どいつもこいつも御都合主義者だ。

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そうそう、先週の後半に、「選択肢なんて、はじめっから間違えていた。」でちょっと書いていた「ブラック★ロックシューターのマグカップ(ブラック)」が届きました。
> 微妙にチャチなような気がするのがすごく悩む。
なんて書いてたけど、期待を裏切るほどにしっかりしたマグカップで、これはかえって使い道に困っちゃうなあ。

連休こそは日経ビジネスオンラインの話をしようと思っていたのに、前回の「詭弁踊りはまたの機会に。」に引き続いて台湾地位未定論のお話。そしてもっと言ってしまえば、その前の「そもそも投げ返す球なんて持ってたっけ?」から3回連続して森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』からネタを拝借するというワンパターン。
いや、本当は前回と今回は予定外で、すらーっと『夜は短し~』ネタで日経ビジネスオンラインの話につながるはずだったんですよ。伏線を張ったら常々意識しないと回収し忘れるおいらの一身上の都合です。わかりやすく言えば備忘録。これはひどいタイトルだ。

さて、「日華平和条約の行間を読めば、台湾の主権が日本から中華民国に移ったことは明らか」という安っぽい燃料を放った馬英九ですが、それを野放しにしておくこともできません。報道によれば、日本の在台湾大使に相当する齋藤日本交流協会台北事務所代表は1日に行われた講演会で、先の馬総統の発言を否定して台湾地位未定論を展開したとのこと。産経ソースで立ったスレにあるように外交部から厳重抗議があり、東京新聞によれば当該発言について
> 「個人的な見解であり、日本政府の公式見解ではない」として発言を撤回した。
とのことでした。
 【日本・台湾】台湾外交部、日本代表発言に厳重抗議[05/02]
 http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1241258817/
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009050302000066.html (東京新聞)

ここで「あれ?」と思うのは台湾地位未定論を展開することが「日本政府の公式見解ではない」と慌てて否定することなのかな?っていうところ。今回の件の余波が台湾でも残っているようですが、ひとまずはここについて。

前回も少し書いたんですが、台湾地位未定論というのは「終戦後に日本が放棄した台湾の主権は、どこにも帰属していない」というもの。これに対して馬政権が主張するのは「終戦後に日本が放棄した台湾の主権は、中華民国に帰属した」というもの。つまり、前者は「日本が主権放棄(1)→まだどこにも帰属していない(2)」で、後者は「日本が主権放棄(1)→中華民国に帰属した(3)」っていうそれぞれ2段階を踏むわけです。
ここで、産経も引用した平成17年の町村外相の答弁を再度引用すると、

○ 町村信孝:これは、日本はサンフランシスコ平和条約によって台湾を放棄いたしました。(中略)日華平和条約においては同放棄が承認をされた。ただ、その場合、どこの国に対して放棄したかは明記していないわけでございます。したがって、台湾がどこに帰属するかについて、これは専ら連合国が決定すべき問題であり、日本は発言する立場にない、これが日本側の一貫した法的な立場であります。(後略)

平成17年5月13日 第162回国会衆議院外務委員会


ということで、基本的に前者の流れに乗ってます。ただ、ひっかかるのは、前者の流れをもうちょっと解いた時に「サンフランシスコ平和条約等で日本が主権放棄(1)→日本以外の連合国に決定は委ねられてた(2-1)→とは言え決められていないので、実際にはまだどこにも帰属していない(2-2)」ってなることです。町村発言はこの(2-1)まで触れているんですがその決定については「日本は発言する立場にない」と言っている。ここでバツンと切ってしまうと、「連合国に委ねて以降、それが決まったか決まっていないかまで日本は立ち入る立場にない」と読めなくもないんですね。歴史的事実として、(2-1)→(2-2)はゆるぎない事実。さりとて、「(2-1)から先については日本は積極的に発言する立場にない」と厳しく判定すれば、(2-2)まで踏み込んだ齋藤発言は、若干の勇み足になっちゃうんです。

「おいおい、(2-1)→(2-2)なんてゆとりでもわかるジャマイカ」という声もあるでしょう。確かに日本政府の答弁を見ていても、あえて言ったり言わなかったりしているのかわかりませんが、その辺はけっこう揺れています。
あ、いきなり脱線していますが、実は過去に(1)→(3)発言をしたのが(日華平和条約発効後では恐らく)二人だけいます。まず昭和30年3月26日の衆議院予算委員会で川上貫一(日本共産党)の答弁に答えた鳩山一郎首相が、

○ 鳩山一郎:(前略)台湾は国民政府の領土であるということは認めます。しかしながら中共のものであるということを認めるわけにはいかない。(後略)

昭和30年3月26日 第22回国会衆議院予算委員会


と答えたもの。また同じく昭和30年の7月26日、衆議院外務委員会で岡田春夫(日本社会党)の質問に答えた重光葵外務大臣。

○ 重光葵:(前略)実際台湾と澎湖島を持っておるのは台湾の国民政府だから、それと平和条約を結んできたのだから、当然台湾の国民政府にこの領土は属しておるものだ、こういうふうに考えることが順序じゃないでしょうか。それが法律論というものだと思います。

昭和30年7月26日 第22回国会衆議院外務委員会


ところがこの「国民政府に領土は属している」発言について、岡田春夫から確認の声が上がります。助け舟は外務省の下田武三条約局長。

○ 岡田春夫:外務大臣の御意見は全然誤まりであります。なぜ誤まりかというと、今、国民政府に領土権が帰属すると御答弁になった。間違いありませんか、その点もう一度確かめておきたいと思います。それは間違いないなら間違ないでいいです。領土権が帰属するなら帰属するとおっしゃって下さい。(後略)
○ 下田武三:大臣が国民政府とおっしゃいましたのは、中国という抽象的なものに帰属するという点を岡田委員がおっしゃったのだろう、そう念を押されたのではないかと思いますが、私の考えを申します、サンフランシスコ平和条約で日本は樺太や千島あるいは台湾、澎湖島に対する領土権その他の請求権を放棄しております。サンフランシスコ条約は放棄したというところですべてストップであります。あとはまだ未決に残しておるわけであります。
○ 岡田春夫:そうすると今大臣のおっしゃったのと違いますね。国民政府に帰属するということではないということを今はっきり言ったわけです。サンフランシスコ条約に基いて日本は権利、権原を放棄したのであって、その帰属の関係ということはサンフランシスコ条約自体にはうたっていないし、それから日華条約においても、これはうたってあるかどうか、この点伺いたかったわけですが、日華条約において領土権がどこに帰属するとうたってあるか、私はうたっていないと思うのですが......。
○ 下田武三:日華平和条約では領土権の帰属をうたっておりません。(後略)

昭和30年7月26日 第22回国会衆議院外務委員会


これ以降、日本では(1)→(3)を公式の立場で喋った人はいないはずです。つまり、馬英九の理論に日本政府は乗っていないっていうことですね。じゃあ、(1)→(2)ラインにどこまで乗っかっているかというと、よくて(2-1)まで、稀に(2-2)まで踏み込んでいたりいなかったりといったところでしょうか。(2-2)まで踏み込んだ例としては、まず昭和46年3月18日の愛知揆一外相が衆議院外務委員会で戸叶里子(日本社会党)の質問に対して

○ 愛知揆一:(前略)しかし同時にサンフランシスコ平和条約、それから次いで日華平和条約、多数国間あるいは二国間の条約として、台湾の帰属が未決定であるということは、これは条約上一つの判こをついた証文のことばでございます。
(中略)私は、日本国政府がサンフランシスコ平和条約を忠実に守っていく立場にある限りにおいて、台湾という領域がどこの地域に帰属したということを日本の政府は主張するという立場にはないという、日本政府としてはそういう立場をとるべきであると思います。

昭和46年3月18日 第65回国会衆議院外務委員会


と答えたもの。あるいは同年7月19日の衆議院本会議で佐藤栄作首相による

○ 佐藤栄作:(前略)私はもう何度も申し上げましたように、われわれはサンフランシスコ条約でこれは権利、権原を放棄したその地域でございます。先ほど私が申しましたように、その帰属が国際的にはっきりきまったとは私はまだ認めることはできない。日本自身は、放棄したのですから、何にも言うことはございません。これだけはもう間違いのないことです。(後略)

昭和46年7月19日 第66回国会衆議院本会議


というものがあります。このあたりを見ると、日本が「どこそこに委譲する(orされる)べきだ」と主張する立場に無いことと、「どこに委譲されるか決まってない」といういわゆる未定論を展開することは両立できるようにも思えるんですね。
ただ、どうにもいわゆるアルバニア決議以降、つまり中華民国という存在がマイノリティに転落してしまって以来、政府側が未定論まで踏み込んだ例というのはちょっと見当たりません。放棄という原則まで示した上で、入り口から先は触れていないように思えます。むしろ、直で言っているのであれば教えてください。今回の騒動で、一部の人たちは先の町村発言が(2-2)まで踏み込んだものとして解釈しているようですが、それは行間を読みすぎというもの。むしろかえって馬英九と同じ力技ロジックを展開してしまっているんだけど、気がついていないのかなあ。
ちなみに、最新の政府の答弁としては、おそらく平成19年4月11日の衆議院外務委員会で麻生太郎外相が長島昭久(民主党)の質問に答えたものになるでしょう。ここにおいても、

○ 麻生太郎:(前略)日本は、御存じのように、サンフランシスコの平和条約に基づいて、台湾に対するすべての権利等々を放棄いたしております。したがって、台湾の法的地位に関して、日本として独自の認定を行う立場にはないというのが、いわゆるサンフランシスコ講和条約のとき以来の一貫したところであります。(後略)

平成19年4月11日 第166回国会衆議院外務委員会


と、きわめて限定的(というか、これだけだと(1)しか言っていないなあ)に答えてますね。

その斎藤代表、いったいどんな発言をしたのかが気になるのですが、「馬英九総統のいわゆる『日華平和条約によって台湾の主権は日本から中華民国に引き渡された』という主張に同意できないことを公にし、台湾地位未定論を展開した」(自由時報)としか報道されていないのでちょっと残念。聯合報でも「講演では、サンフランシスコ平和条約および日華平和条約により、日本が主権を放棄したことが強調され、それにより台湾の国際的地位が未定であるという」としか書かれておらず、具体的な内容まではよくわからない。これは実際に抗議を行った外交部のサイトでも同様で、「台湾地位未定論に関する主張」としか書いていません。
 http://www.libertytimes.com.tw/2009/new/may/2/today-p6.htm (自由時報)
 http://www.udn.com/2009/5/2/NEWS/NATIONAL/NATS3/4881420.shtml (聯合報)
 http://www.mofa.gov.tw/webapp/content.asp?cuItem=37960&mp=1 (中華民国外交部)

どうも報道を見る限り、斎藤代表が馬英九の主張する(1)→(3)を否定したのは間違いないでしょう。これだけで馬政権的には面目丸つぶれだよね。帰属問題は既に60年近く前に解決済み、って言いたかったのに締結相手国から「ねーよ」って言われたわけだから。
そもそも日本の選択肢としては、「独自の認定を行う立場にはない」以上、中華民国が「主権はうちにある」と主張すること自体は「そうね、その主張は理解し尊重するよ」って言うこともありえなくは無い。ところがその根拠を日華平和条約に求められてしまうと、日本の公式な解釈として「No」であることはゆるぎない。この点で斎藤代表は正しいです。
また、単に日本のスタンスをオフィシャルに求められたら「独自の認定を行う立場にはない」のだからそもそも(1)→(3)は絶対にありえない。というか「独自の認定を行う立場にはない」って言った時点で、(1)→(3)ルートは不成立だし。
恐らく斎藤代表の意図は、(1)→(2)を展開することよりもまず(1)→(3)を否定することにあったんじゃないかな。ということは、ここで「斎藤は馬理論の(1)→(3)を否定した。ということは(1)→(2)か」と台湾側が解釈して、かような批判を展開したという可能性も無くはないなあと考えてしまったり。
まあそれは想像の域を出ないんですが、仮に斎藤代表が(2-2)まで触れていたとして、そこまで従来の政府見解と異なるかって言われるとかなり難しいなあと思います。
だけど、上にも書いたように、日本は主権を放棄したという(1)に加え「独自の認定を行う立場にはない」というスタンスを示すだけでも(3)に向かうルートのフラグは折れているわけだから、それで充分だったんじゃないかなと弱気なおいらとしては思うわけです。むしろ、フラグが折れるだけに「じゃあ(1)→(2)」という前述の曲解を招きかねないくらいなんだから。その上、もしもそれ以上に(2-2)まで実際に言及していたとしたら、嬉々として持論を展開した馬英九の鼻っ柱を折るこの上ないカウンターを放ったわけですから、タイミングと場所を考えれば、それは若干力を入れすぎたようにも見えて拳のほうが心配になってくるのは仕方の無いことです。産経のように「不適切」とまでは言わないけど、「無茶しやがって」というのが正直なところ。

いずれにしても、今回の騒動の根っこをたどれば馬英九の超絶解釈にたどり着くのは間違いありません。となると、さほど事が荒立てられることは無いんじゃないかなあ。この件で、むやみやたらと波風立てることによって台日間で得られる利益なんて無いしね。日本側が解釈を変更することなんてあり得ないわけだし。むしろ、これを機に台湾で地位未定論について考える人が多くなれば馬英九の立場が危うくなることも充分ありうるわけっす。馬英九としては内心さっさと終わらせたがっているんじゃないかなあ。などと勝手に考えてしまうおいらがいちばんの楽観主義者であり、御都合主義者なのかもしれません。

★ 追記その1。(05/07 01:00)
今回の一件で抜け落ちている視点というか存在がある、という指摘を受けて、率直に「あ。そっか」と思った。途中の全部が全部を同意することはできないんですが、そのことを考慮に入れないでうだうだ書いてしまったのは、手抜かり以外の何物でもないなあとちょっと反省。少し前に「そもそも投げ返す球なんて持ってたっけ?」で、まったく逆の立場で似たような指摘を取り上げていたのにね。ちょっとどころじゃなく反省だ。

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委員長 :

このことについて、PTTにも賛否両方いろんな討論をしました。
おかげですごい勉強しました。

◆YAUCHInowA Author Profile Page:

> 委員長さん。
レスが遅くなってしまいごめんなさい。そして、アドオンの件はありがとうございました。
この話は、賛否両論あると思います。そして両方の意見が出たことも、勉強する契機になったことも羨ましく思います。いいなあPTT。
「わかったつもり」になってしまうのがいちばん危ないのだけれど、自分もまだまだ勉強が足りてないですね。本当にそう思いました。

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このページは、◆YAUCHInowAが2009年5月 5日 23:23に書いたブログ記事です。

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