」のほうが詳しいかもしんない。
「えー、抗日は?」っていう話になるかと思うんですが、日本統治期における抵抗運動というものの中で、東亜+の人たちがイメージする武力衝突なんかは~1920年代までで終わります。著名な霧社事件は1930年に発生した事件ですが、これは最大の規模であると同時に最後の武力抵抗事件と言ってもいいものです。むしろ、それと入れ替わるように1920年代からは、蒋渭水や林献堂みたく台湾議会の設置に奔走したり、台湾民衆党などを結成したりといった非暴力かつ実利的な運動にシフトしてるんですね。いわゆる「抗日戦線」とか「抗日烈士」っていう単語のバイオレンスなイメージとは違うんです。

となると、「伊藤博文を暗殺しただれそれ(ごめん、ど忘れしたけど調べるのめんどいからそのまんま)を高額紙幣に」という韓国と違って、妙に地味な人選はどういうことなんだろ、っていう話になると思うんですが、理由は恐らく二つあります。
一つは、40歳で病のため亡くなったという悲劇的な最期と、短期間ながら実を結んだものの多い活動内容によって台湾人から人気があること。事実、台北と彼が生まれた宜蘭を結ぶ高速道路(5号線)は、通称が「蒋渭水高速公路」だったりします。
そして二つ目としてこれと絡むんですが、恐らく馬英九がそれに目をつけちゃったということ。単純にそういう本省人に人気の人物を取り上げた、というのもあるのですがもう一つの側面については去年の今ごろに遡ります(実際には台北市長時代の2006年にもドキュメンタリー番組を作るなど下地は作っていたんですが、これ見よがしなのは去年の7月のこと)。

去年の7月9日、「蒋渭水文化基金会」が民進党の謝長廷、そして国民党の馬英九という両総統候補を招いて討論会を行ったんですが、ここで両者の蒋渭水に対する認識の違いが露呈しました。馬英九は、当時の抗日運動の指導者として蒋渭水を捉え、特に立件された際に法廷で「我々は中華民族の人間である」と言ったことが民族にとって誇らしいことだと讃えています。ここが馬英九の理論展開の嫌なところで、大陸の国民党と同時期に抗日であった中華民族ということで、また蒋渭水が国民党の秘密党員であったらしい(らしい、あくまで)ことから、いわゆる「国民党=外来政権」というカラーを少しでも払拭しようとしたんだろうね。
一方、謝長廷はというと、蒋渭水の活動を「抗日史観」で捉えてはいけないとバッサリ。むしろ台湾人として自立しようとした相手がたまたま日本であったということ。さらに、なぜ国民党政権下では教科書から消えていたのか、蒋渭水亡き後の台湾民衆党員が白色テロで命を落としたのはなぜか、と容赦ない反撃っぷり。まあそりゃね、同じ抗日でも大陸で国民党軍がドンパチやっていたのと、台湾での社会運動を一緒にしようっていうのは、無理があるというもの。
ちょっと補足の意味も兼ねて、去年の7月11日の自由時報の社説にも触れておきます。上のほうで蒋渭水が「我々は中華民族の人間である」と言った、とあるんですが、同時にこうも言っていたそうです。なお、言うまでもなく日本統治期の発言であることに留意のこと。
> 「台湾人は元は中華民族に属するが、同時に日本国民でもある。日華両国ともども密接な関係がある」
と、台湾人として日華台のトライアングルを描いているのが伺えます。また、例えば台湾民衆党の役割についての話でも、
> 「一般に、解放運動には一つの強固な組織である重厚な党があってこそ目的を達成できる」
としたうえで、例としてエジプト、トルコ、インド、フィリピン、中国と台湾を例示したそうです。この社説、下関条約後の猶予期間に台湾に残った人は、大陸を捨て台湾を選んだ人間であり、戦後に渡ってきた国民党の者たちとは一線を画すものだ、といった主張などなかなか興味深いものがありますね。
おっと脱線。まあ、そういうことが去年あったんです。おいらもすっかり忘れてました。まさかこんな形で蘇ってくるだなんて。
http://www.libertytimes.com.tw/2007/new/jul/10/today-p1-2.htm (自由時報)
http://www.libertytimes.com.tw/2007/new/jul/10/today-p1-3.htm (自由時報)
http://www.libertytimes.com.tw/2007/new/jul/11/today-s1.htm (自由時報)

おいらも眠いのでまとめたいと思います。スレタイ(というか環球時報)の「抗日」の字に踊らされちゃった人はおそらく、今回の蒋渭水の硬貨への採用は、台湾の歴史観として「反日」に持っていきたい、「反日」ということでアイデンティティや国民の支持を集めたい、とこういう風に意図を感じたんじゃないかと思います。
けれども、確かにキーワードとしては「抗日」ではあるんですが、蒋渭水が台湾人のアイデンティティとして行ったその意味と目的が、馬英九が外来政権としてのイメージを払拭し本省人への擦り寄ろうとするそれとは本質的に異なっているということは、最低限押さえておかないとならないと思います。
また、仮に馬英九が上に書いたような意図を持って人選をしたのであれば、うちら日本人がそうした意味と目的をごちゃまぜにした「抗日」や「反日」といったわかりやすすぎるフレーズで判断してしまうのは、その異なる意味と目的を(馬英九の思惑とは異なるものの、結果的に)馬英九の思惑どおり「同じもの」として考えてしまっていること、そしてそれは、(馬英九に対してはどうでもいいんですが)蒋渭水ら台湾の先人たちに対する誤認識を生んでいるということを忘れちゃなりません。

あっ!
そうか、ニュースのその後も書かなきゃいけなかった。実はこの話、お流れになりそうです。っていうかたぶん聯合報の飛ばしで終わりそうです。
このニュース、大元をたどっていくと、おそらく最初に伝えたのは20日の聯合晩報。記事の内容としては中国台湾網=環球時報=レコチャイとほぼ同じなんですが、目的が新たな偽造防止策の導入であることが書かれているほか、既に2001年から導入されている20元硬貨の「莫那魯道」(霧社事件を起こした原住民族の首謀者)とバランスが取れるといったことが書かれてますね。しかも情報の出元は「ある立法委員が中央銀行の話として」だから微妙に怪しく微妙にそれっぽいのがミソ。
案の定、その日のうちに中央銀行の彭淮南総裁が「今の10元硬貨の流通や使用を止めることはない」と発言し、決まったことではないと一蹴。翌日の聯合報ではちょっと詳しく載せていて、やはり決まってはいないものの検討段階であり、各界の意見聴取を行っている段階とのこと。ただ、その意見の中では人物を載せることには反対の意見が多く、「(蒋渭水になる)可能性は小さい」とトーンダウン。しかも新硬貨の発行時期についても彭淮南総裁は「今年は無理だね」とコメントしており、先行きはかなり不透明。
となると、今回の話は単なる聯合報の飛ばしだったのか、それとも馬英九サイドによる観測気球なのか、という邪推が働くわけですが、いずれにしても想像の域を出ることはできないようです。この話、しばらくは似たような話が耳に入っては消えていく、まるでお金のような動きが見られそうです。
http://www.udn.com/2008/7/20/NEWS/NATIONAL/NAT5/4434158.shtml (聯合報)
http://www.udn.com/2008/7/20/NEWS/FINANCE/FIN4/4434344.shtml (聯合報)
http://www.udn.com/2008/7/21/NEWS/NATIONAL/NAT5/4434745.shtml (聯合報)


★ 追記。
> まあ、そういうことが去年あったんです。おいらもすっかり忘れてました。
ごめん、大嘘つきでした。
その翌月にスレ立てしてるじゃん。あはは。
【台湾】病没して76年、再び脚光を浴びる蒋渭水 台湾人の誇りを見た~中日新聞[08/25]
http://news21.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1188055633/ (dat落ち)
http://www.libertytimes.com.tw/2007/new/aug/6/today-fo7.htm (そのスレでのレスで引用した07年8月の自由時報)

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( ´ー`)y─┛チァーパーボェー
TBありがとうございました。
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このページは、◆YAUCHInowAが2008年7月22日 02:24に書いたブログ記事です。

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