馬英九が密やかに挑む国民党改革。
この兼任ですが、日本でも自民党政権時代は「総理総裁」なんて言われていたように、そこまで違和感ある話でもないなあって思ったり(不見識だって怒られちゃいそうだけど)。もっとも、日本のそれは与党の党首が行政府の長に就いているというもの。総統は、その行政府の長である行政院長を指名する国家元首だから微妙に大きく違うんですけどね。
台湾でも、というか中華民国でも、中国国民党による「以黨治國(党が国を治める)」や「以黨領政(党が政治をリードする)」時代がありました。今回再び総統が党主席を兼ねることによって、党の位置付けはいったいどうなっちゃうのか。まずは引き継ぎ前日にあたる16日の聯合報、観察站から。
昨年5月20日の政権交代以降、馬英九政府と中国国民党は、これまでずっと党と政府の活動を模索する時期にあった。既に「以党領政(党が政治をリードする)」時代には引き返せない。現在の党主席である呉伯雄を尊重するため、「党政分離(党と政治を分離する)」は推進できず、最終的には「党政分際(党と政治に境目を設ける)」を導き出すしかなかった。
この枠組みの下で、政務部門の人物は中山会報(註:中国国民党の幹部会議)や中央常務委員会に出席し、逆に党主席も月曜に行われる府院党の五人会議に出席していた。党と政府の二つの部門はあたかも権力のシーソーの両端のようであり、わずかな時間のかりそめのバランスを保っている。馬英九総統が党主席を兼任することによって、今後はこのバランスが根本的に打ち破られ、新たに再編されることになるだろう。
馬主席は全く新しい政策決定のモデルを作ろうとしている。国民党秘書長の詹春柏が呉伯雄に代わって五人会議に出席し、同心円の最も中心の円に位置することになる。さらに、その中間の円である中山会報にだんだんと広がるが、逆に中常会はほとんど形式だけの外側の円になり、馬主席が意見を聞く座談会形式になってしまうだろう。呉敦義と朱立倫が副主席を兼任しなかったことも、「強政、弱党」の傾向をさらに確立させている。今後、次世代を担う者は政治的な実績をもって一所懸命に争うこととなる。そのうえ、党が弱体化し、しばらくは代理人の争いもなくなり、府院が政治的実績を争うことにプラスとなるだろう。
もし策略をもって論じるとすれば、呉敦義と朱立倫が副主席が退いた陣容は、党内のとりとめのない話を根絶することができる。王金平はなおも立法院に座し、実力派が党中央をフェードアウトしたことにより、馬英九が党内権力を固め、党務の改革を有効に進め、選挙での指名をコントロールし、伝統的な派閥という悩みの種を脱することにプラスとなるだろう。強政弱党 馬英九主席の新たな構造 (聯合報)
今回の大会を経て、党の地位は相対的に低下するけれど、それは決して「馬英九に権力が集中し独裁化する」ということではなく(東亜+で立ててたら絶対こうなった希ガス)、一つは能力ある者を政権側に汲むことによって強化するというもの。このへんは日本でも民主党が言っている「官邸主導」に近いものがあるかもね(ただし、対行政という点ではなく、対党という点で)。そしてもう一つはここで党内改革を行わないとまずいという危機感の表れということかと。
ことに、立法院では国民党がほぼ3/4を占めながら、馬英九が就任直後から考試院と監察院の人事でつまづいたように、どうも一筋縄ではいっていません。後述の『遠見』の世論調査でも国民党の立法委員に対する評価は、58.5%が「不満足」と答えるような状況なので、年末の三合一を前に大鉈を振るう必要があると考えているのでしょう。
これについては17日の大会でも馬英九が触れています。内容を伝えている18日の中国時報から抜粋で。
馬英九総統は17日、正式に国民党主席を兼任し、「以党輔政」のシステムを稼動させた。馬英九は、年末までに党資産処理の最終的な方策を提示することを保証し、党職員の退職金と党務経費を留保するほかは、その剰余金を全て公益のために寄付することとした。今後の選挙費用は募金を主体にすることとし、今後は党として営利事業の経営を行わない。このほか、県市長選挙の選挙戦を間近に控え、馬英九は「買収や地方派閥が地方資源を独占することはしてはならない」と示し、「栄誉ある勝利」を強く求めることを指し示した。
17日の国民党第18回全国代表大会で、馬英九は「『以党領政』の時代は既に去った」と述べ、今後は党と政府は境目を作るべきだが分離してはならないとし、より緊密に党と政府が協力することにより、さらに有効な国政運営を促進せねばならないと述べた。中常会は党と政府の調整の場とし、機能をより強化する。党主席を引き継いだ後、馬英九は18日から選挙応援のスケジュールを展開し、そのトップバッターとして彰化県で県長選挙に出馬する卓伯源の決起集会で気勢を上げる予定だ。
三合一選挙戦について馬英九は強敵との戦いに触れた。一部の党員が党規に反して出馬することに対し、馬英九は語気を強めて「必ず、断固として党規の処分を与えねばならない。さもなくば党規は形骸化し、党はバラバラの砂のようになってしまう。団結の維持など言うこともできない」
地方派閥についても馬英九は次のように述べた。「地方派閥は民主政治の自然な産物であり、地域に働き民意を集め新人を抜擢することができるというプラスの機能もある。少数の派閥によるよくない習わしにならうべきではない」。一方で馬英九は「地方派閥の発展は公共の利益を上回ってはならず、地方の資源を独占してもならない」と強調した。
以前「ブラックサタデーの黒は「黒道」の黒か。」で引っ張ってきた聯合報の社論のように、地方派閥というのは今でも選挙の行方を占う重要なファクターだったりします。それは国民党にとって集票組織ではあるものの、先だっての雲林・澎湖で指摘されたように悪しき側面も持ち合わせている諸刃の剣。綱紀粛正を示したのは、地方を含めた党全体をコントロールするためにも、そして12月の選挙で勝つためにも必要だという考えの表れでしょう。
けれども、この党組織や地方派閥の問題は、民主化後もこれまで続いてきているように根が深い問題。党大会の直前に行われ、20日に遠見が発表した世論調査でも、51.7%の回答者が「馬英九が国民党主席を兼任しても、賄賂を根絶したり国民党に清廉なイメージを作ることはできない」と答え、「できる」と答えた人の割合も28.7%と、台北市長だった2005年8月に初めて国民党主席を兼ねた時の52.0%に比べて23.3ポイント落としています。まあ、仕方ないね。
さらにこの調査では、「党内の民主的改革を推進する能力があるか」と馬英九の力量についても質問しているところ、「能力がある」と答えたのは2005年の65.2%から33.5ポイント減らして31.7%、逆に「ない」と答えたのは14.7%から34.4ポイント上昇して49.1%とほぼ半数に迫っています。
党大会での弁はごもっともだと思うし、確かに喫緊の課題ではあるんだろうけど、問題の難易度とそれに対する期待感を見る限り、これはちょっと前途多難にもほどがあるように思えちゃいます。まあこれだけ温度差があると「あー、やっぱり無理だったのね」で終わっちゃいそうだから、傷を浅くするためのポーズなんじゃないかっていうヒネた見方もできちゃいそうだけど。
あ、蛇足だけどこの遠見の世論調査、いつものように「統一か独立か」の調査がある中で、「馬英九は統一・独立についてどういう立場だと考えるか」の結果の変化が面白かったので、機会があればまたいずれ。
総じて言えば、2005年8月に台北市長だった馬英九が当時最大野党であった国民党の主席を初めて兼任した際、人々は高い期待と評価を与えたものの、4年後の2009年10月に馬総統が再び国民党の主席を全面執政という優勢な状態で兼務した時には、国民の印象と評価には当時と大きな隔たりがあったということになる。その主な原因は、全体的な執政を行って以降の舵取りの能力と施政に対する評価が疑問を招いたことだ。
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