そして最後には幸せな結末を。

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前回の「運命は絶望、それとも希望。」に続いて在外被爆者のお話。

平成15年の厚生労働省健康局長通知により402号通達が見直され、被爆者が国外に出た後も支給を受けられることになりました。ただ、被爆者健康手帳の交付を海外から申請できるようになるには、さらに訴訟と法改正を重ね、平成20年まで待たねばなりません。
その間、平成18年には最高裁が402号通達の失権取扱いについて、「実質的、合理的理由がないといわざるを得ず、被上告人は、(略)引き続き健康管理手当の受給権を有していた」という高裁判決を「是認することができる」として、さらりとですが402号通達の違法性を認めています。

さて、ここで問題となるのは、402号通達によって失権取扱いとなっていた手当てについて、「どの範囲まで遡及して受給を受けられるか」という点です。前回書いた平成10年の訴訟が高裁で確定した後の平成15年、失権取扱いにより支給されなくなった手当てについては、判決から過去5年遡った平成9年12月分以降について支給されることとなりました。平成9年11月以前の手当については時効により請求権が消滅しているという考えです。
30年にわたって失権取扱いを行っておきながら5年前までかよ、という点について先鞭をつけたのは在ブラジルの被爆者でした。あ。既におわかりのとおり在外被爆者は別に朝鮮半島だけにとどまりません。10年ほど前のデータですが、厚生労働省の資料をもとに中国新聞がまとめたものによれば、アメリカに1,000人以上、日本からの移住者も多いブラジルにも150人以上がいます。この訴訟の原告も昭和30年代にブラジルに移住した日本人です。原告は、平成3年~7年に被爆者健康手帳を取得していたのですが、その後出国したため失権取扱いとなり、支給額の支払いを求めて提訴。このうちそれぞれ時効で遡った5年分までは支給されたのですが、残りの部分について裁判を継続していました。
平成19年2月に最高裁第三小法廷で出された判決では高裁判決を是認し、402号通達とそれに基づいた行政実務について「被爆者援護法等の解釈を誤る違法なものであった」とし、そのような通達が運用されていた事情の下では、消滅時効の主張は「信義則に反し許されないものと解するのが相当である」と述べています。これにより、失権取扱いにより支給が打ち切られた未払いの手当と遅延損害金(年利5%)が支払われることとなりました。これを受けて厚生労働省は平成19年4月、平成9年11月以前の未払い分についても支払いをすることとしました。

ここからが問題の「じゃあ、そもそも支給打ち切りどころか被爆者健康手帳の交付を受けなかった人や、支給認定を受けていない人はどうするの」というところ。今回の台湾人訴訟は後者の人たちですね。これについて平成19年の涌井判決は、

前記事実関係等によれば、原告らは、被爆により、他の戦争被害とは異なる特異な健康被害を被り、被爆者健康手帳の交付や健康管理手当の支給認定の申請をしていれば、その申請は認められるべき状態にあったにもかかわらず、上告人の発出した違法な402号通達が存在したため、経済面でも健康面でも負担の大きい来日をしてまで被爆者健康手帳の交付や健康管理手当の支給認定を受けようとはしなかったものであり、これによって、402号通達の失権取扱いの定めが廃止されるまで長期間にわたり原爆三法に基づく援護措置の対象外に置かれ、被爆による特異な健康被害に苦しみつつ、健康面や経済面に不安を抱えながら生活を続けることを余儀なくされ、様々な精神的苦痛を被ったというのである。

平成19年11月1日最高裁第一小法廷判決(強調は引用者)


という原告の主張に対し、

これらの事情に加えて、そもそも健康管理手当が「被爆者」の精神的安定を図ることをも目的として支給されるものであることも考慮すると、上告人の担当者の原爆三法の解釈を誤った違法な402号通達の作成、発出及びこれに従った失権取扱いの継続によって、原告らが財産上の損害を被ったものとまですることはできないことを前提として、原告らは法的保護に値する内心の静穏な感情を侵害され精神的損害を被ったものとして各原告につき100万円の慰謝料を認めた原審の判断は、是認できないではない。

平成19年11月1日最高裁第一小法廷判決(強調は引用者)


と、精神的損害を認めています。ここでちょっとややこしいのは、実はこの裁判で原告らはもともと、失権取扱い分の手当の支払いを求めるのではなく、その分を財産上の損害、つまり損害賠償として請求していました。これについては高裁で、

しかし、上記のとおり402号通達が違法と解されるのであれば、それによる失権の処理は無効というべきであるから、支給認定を得ていた控訴人らには依然として支給を求める権利が存するものと解されるのであって、損害が生じているということはできない。もっとも、控訴人らによれば、被控訴人国による時効消滅の主張が予想され、未支給分の全額の支払を受けられるかは明らかでないというのであるが、そうであるからといって、現時点で未支給分全額を控訴人らの損害と認めることはできず、また具体的な不支給分を認定し得るものでもない。
また、控訴人らは、未だ被爆者健康手帳の交付を受けていない控訴人らや、被爆者健康手帳の交付は受けたものの健康管理手当の支給認定を得ていない控訴人らについても、健康管理手当相当額の損害があるとも主張するが、具体的に支給認定の申請をしていない場合にまで健康管理手当相当額の損害が生じているものと認めることはできない。

平成17年1月19日広島高裁判決(強調は引用者)


と、ばっさり。失権取扱い期間中のについてはそれで別にちゃんとやってくださいねっていうことです。さらに広島高裁では、「訪日して手続きしたって402号通達があったから帰国すれば水の泡。徒労に終わるんだからできなかったんだ。その分の手当も損害として認めるべきだ」という主張についても認められないとしています。

涌井判決に立ち戻りますが、この判決の画期的なところは、402号通達は違法な通達であったということを明示した点と、その通達を出したことおよび継続したことが国家賠償法上違法であるとした点です。また、402号通達によって失権取扱いとなっていた場合でも、その分の手当を受ける権利があるばかりではなく(これは前述の在ブラジル被爆者訴訟判決)、手続きそのものが行われていなかったとしても、かかる違法な手続きが継続されたことによる精神的な損害を認めたことにあります。

これら平成18年から平成19年にかけて下された一連の判決を整理すると、おおよそこんな感じになります。訪日し被爆者健康手帳を取得し(これの国外取得は前述とのとおり平成20年から)、支給認定を受ければ(これの国外手続きは平成17年から)、国籍や国内外の在住を問わず各手当の支給を受けることができ、過去に失権取扱いになった分については国に訴訟手続きを経ずに請求することができる。また、支給を受けたことが無い者については、前述の方法で新たに手帳交付や支給認定手続きを行うことができるほか、402号通達がなければ被爆者として認められた者に対し、訴訟を経ることにより慰謝料を請求することとなる(実際には和解)。ってとこでしょうか。

この涌井判決で個人的にやっかいなのは、手続きを行っていない者についても慰謝料を認めたという点ではなく(いや、それもひっかかるんだけどさ)、昭和49年の福岡地裁判決の後に出された402号通達について、

402号通達発出当時、上告人の担当者は、そもそも在外被爆者に対してはこれらの法律が適用されないものとする従前の解釈を改め、一定の要件の下で在外被爆者が各種手当の受給権を取得することがあり得ることを認めるに至りながらも、なお、現実にこれらの手当の受給権が発生した後になって、「被爆者」が日本国外に居住地を移したという法律に明記されていない事由によって、その権利が失われることになるという法解釈の下に、402号通達を発出したこととなるのである。
(略)402号通達の発出の段階において、原爆二法の統一的な解釈、運用について直接の権限と責任を有する上級行政機関たる上告人の担当者が、それまで上告人が採ってきたこれらの法律の解釈及び運用が法の客観的な解釈として正当なものといえるか否かを改めて検討することとなった機会に、その職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていれば、当然に認識することが可能であったものというべきである。
(略)以上によれば、402号通達を作成、発出し、また、これに従った失権取扱いを継続した上告人の担当者の行為は、公務員の職務上の注意義務に違反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり、当該担当者に過失があることも明らかであって、上告人には、上記行為によって原告らが被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。

平成19年11月1日最高裁第一小法廷判決(強調は引用者)


と、国家賠償法上の過失を認めたこと。もともと、この判決でも昭和49年の福岡地裁判決以前の時点では、在外被爆者に保障しない運用も「漫然と違法な運用を行っていたものとまでいうことは困難」としているのですが、同判決を受けて「一定の要件の下で在外被爆者が各種手当の受給権を取得することがあり得ることを認めるに至」ったとしているわけですね。
ところが実際問題としてそれはどうだろう。敗訴したとはいえ未だ係争中の案件です。そして同判決にしたって「外国人であっても日本国内に現在するのであれば」法の対象となるというものです。確かにその時点で「そもそも国籍条項も、失権取扱いも明文化されてねえじゃん」って気がつけば御の字だった、というのがあると思うけど、切ったハンドルが最小限のものだからといって過失があったと言い切るのは厳しすぎやしないでしょうか。いや、それともおいらが行政に対して甘いんでしょうか。そうですね。ごめんなさい。
これについては四人のうち甲斐中判事が反対意見として詳しく書いているので興味がありましたらぜひ。というか、前回と今回の内容のほぼ大半はこの判決の焼き直しでっす。

3回にわたってずらずらと書いてきた中で何が言いたかったのかというと、韓国や台湾といった国外に在住する被爆者たちが65年もたってから訴訟を起こすのにはそれなりの経緯があり、それは日本の違法な行政手続きが根っこなのだからあまりわめきなさんな、ということ。いわんや「精神的苦痛」という文句を目にしてあまり騒いだりなさいますな、ということ。
br />平成19年11月1日の最高裁判決には4人の判事が名を連ねていますが、反対意見を述べた甲斐中判事が今年1月に定年で退官し、彼を最後に全員が判事席を離れたことになります。このうち裁判長を務めた涌井判事は、在任中の昨年12月に鬼籍に入っていまいました。それでも在外被爆者の手続きはまだまだ続き、終わりはまだもう少し先になりそうです。それでも、いやそれだからかな、どうしてもこう願わずにはいられません。どうか、最後には必ず幸せな結末を。

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