李登輝の投げた石の行く先は。

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李登輝元総統が日本にいらっしゃるとなると、どうも平穏無事な旅行にはなりえないようです。沖縄を訪問していた李登輝元総統が24日、仲井真沖縄県知事らと昼食をとった際、
> 「私にいわせれば尖閣諸島(中国名・釣魚島)は日本の領土である」
と尖閣諸島の領有権について言及したとのこと(↑は↓のスレの引用元である産経新聞から)。

【台湾】李登輝元総統、「尖閣は日本領土だ」と沖縄で表明[9/24]
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1222266774/

しかも、馬英九が尖閣諸島について「領有権を棚上げし、漁業問題の早期解決を」という見解を示してた直後なだけに、政府サイドは大慌てだろうね。いまいち誤解しっぱなしな人もいるんですが、「まずは漁業問題を」というのも、6月の聯合号の前も後も台湾サイドが変わらず言っているところ。このへんは「なんか結局変な報道が入り混じる台湾漁船と海保巡視船の衝突事件。」でも書いたんですがめんどいので引用。
> 尖閣諸島での漁業権益は手放しがたい、さりとて日本側に分がある以上、
> 主権の存在を否定して「漁業権だけキープ」というのは至難の業。
> となればあくまで主権を主張して、ひとまず主権問題は棚上げしてキープしつつ、
> 漁業権益の問題を先行してまとめ、一定の権益を確保してソフトランディングを図ろうっていう考えも見え隠れする。
馬英九がそこまで考えているかは別として、少なくともそこまで領土馬鹿は、そうそういないだろうっていうのがおいらの考えです。もっとも、李登輝元総統は、↓みたく一連の交渉意図(陳政権もやり方も否定しているような感じだなあ)をバッサリ切ってますけどね。
> 馬政権の強硬姿勢は「漁業権とは関係がなく、政治的にやっているだけ。
> (日本は)神経質にならない方がいい」と述べた。

【台湾】「日台は特別なパートナー」馬英九総統、関係強化を訴える[09/19]
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1221833557/

今回の李登輝発言は、「主権は日本にあると思う」と綱引きの最初の段階で綱を切ってしまったうえに、さらに「漁業権とは関係ない」と次のステップもバッサリやってしまいました。「漁業権のための主権」という考えすらも否定されちゃったんだけど、となると、これまで(少なくとも陳水扁政権時代は)対日的に交渉してきた漁業権はどうなってしまうんだろうか。この産経の記事だけを読むと、従来の「まずは主権を棚上げして漁業権を」という台湾側の主張は、「主権を否定しているんだから漁業権なんておとといきやがれ」となりかねない。

こういう時は、本人の話をできるだけもってくるというのが筋なんだけど、何が困ったって、今回のこの発言は日本語で話したっていうこと。日本のソースだとやたら主権の話が取り上げられてるし、台湾ソースだとどうしても翻訳バイアスが否定できない。
困った挙句、やっぱり台湾ソースから。RTIによればやっぱり日本語での挨拶の中でのことみたい。
> 「第二次世界大戦中、沖縄と台湾は密接で不可分な関係にあった。
> 今でもしばしば話題になり、沖縄の人にとっても非常に関心の高い尖閣諸島問題だが、
> 私個人の見解を申せば、尖閣諸島は日本に属するものである」
念のため書いておくと、RTIの「琉球」は「沖縄」に訳してるし、「釣魚台」は「尖閣諸島」って訳してます。李登輝元総統がどのような単語を使ったかはわかりません。

李登輝元総統はさらに、尖閣諸島周辺の良好な漁場で漁をした沖縄の人が(より近い)基隆に水揚げし、台北の市場で売って稼いでいたと説明。当時の沖縄県政府が尖閣諸島を台北州に管理を委託していたが、第二次世界大戦後に沖縄が米軍の占領下に入り、日本に復帰したのだから日本が当該海域を守るのは当然という考えですね。李登輝元総統はその上で、日本統治時代は同じ国であったため台湾側の漁師も漁を行っていた名残があるため、問題が複雑になっていると指摘しています。
じゃあその漁業権の問題については、というと、以前(総統の頃かな)日本の農林水産省に台湾と交渉する必要があると訴えた、という話をしたうえで先の政治問題発言に続いています。

この昼食会での発言には、同席した人たちもびびっただろうけど、同行のマスコミも大いに驚いたはず。次に訪れた首里城ではやっぱりこの件でマイクを向けられ、
> 「もちろん日本のものだ。そうでなければどこのものだというのか?
> 歴史上も何の記載が無く、いかなる決定や地理上の区分もない以上、台湾が「台湾のものだ」とは言うことができない」
とコメント。
東森やTVBSによれば
> 「歴史上も何の記載が無く、いかなる決定や地理上の区分もない。
> 歴史的にも永遠の事実がない以上、尖閣諸島が台湾のものだと言うのであれば
> どのようにしてそのように主張できるのか?
> とても綺麗な女性を見つけて、「あの人は俺の嫁」と言っているようなものだ。それを有効だと思うかね?
と発言したとか。あ、ごめん、「俺の嫁」はほんのちょっとだけ意訳。

http://www.rti.org.tw/News/NewsContentHome.aspx?NewsID=127076&t=1 (RTI)
http://www.libertytimes.com.tw/2008/new/sep/25/today-p5.htm (自由時報)
http://www.nownews.com/2008/09/25/91-2340084.htm (東森Now News)
http://www.tvbs.com.tw/news/news_list.asp?no=yehmin20080924141129 (TVBS)

この一覧の発言、「尖閣諸島はどういう理由でどこの国のものか」という点と「日本統治期以来の台湾・沖縄漁民の権益調整は」という二つがあると思うんですが、白か黒かしか決めようがない前者にばかり着目されてしまうのは仕方のないことなのかな。
この発言、藍系メディアを中心に反響を招くことに。聯合報は東京特派員の陳世昌が24日電で「媚日発言を行った」と伝えています。ただこの記事、
> 釣魚島は「日本の領土」であり、主権も漁業権の問題も存在しないと発言した。
と伝えているんですが、少なくとも李登輝元総統の会話文を掲載しているソースを読む限り、「主権が無いから漁業権もありえない」とまでは言ってないよ。上に書いた二つの論点のうち、後半の漁業権益の調整については、必ずしも主権に連動して0か100かではないよね。むしろ李登輝発言の主旨を汲めば、漁業権問題の解決のためや単なる外交カードとして主権の問題を持ち出すのではなく、確固たる主権主張の根拠がない以上、漁業権の問題は漁業権の問題として対応するべきだと解するのが妥当じゃない?

http://www.udn.com/2008/9/25/NEWS/NATIONAL/NAT1/4532356.shtml (聯合報)

とは言うものの、これまでの台湾側の主張は「まず主権主張ありき」だったわけで、外交部サイドの反応はどうなの?っていうことになるんですが、狙ってか狙わずかはわかんないけどこの日は馮寄台次期駐日代表の任命式。歐鴻鍊外交部長とセットでマスコミに捕まります。
まずは歐鴻鍊外交部長から、
> 釣魚台は我々中華民国の領土であり、我々政府のこの立場は非常に明らかかつ確固たるものである。
> 李登輝元総統の個人的な発言について、私が評論することは無い。
さらに馮寄台次期駐日代表は、
> 私がしばらく前に教えを請いに李登輝元総統を訪問した際には、我々はこの問題について何も話さなかった。
> 沖縄に発つ李登輝元総統を私が見送った際にも、この問題についても話はなかった。
> 釣魚台は中華民国の領土であり、私はこれは絶対に変わらないことだと考えている。
> しかし、一つ付け加えるとすれば、日本に対し、我々は日本が釣魚台を日本の領土だと考えていることを
> 理解しているし、この争いについて今後外交ルートを通じて平和的に解決したいと考えている。
とコメント。ご丁寧に外交部だけではなく、台北駐日経済文化代表処も同様の声明を発表しています。
確かに当の李登輝元総統本人が「私個人の見地から言えば(就我個人的觀點來說)」と前置きしているので、歐鴻鍊の発言も無難と言えば無難。ただ、「個人的な発言」なのに外交部長が後述のとおりコメントしたり、外交部や駐日代表処のサイトに声明を出すというのはちょっと矛盾しちゃっている気がする。また、とかく「一戦も辞さず」だけがクローズアップされ、その前の「外交交渉を重ねに重ね」が置き去りにされた劉行政院長発言を意識してか「外交ルートを通じて平和的に解決したい」という馮寄台発言も妥当と言えば妥当。
ただ、そこに越えられない壁があるとすれば、この二人がいずれも李登輝発言の「どのようにしてそのように主張できるのか?」に答えられていないというところかな。25日には歐鴻鍊が「遺憾だ」というコメントも出したけど、やっぱり中身が無くて説得力に欠ける。さすがにことこれに限って言えば「俺の嫁」は絵空事以下でしかないのだけれど。

http://www.rti.org.tw/News/NewsContentHome.aspx?NewsID=127073&t=1 (RTI)
http://www.udn.com/2008/9/24/NEWS/NATIONAL/NAT1/4531321.shtml (中央通訊社→聯合報)
http://news.chinatimes.com/2007Cti/2007Cti-News/2007Cti-News-Content/0,4521,130502+132008092500932,00.html (中国時報)
http://www.rti.org.tw/News/NewsContentHome.aspx?NewsID=127213&t=1 (RTI)
http://www.mofa.gov.tw/webapp/content.asp?cuItem=33315&mp=1 (中華民国外交部)
http://www.taiwanembassy.org/JP/ct.asp?xItem=68520&ctNode=1453&mp=202 (台北駐日経済文化代表処)

今回の李登輝発言によって、今後の日台間の交渉に一石が投じられたのは間違いないのだけれど、はたしてこれで外交部がスタンスを見直すかというとかなり厳しいと思う。
おまけに各種の報道を見てみると、呂秀蓮・前副総統が「遺憾だ」「自重してほしい」とコメント。まさか呂秀蓮がそんな餌に釣られるとはくまー。
さらに、例の聯合号の船長になぜか取材に行ったのがTVBS。本筋にまったく関係ない「日本はぐずぐずしているし何の誠意も無い、何の誠意も無いんだ」という批判からスタートし、「(李登輝元総統は)日本人なのか?台湾人なのか?日本人なら二度と台湾の金を受け取る必要は無い!」とエキサイト。きみはじつにばかだな。と思ったらこのTVBS、最後の〆めが「聯合号の衝突事件で台日関係が敏感な時期に、李登輝元総統のこのような発言は、聯合号の船長の怒りに満ちた罵倒を招いたが、実に仕方の無いことだ」という斜め上。
船長はどうでもいいとして、メディアがここまでこぞって面白おかしく取り上げているのを目の当たりにすると、今ごろ帰国しているはずの李登輝元総統に対するバッシングが起きないかとちょっと不安になります。

http://www.tvbs.com.tw/NEWS/NEWS_LIST.asp?no=aj100920080924193021 (TVBS)
http://www.tvbs.com.tw/NEWS/NEWS_LIST.asp?no=blue20080925103002 (TVBS)

船長がこれだけ盛大に釣られるのであれば、これは北京にも盛大に釣られていただいて、中台の反発は(ryと報じた共同の顔も立ててもらいたいところ。
ところが、なかなかぱっとした報道がありません。新華社は「TVBSが報じた」という中国新聞網の記事を転載する形で伝え、期待の環球時報もたいはんが中国新聞網からの切った貼った。呂秀蓮の発言こそ環球時報の名前で伝えているけど、これも上記のTVBSからの切り貼り。
中国サイドがいまいち乗ってこないのは、恐らく麻生政権誕生直後だけあって、自分が不利な問題に首を突っ込むのを避けた(特にこれを契機に東アジアガス田に飛び火して逆風が吹くことも想定できるし)というのがいちばんなのかと思います。まして台湾サイドと大きく異なるのは「これは単なる李登輝の私的な旅行での私的な発言」と片付けられないこと。だって、これまで何度となく入れてきた茶々が「すいません、あれは単なる嫌がらせでした」っていうことになっちゃうからね。「李登輝の発言にはとにかく全部に政治的意図がある」と言ってきた以上、少なくとも黙殺はできないはずなんです。かと言って聯合号事件の時と違ってしゃしゃり出るのは結構危険な賭け。あの時は対日本サイドに立つことで台湾を引き込むことができたけど、今回同じことをしようとすれば台湾の李登輝支持層まで敵に回しかねないからね。対日本という観点からも、対台湾という観点からも案外動きを封じられた今回の中国。そう考えると今回の李登輝発言は、図らずも土俵から上手く中国を排除する格好になって、これはけっこう面白いなあと思った。

http://news.xinhuanet.com/tw/2008-09/24/content_10103113.htm (新華社)
http://www.chinanews.com.cn/tw/twyw/news/2008/09-25/1393302.shtml (中国新聞網)
http://www.chinanews.com.cn/tw/twyw/news/2008/09-24/1392669.shtml (中国新聞網)
http://taiwan.huanqiu.com/news/2008-09/235986.html (環球時報)
http://taiwan.huanqiu.com/news/2008-09/236341.html (環球時報)
http://taiwan.huanqiu.com/news/2008-09/236855.html (環球時報)

★ 追記。
李登輝元総統は、台湾に帰る25日にもぶちかましてくれました。
訪日最終日となった今朝、朝食会で再び「尖閣諸島は日本の領土」と発言したそうです。なんでも昨日、駐日経済文化代表処の羅坤燦代理代表に「どういう理由で尖閣諸島が台湾の領土だと主張するのか?」と聞いたところ、「地形から判断できる」と返ってきたとか。あ、やっちゃったよこれ。案の定、李登輝元総統は「そうなると、台湾と沖縄は全て中国のものになってしまう」と一蹴。劉行政院長の発言にも触れた後で、「中国人はみんなそのような感じだ。どうしてもしたいと思ったら強引なやり方を使おうとする。しかし、世界には法律、ルールというものがあるのだ」と説いたとのこと。
さらに、2001年に治療のため訪日する前に、当時の田中真紀子外相に「何をしに来るのだ」と阻まれたことについて触れ、
> 「田中真紀子の父親は田中角栄元首相だ、任期内に中国と国交を結んだ、媚中の足元を見失った者だ。
> 父親も奇怪なら、娘もまた奇怪だ。しかし、ここ2,3年の訪日は自由になった。
> 以前は行動が制限されていたが、今は私の安全を確保すると言ってくれる。
> 彼らにはぜひとも感謝の言葉を述べたい」
と、ここ数年での日本の対応の変化について語っていました。

http://news.chinatimes.com/2007Cti/2007Cti-News/2007Cti-News-Content/0,4521,130502+132008092500931,00.html (中央通訊社→中国時報)

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