なんで台湾がそこまで防空識別圏の変更を嫌がるか。

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ニコニコ動画の「組曲『初メテノ音』」のsnowさんが、動画公開2周年にあたる7月1日にmp3ファイルを再配布するらしいですよ! きた! これで勝つる!



いつまでも輝きを保つ名曲というのは良いものですけれど、このブログのネタになるようなニュースというのは足が速いものばかり。はてなブックマークで「ブログ用」とタグを付けられたものが、おいらのめんどくさがり屋さんな性格によっていくつ日の目を見なかったことか。というわけで、今回はそちらの話をしますので、初音ミクの話でも、先日出た『とある科学の超電磁砲』第5巻の話でもありません。というか、そういうブログじゃないんだって何度言えb(ry

今から1ヶ月ほど前、政府が与那国島上空を縦断していた防空識別圏(ADIZ)を台湾側に広げる、というニュースがあったのですが、その頃このブログは初音ミクやら「けいおん!」やらACG一色、気がついたら言い始めた首相が変わっていたという有様でした。
 【日台】与那国島上空に設定されていた日本の防空識別圏、台湾側洋上に新境界線を引くことで日米合意[05/26]
 http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1274925043/
 【日台】 与那国島上空に設定されている防空識別圏の変更に台湾反発 「話し合いなく遺憾だ。受け入れられない」 [05/29]
 http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1275138838/

「事前ネゴもやってなかったっぽいし、このまま沙汰止みかなあ」と思っていたら、防衛省は今月24日に、25日付けで防衛省訓令を改正し、防空識別圏を与那国島の西側洋上に膨らますことを発表しました。予期せずニュースの鮮度は復活したんですが、台湾側の反応も東亜+の反応も1ヶ月前のほぼ焼き直しといった感じです。
 【日台】 防空識別圏の再設定に外交部「きわめて遺憾」と受け入れられないとの立場を示す [06/25]
 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1277470242/

さて、両スレをざっと見ても、やれ「台湾も結局反日」だとか「なんで日本の領空に防空識別圏を設定して悪いんだ」という声は散見されるんですが、台湾側がなんでこんなに強硬に反対しているかに思いを巡らせてる人が少ないのでちょいと整理。
まず、防空識別圏の意味ですが、 ぶっちゃけそこに余力を割くのもめんどいので うまく説明する自信がないのでWikipediaでぐぐれ。とまあ、そこに載っているとおり、おおよそかいつまんで書けば領空侵犯に備えてより外側で外部からの侵入をチェックする空域といったところでしょうか。ああ、ちゃんとした定義とか、飛行情報区(FIR)との関係について知りたい方はそれなりにぐぐってくだしあ。
ちなみに、Wikipediaには日本の防空識別圏の図があるんですが、これって若干間違っています。日本の防空識別圏は昭和44年8月29日付防衛庁訓令第36号「防空識別圏における飛行要領に関する訓令」で定められているんですが、その中では本土から概ね200カイリくらいの外側線と、概ね20カイリくらいの内側線が決められていて、この2つの線に囲まれた部分が防空識別圏です。Wikipediaの図は、外側線の内側を全部塗っちゃってますね。
で、しかもこの図だとあまりに抽象的すぎるので自分で地図にプロットしてみたのがこれ。結局、かなり目分量になってしまったのであまり信用しないでください。

yaguyagu101.png

さて、今回はこのうち東経123度線(正確には北緯28度14秒東経122度59分54秒から北緯23度15秒から東経122度59分55秒を結んだ線)の外側線が与那国島を南北に縦断していたことに端を発します。つまり、島の東側は日本の防空識別圏、西側は台湾の防空識別圏ってわけですね。確かに「防空識別圏≠領空」ってわけじゃないけど、住んでいる人にとっては面白いものじゃないよね。今年4月の国会でも、

○ 佐藤茂樹:(略)要するに、これが事実だとすれば、まさに紛れもない日本の領土である島の一部までしか防空識別圏に入っていないんですね。また、沖縄県の資料によれば、与那国空港の上空も防空識別圏に入っていないし、日本の領空を防衛するという観点からすると大きな問題ではないか、そのように考えるんです。(略)
○ 北澤俊美:(略)防衛大臣としての立場も含めて申し上げれば、現状は極めて不正常であるというふうに思っておりまして、与那国の皆さん方が安心して生活できるような状況に一日も早くしなければいかぬ、このように思っております。台湾との関係がございますので、関係省庁とも協力しながら、前向きに、しかもスピーディーに処理していきたい、このように思っています。

平成22年4月9日 第174回国会衆議院安全保障委員会


という公明党の佐藤議員と北澤防衛大臣のやり取りがありました。でもこれ、別に最近になって持ち上がった話じゃなくて、それこそ沖縄返還前にも、

○ 久保卓也:空の区分というとわかりにくいのですが、防空識別圏のことでありますれば、大体は米側のものを引き継いでよろしいんではなかろうか。これは台湾の防空識別圏と近接をしてちょうど一線を画しているわけでありますが、その際に問題になりますのは、御承知のように尖閣列島が中に入っているということ。それから与那国島という一番端っこの島の上を通っているということ。

昭和47年4月25日 第68回国会衆議院内閣委員会


という防衛庁の久保防衛局長の答弁もあるとおり、把握はしていたわけです。じゃあそれを正すかどうか、というとその後は結構モタモタしていて、以下ざくっと抜粋。

○ 久保卓也(防衛庁防衛局長):事務的にはADIZをどの線に引くかということについていろいろ検討いたしておりますが、やはり台湾側との関係もありますので、どういう範囲にどういう時期にそれを決定するかということはきわめて慎重に考慮しなければならないという長官の御方針で、長官が適当な時期を定める、こういうことでお預けになっております。

昭和49年5月17日 第72回国会衆議院外務委員会

○ 塩田章(防衛庁防衛局長):このADIZはいわゆる防空識別圏でございますから、このこと、いわゆる識別の圏域、識別圏をどこに置くかということでございますから、別に、何といいますか、国の領土の、あるいは領空の主権とか、そういうこととは直接関係ございませんので、いまのところこれを特に変えなければいけないというふうには感じておらない、こういうことでございます。

昭和56年3月24日 第94回国会参議院予算委員会

○ 池田維(外務省アジア局長):(略)ただいま先生御指摘の防空識別圏につきましては、これは国際法上確立した概念ではございませんで、一般に各国が自国の安全を図るために国内措置として設定しているという空域でございますが、これによって領空ないし領土の限界とか範囲を定めるような性格のものではございません。したがいまして、我が方から台湾側に対して防空識別圏の線引きの変更を申し入れるということは考えていないわけでございます。
 しかしながら、防空識別のためにとられます具体的な措置が他国の領空の主権を侵犯するということは当然許されるべきことではございません。したがって、領空侵犯が発生しました場合は、これまでも台湾との関係では、交流協会を通じまして台湾側に厳重な抗議を行っておりますし、今後とも同様な措置をとっていきたいと考えております。(略)

平成5年3月5日 第126回国会衆議院予算委員会第二分科会

○ 久間章生(防衛庁長官):(略)ただ、今おっしゃられるように、防空識別圏を、単なるそういう便宜上のものだとしても、変えたらどうだという話でございますけれども、そうなりますと台湾と交渉をしなければならないわけでございます。台湾は、要するにそこまでが向こうの防空識別圏として来ているわけでございますけれども、与那国まで来るわけじゃございませんで、そういうような、領空は、領海は領海であるわけですから。
ただ、防空識別圏はそうなっている。それを交渉しようとすると、台湾と交渉しなければならない、現実的には。ところが、台湾は中国の領土の一部ということで、その中国の言う主張を我が国としては尊重するという立場をとっております。
そういうこともございまして、かつてそういうことを内々やってみましょうというような答弁を国会でされた方もおったようでございますけれども、現実問題としてはなかなか難しいわけでございます。だから、この問題については慎重に対応していくという答弁を従来から政府はやっておるということでございますし、現実問題としては、それほどの影響は出ていないということでございます。

平成10年3月18日 第142回国会衆議院予算委員会

○ 阿南惟茂(外務省アジア局長):(略)それで、この防空識別圏につきましては、歴史的経緯で、台湾が一方的に設定したものではございません。そういうこともございますし、防空識別圏という事の性質上、もちろん住民の方々からは見直してくれという御意見があったということも承知はしておりますが、今台湾との間で政府チャネルで話すということもできませんし、今のところでこれを見直すということは考えていない、こういうことでございます。

平成10年5月13日 第142回国会衆議院外務委員会


と、ここでも「相手方が台湾」という「政府対政府の交渉を行うと、それ自体がある意味地雷」がネックになっているようで、ずるずるずると来てしまっています。「ま、そうは言っても防空識別圏と領土領空は一致しないものだしね」「領空は警戒しているしね」ということで時間が経過していたのですが、さて民主党政権誕生後はと言うと、実は前の国会で北澤大臣は沖縄選出の島尻安伊子参院議員に対し

○ 北澤俊美(防衛大臣):これにつきましては、我が国の領空又は領土の限界又は範囲を定める性質のものではない、これは一方的にそれぞれの国が定めるということで、各国が合意をしてどうこうという性質のものではないというふうに承知をいたしておりますから、そういう意味では、強い意思を持って、我が国がこのことに問題意識を強く持って変更をすると。ただ、そうはいっても今日の状況でありますから、台湾側の了解をしっかり取るというような友好的な上での解決方法というものは模索しなきゃいかぬと、こんなふうに思っています。

平成22年3月19日 第174回国会参議院外交防衛委員会


と、答えているように、上の4月の発言の以前からもかなり前向きな発言もしていました。まあ、後半は旧来の官僚チックな逃げの答弁の要素も強いですけど、それにしても従前に比べるとかなり意気が感じられます。というか、そう言っておいてあのネゴ無しの様相ですか。っていうのはあるんですけどね。
また、ことこの「地元からの要望に対して」という点においては、どうも普天間基地の問題における対地元用のカード(しかもあんまり役としてよくない)として使った節があります。5月の防空識別圏変更の動きも、普天間の「5月末まで」というので焦って動いたんじゃないか、という邪推は拭えません。
まあ、ただ図面の上での話だけで言えば、小笠原諸島なんて与那国島より人口が多いのにまるっと防空識別圏から外れているんですけどね。何やってたんですか、旧東京第2区の代議士の先生方は。って石原慎太郎でした。

と、脱線したところで、話を戻しましょうか。防空識別圏の話で同じようによく出てくるのが北方四島と竹島。どちらも日本の施政下にないことなどを理由に防空識別圏から外されています。一方で、与那国島の北東にある尖閣諸島はきちんと圏内に収まっています。これは沖縄が返還される前の年の国会でも、当時の福田外務大臣が公明党の多田省吾とのやり取りで、

○ 多田省吾:いま藤田委員も総理の答弁ということをおっしゃっているし――矢追委員の防空識別圏の問題で、竹島の場合は防空識別圏の中に入っていない、わが領土と主張しておりながら。なぜ尖閣列島だけを防空識別圏の中に、そういう紛争がありながら、また予想されながら、入れようとしているのか、その辺の明確なお答えを最後に総理からお願いします。
○ 福田赳夫:この竹島の場合と尖閣列島の場合は違うのです。竹島の場合はわが国の領土だという主張はしているが、現実に施政を行なっておらぬ、こういうことなんです。ところが、これは今度の協定で経緯度をもってはっきりしておるように、米国の施政権下に入った尖閣列島があの経緯度の中に入ってくるのです。わが国の領土が復元をされる、施政権が復元をされる、そこで完全な領土としてわが国のものになるわけなんです。ですから、ここにわれわれが防衛上の責任を持つ、これは当然だろうと思います。

昭和46年11月9日 第67回国会参議院予算委員会


と言ってますしね。ではなおのこと、「領土領空≠防空識別圏とはいえ、日本の領土で日本の施政下にある与那国島の西側が外れているのはおかしくね?」となるわけ。確かにこれは日本国内においても対外的にもすっきりするお話。でも、この日本にとって「すっきりした状態になる」ことが、台湾にとっては厄介なことだったり。というわけで、まずは5月29日の6月24日の両方の外交部コメントを訳。

一、中華民国と日本との間にある現行の防空識別圏(ADIZ)境界線は、第二次世界大戦後にアメリカ軍が琉球を占領していた期間に定められたもので、当時のアメリカ軍が「与那国島」上空を縦貫する東経123度線をもって台日間のADIZ境界線とし、線よりも東側を日本空域、西側を台湾空域として今日までずっとその線を援用し続けてきたものである。
二、このたび、日本政府は「与那国島」住民の要求によって、「与那国島」西側12カイリの領空線に加えて2カイリの緩衝帯を設置するつもりで、それを我が国との新たなADIZ境界線とし、我が方に通知をしてきた。
中華民国は、ADIZを隣接する国家として、日本側が我が方と事前に充分な意思疎通を行わなかったことに対し、政府として遺憾の意を表する。中華民国政府は、本件が我が国の主権と空域の完備に関わることであることから、日本側の今回の決定を受け入れることはできない。

日本政府が台日間の防空識別圏境界線を広げようとしていることに対する我が国政府の回答 (中華民国外交部)

日本政府が、前もって我が国と交渉を行わない状況下で、台日間の防空識別圏(ADIZ)境界線の引きなおしを6月25日から実施することを一方的に決めた動きに対して、中華民国政府は極めて遺憾であることを表明するとともに、我が国としては日本側の今回の決定を受け入れられないという一貫した立場を重ねて明らかにするものである。
なお、台日双方のADIZ範囲が与那国島上空の一部で重複するという現象が今後発生することについて、我が政府としては、当該空域における現行の関連作業方式を堅持するつもりであり、併せて我が方の航空管理および飛行の安全を確保していくものである。

日本が一方的に台日間の防空識別圏境界線を引きなおすことに対し、受け入れられないことを重ねて明らかに (中華民国外交部)


と、基本的には「何勝手に、うちの防空識別圏内に食い込ませて来てんだよ」というのが前に前に出されています。じゃあ、事前にネゴっていたら大丈夫だったかと言うと、どうも微妙だった様子。外交部コメントを挟んだ5月28日と30日の聯合報から2つの記事から抜粋して訳。

日本が防空識別圏を西側に改めようとしているが、国家安全会議の高官は27日「我が方は真っ先に、Noをはっきりと言わねばならない!」と強硬に話した。しかし、外交部と軍、国家安全会議の上層部の口ぶりは、必ずしも一致しない。「まだ、見極めと議論の段階だ」と強調し、最初の時点で日本の要求を拒絶することはしていない。
外交部副発言人の章計平は27日、日本側から要求を受けていることを裏づけした。初期段階として、交通部、国防部などの部署に文書が送られ、全体で協議を行う。しかし、現在のところ研究と議論の段階にあり、その結果をもって体外的な説明を積極的に行う。
総統府はこの件に関して控えめな距離を取っており、外交部が対応するべきだと話している。しかし、調べたところによると、国家安全会議サイドは日本の防空識別圏西側拡張について、ことは主権に関わるものと認識し、極めて敏感になっていることから、おいそれと譲歩または妥協することはできないと考えている。

高官はまた、台日が交渉過程にある中であっても、この件については譲歩の余裕が無いとして「Noと言わざるを得ず、Noを貫き通さざるを得ない!」と強調している。
いかし、国防部の趙世璋副部長は同じ27日、現在のところ関係機関で慎重に協議しているとしながらも、国家の安全あるいは国家の権益に影響を与えない範囲で、専門部署として政府の政策決定の参考に意見を具申すると述べ、「国防部は政府の政策に協力し、その取扱いに従う」と話した。
空軍将校は、この防空識別圏は形式上のものにすぎず、事実上は台日間でこれまでも暗黙の了解があったと指摘する。しかしこの将校は、「与那国島と台湾との距離はわずか110kmであることから、外交部としては日本と境界線引きなおし交渉をする際にも、日本側の『もうちょっとだけ』により我が空域と主権を損なうことを避けるため、非常に慎重にならざるを得ない」とも打ち明ける。

日本の防空識別圏拡大 国家安全会議高官「No」を貫く (聯合報)

政府が頑強になってきた。日本が防空識別圏(ADIZ)を西側に動かそうとし、与那国島西側12カイリの領空線の外側プラス2カイリに緩衝帯を設けようとしている。これに対し外交部は29日、今回の件は我が国の主権と空域の完備に関わることであり日本側の決定を受け入れることはできない、と正式に表明した。また日本側が事前に我が国に対してコンタクトを取らずいきなり宣言したことに対し遺憾の意を表した。
(略)外交部副発言人の章計平は、政府の今回の件に対する姿勢に「変更」はないと述べた。外交部、国防部、交通部など関係機関が共同で議論を重ね、国家の主権と空域の完全性を堅持しなければならないという点で認識が一致したという。全体を勘案して、政府として日本側の今回の決定を受けれることはできないとした。
わかったところによると、外交部では今回の我が国の決定に関して日本側に事前に通知を行わなかったという。ある対日交渉職員によると、日本側が我が国の声明文の言葉の使い方について「不快に覚えることがあるかもしれない」と見ているという。しかし、日本側も我が国に対して事前の交渉を行わずいきなり決定しており、両方とも「お互い様」だろうという。今後は、それぞれが思い思いの行動をし、互いに主張していくことになるだろう。

日本の交流協会台北事務所の堤尚広総務部長は、「防空識別圏は国際法に基づく折衝に拠るものではなく、各国が自ら線引きを設定するものだ」とし、日本として今回の動きについては「論評は無い」としている。
調べによると、日本側の姿勢はかなり慎重なものがあり、今回の件が日台関係に影響するまで拡大することを望んではいない。事情筋によると、日本は沖縄問題を解決するために、両国の長きに渡る暗黙の了解を壊すことを勝手に決定し、かつ事前に我が方に通知することもしなかった。これは確実に我が方の外交部に不満を与えるものである。我が方は抗議し遺憾の意を表した。日本は道理の通らなさを自ら知り、慎重に対応するばかりだ。
調べによると、外交部が29日に声明を発表して以降、亜東関係協会はただちに交流協会と緊密な連絡を取り、お互いを尊重し、これまでの実質的な暗黙の了解を維持し続けることを希望した。また、台湾と日本の交渉系統はこの事件を単一のものとして扱い、両国関係に影響を与えるようなことは望んでいない。

日本の勝手な防空識別圏移動、我が方は断固として受け入れず (聯合報)


さて、与那国島を基点として半円状に西側に拡大することが(ちなみに、最終的には島の南北の幅で西側に12+2カイリに伸ばしたいびつな形に)、はたして台湾の「主権と空域の完全性」に影響を及ぼすものなんでしょうか。むー。確かに本土への距離という点では台湾と日本とで危機感のレベルが違うとは思いますけど、台湾の東側だし少なくとも領空ではないよね。この半円部分を削ったら即死角とはちょっと思えません。むしろ代わってそこを管理するのは日本なので、台湾海峡に対する日米のリーチが若干伸びるという極少ながら利点もある。現に記事では国防部サイドは反対してないし。
となると、「主権と空域の完全性」っていうのはあれかな、「琉球も諦めていないぞ」ということなのかな? でも、だとしたら今の「暗黙の了解」状態も許されないよなあ、なんて考えていたところで5月31日の自由時報にヒントとなる記事があるのでこちらを抜粋して訳。

日本が台湾と日本の新たな防空識別圏を引きなおそうとしている件で、外交部は29日、日本側の決定を受け入れることは出来ないという立場を正式に表明した。政府筋の関係者も29日、日本は今回の件の手続きにおいて「情勢を見誤った」と明確に指摘した。台湾は、日本と釣魚台あるいは与那国島の防空識別圏に関係する問題で、協議を行うことはできるが、主権の問題においては譲歩をすることは絶対に不可能だ。
(略)党政府筋の者は、「台湾と日本は、与那国島の防空識別圏などのテーマについて腰を下ろして議論する確率がある。しかし双方の交渉は、一つの議題のみで進み譲歩があることはないだろう。釣魚台の主権などの問題を含め、全て含めて考えに入れる必要がある。そのため、これは一つの高難易度な折衝であり、短期間のうちに結論や解決を導けるものではないだろう」と指摘する。

防空識別圏、我が方は日本との協議を排除せず (自由時報)


ああそっか、そういうことか。というわけで同じ31日の聯合報に載っていた、中山大学海洋政策研究センターの胡念祖主任の投稿を抜粋して訳。こっちの方がわかりやすいかな。

(略)現在、台湾と日本との間のADIZの境界線は、日本の与那国島を南北に縦断し、島の西半分の領空は台湾側のADIZにされてしまっている。この線引きには特有の歴史的要素があるが、しかしもし我が国が与那国島を日本の領土として認めるのであれば、その不合理な点を明らかにすることができる。通常においても、我が国では既に軍の活動において日本の領空であるという意味を表明している。もし日本の要求が与那国島の領空の範囲を日本側のADIZとするというもので、半円状の範囲で示されるのであって、東経123度線のADIZ境界線の全てを西にずらすというものでければ、「友日」の大政策の方向性の中で、日本との協議を行うことを妨げるものではない。
しかしながら、与那国島と蘇澳鎮の距離はわずかに60カイリであり、日本が現に要求しているのは陸上の西側12カイリの領空プラス2カイリの緩衝帯であることを考えると、我が空軍の活動および反応する空域を大幅に減少させるものだ。したがって、我が国の譲歩する空域で最良のものは、与那国島の領空の範囲に限るというものだ。
その上、同様の理由により、我が政府は協議の中でぜひ、円状の方式により東経123度線の東側の釣魚台列嶼の領空も台湾側ADIZに組み入れるようにしてほしい。日本はこの協議に果たして同意するかどうかは、人が住み飛行場の滑走路設備や小中学校もある与那国島と、無人島の釣魚台列嶼との間でその相対的な比重を正しく見て考えることになるだろう。

台日の防空識別圏、与那国島と釣魚台を交換で (聯合報)


結論から言ってしまえば、「そんな譲歩、日本がするわけないでしょ」なんですが、尖閣問題を絡めようっていう発想は面白いですね。というか、台湾の記事を見ていると「日本との線引きの問題」という点からか、尖閣の文字が(いや、台湾だから釣魚台だけど)けっこう踊っていて引っかかってはいたんですが、そういうことですか。ECFAなどのタイミング的に、「対中国関係を慮った」というのもありそうだけれど、いくらなんでもそこまで軽重を間違えないよねえ。
つまり、今回日本の「与那国島って日本の領土だし、そこに自国の防空識別圏が入っていないっておかしいよね。だから台湾側に食い込んでいいよね、というかその部分だけ台湾も外してちょうだい」という意思は、一見して理由がある。ところがこれに対して台湾が「それもそうだね、じゃあ東経123度線を基本に、与那国の近辺だけ半円状に西に迂回していいよ。これで日本の領土上は防空識別圏に含まれるし、お互い重複しないよね」と応じるとちょっと困ったことになる。上の文中でも書かれていますが、与那国から地図の上の方に目を移すと123度線の東側に尖閣諸島が点在しています。「日本の領土の上には日本の防空識別圏を」という論理をベースに与那国の変更を認めてしまうと、既にすっぽり日本の防空識別圏に収まっている尖閣諸島の方で「それとこれとでは話が違う」と言いづらい。
だったら、この主任が言うようにダメ元で交換条件として出すか、あるいは「この線って米軍が勝手に引いたものだし、防空識別圏って領土領空とあんまり関係無いし、喉もとの防空識別圏が食い込まれるのも気持ちのいいものじゃないし、お互いこれまで比較的上手くやってきたんだから別に元のままでよくね?」と現状維持を主張するしかないんだろうね。

もちろん、こんなことはあくまでおいらの推測でしかないのですが、台湾にとって与那国島とその西側空域が防空識別圏から外されることに対する直接のデメリットがあまり感じられない以上、むしろ123度線つながりで「尖閣諸島問題との絡み」というのは結構ありうるのかなあと思っています。もっとも、そういう話をしている媒体が日本ではお目にかからないので、あんまり自信はないんですけどね。それとも、またおいらのアンテナが低すぎるのかなあ。

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