今さら菅談話の話でも。

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タイミングの外し方について定評のあるこのブログですが、2週間以上遅れて菅首相談話の話でも。
今月10日に発表された菅直人首相の内閣総理大臣談話。いろいろと言われていますがよくできた作文だと思います。日韓併合100年という節目も、時宜を得たものだと思うしね。

本年は、日韓関係にとって大きな節目の年です。ちょうど百年前の八月、日韓併合条約が締結され、以後三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。三・一独立運動などの激しい抵抗にも示されたとおり、政治的・軍事的背景の下、当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられました。

私は、歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち、自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います。痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることは出来ないものです。この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします。

このような認識の下、これからの百年を見据え、未来志向の日韓関係を構築していきます。また、これまで行ってきたいわゆる在サハリン韓国人支援、朝鮮半島出身者の遺骨返還支援といった人道的な協力を今後とも誠実に実施していきます。さらに、日本が統治していた期間に朝鮮総督府を経由してもたらされ、日本政府が保管している朝鮮王朝儀軌等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれらをお渡ししたいと思います。

日本と韓国は、二千年来の活発な文化の交流や人の往来を通じ、世界に誇る素晴らしい文化と伝統を深く共有しています。さらに、今日の両国の交流は極めて重層的かつ広範多岐にわたり、両国の国民が互いに抱く親近感と友情はかつてないほど強くなっております。また、両国の経済関係や人的交流の規模は国交正常化以来飛躍的に拡大し、互いに切磋琢磨しながら、その結び付きは極めて強固なものとなっています。

日韓両国は、今この二十一世紀において、民主主義や自由、市場経済といった価値を共有する最も重要で緊密な隣国同士となっています。それは、二国間関係にとどまらず、将来の東アジア共同体の構築をも念頭に置いたこの地域の平和と安定、世界経済の成長と発展、そして、核軍縮や気候変動、貧困や平和構築といった地球規模の課題まで、幅広く地域と世界の平和と繁栄のために協力してリーダーシップを発揮するパートナーの関係です。

私は、この大きな歴史の節目に、日韓両国の絆がより深く、より固いものとなることを強く希求するとともに、両国間の未来をひらくために不断の努力を惜しまない決意を表明いたします。

内閣総理大臣談話 平成二十二年八月十日 (首相官邸)

談話を発表する理由、歴史的事実、そしてそれに基づく態度についても、押さえるべき点は押さえて、ぼかすべき点はぼかし、道を示すべき点は示している。まあ、朝鮮王朝儀軌の所だけ、若干「あれ?」って思いましたけど。むしろ、日本として精一杯の角度でハンドルを切りつつ、しかもシフトはRじゃなくてほとんどDなのだから、不満を持つ人が韓国にいるのもいたし方ないかもね。って、え、日本にもいるんですか、はあそうですか。

この談話を発表することが取りざたされた今月の頭頃、おいらがむしろ気になっていたのは国内や韓国の反応というより、台湾の反応。100年前の日韓併合条約によって以降36年間の植民地支配が始まった、とするならば、台湾はそのさらに15年前の下関条約によって日本に割与されている。台湾から「あれ? うちは?」と思われても何ら不自然なことじゃない。その辺の懸念があまり見られなかったような気がするのが、あの騒動の不思議なところ。
13日に岡田外相は記者会見で「100年というときに、日本政府として何も言わないということはあり得ない選択だと思います」とコメントしているけど、下関条約100周年にあたる1995年の村山内閣当時(Twitterでは間違って書いてました。下関条約締結・発効とも100年後は村山内閣でした)何も無かったのは事実なわけで。これは何か言われてもおかしくないなと思っていたら、案の定。まずは11日の聯合報から抜粋で。

日本の菅直人首相が、殖民統治についてお詫びの談話を発表した後、韓国政府は日本のお詫びを受け入れると述べた。ただし李明博大統領からの公式な反応ではない。一方、我が方の外交部の陳銘政報道官は、「日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものである」という考えを述べた。
(略)陳銘政は、日本による韓国の植民地化にお詫びを示したことについて「日韓両国の事柄であるので、外交部として論評することはない」と述べた。
しかし、外務官僚は個人的な意見として、日本が第二次世界大戦の時期に植民地とした国は韓国だけではなく、「なぜ中華民国にもお詫びをしないのか?」と述べた。もし日本が本当に誠意を持っているのなら、第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国にお詫びをするべきで、そうしてこそ周囲の国が日本の誠意と善意を感じ取ることができるだろう、と話した。

第二次世界大戦の時期の植民地は韓国だけではない「なぜ中華民国にもお詫びしないのか?」 (聯合報/強調は引用者)

さて、ちょっと脱線しますが、この陳銘政発言が、思わぬ形で転載転載を重ねます。まずは、フランスの放送局RFIの中国語版が伝えた11日の記事から抜粋で。ってこれほとんど聯合報と変わらないんですけど。

日本の菅直人首相は10日、100年前に日本が韓国を併呑したことに対してお詫びを表明する談話を発表した。(略)この談話に対し、台湾外交部の陳銘政報道官は、「日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものである」とコメントした。
(略)しかし、台湾の外交部職員は非公式に不満を述べた。日本が第二次世界大戦の時期に植民地とした国は韓国だけではない。なぜ中華民国にもお詫びをしないのか? この職員は、もし日本が本当に誠意を持っているのなら、第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国にお詫びをするべきで、そうしてこそ周囲の国が日本の誠意と善意を感じ取ることができるだろう、と話した。
台湾の主要紙は11日、論評記事で菅直人(訳註:原文では「棺直人」になってるんですが、何なんですか)の談話を肯定的に捉え、「誠実な菅直人、新アジア人の印象」といったタイトルで伝えている。論評記事では、日本とアジアとの間ではなお多くの残された戦争問題があるが、日本が考えを持てば、解決することは難しくなく、問題は執政者の気持ち次第だと指摘している。

台湾政府職員:菅直人は中華民国にお詫びすべきだ (Radio France Internationale 中文版/強調は引用者)

ちなみに、この論評記事というのは、11日に聯合報東京特派員の陳世昌が伝えた「新聞眼/菅直人は社会運動出身 新アジア人の印象」です。さて、このRFIからの転載を交えて伝えたのが、12日の大陸の環球時報。ええ、例のパターンです。さすがに面倒なので大いに省略して抜粋。

(略)ある台湾"外交部"職員は、日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものであると語った。しかし、もし日本が本当に誠意を持っているのなら、「"中華民国"に向けて、また第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国に対してお詫びをするべき」と彼は話している。
(略)この談話に対し、台湾"外交部"の陳銘政報道官は、「日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものである」とコメントしている。
(略)これに対し、台湾の外交部職員は非公式に不満を述べた。日本が第二次世界大戦の時期に植民地とした国は韓国だけではなく、"なぜ中華民国にもお詫びをしないのか?" 報道によれば、この職員は、もし日本が本当に誠意を持っているのなら、第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国にお詫びをするべきで、そうしてこそ周囲の国が日本の誠意と善意を感じ取ることができるだろう、と話しているという。(以下略)

日本の韓国へのお詫びに台湾が不満:なぜ"中華民国"にお詫びしないのか (環球時報/強調は引用者)

と、聯合報やRFIでは「陳銘政報道官」と「外交部職員」の発言が明確に分かれていたのですが、環球時報の冒頭部分ではこれが一緒くたになり「外交部職員」の発言として扱われています。なにそれこわい。
もちろん、聯合報やRFIの報道で使い分けられているとはいえ、「外交部職員」の非公式発言というのが陳銘政報道官によるものではないとは言い切れません。オフレコ発言はこう書く、みたいな暗黙の了解でもあるのかな。いや、それにしても安易に同一人物に結び付けようとするのは伝言ゲームすぎるでしょ、これは。
そして極めつけはご存知レコードチャイナ。上の環球時報の内容から、という13日配信のこの記事から抜粋で。

2010年8月12日、台湾外務省の陳銘政(チェン・ミンジョン)報道官は、菅直人首相が日韓併合100年に伴い「韓国に対する植民地支配を謝罪する」談話を発表した件について、「『中華民国』および第2次世界大戦に日本の迫害を受けたすべての国に謝罪すべきだ」と述べた。仏国営ラジオ局ラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)の報道として中国紙・環球時報(電子版)が伝えた。
陳報道官は「菅談話」について、「日本の第2次世界大戦に対する反省であり、地域の平和と安全維持にとって非常に重要な効果をもたらす」と評価したものの、「日本に本当に誠意があるのなら、『中華民国』および大戦中に日本の迫害を受けたすべての国に謝罪すべきだ」と述べた。
報道によれば、台湾ではこれ以外にも日本の首相による謝罪が韓国にのみ向けられたことに不満を表す声が多い。「日本に植民地にされたのは韓国だけではない、なぜ『中華民国』に謝らない?」「すべての国に謝らなければ、日本の誠意や善意は感じられない」と言った声が水面下で高まっているという。(以下略)

「中華民国」にも謝罪しろ!「菅談話」に台湾でも不満の声―仏メディア (レコードチャイナ/強調は引用者)

やりよった。冒頭の日付からしておかしい(11日の聯合報の記事に日付は入ってないけど、おそらく10日の発言だもの)上に、「日韓両国の事柄であるので、外交部として論評することはない」と言っていたはずの陳銘政報道官が、「中華民国にも謝罪すべき」なんて発言したことになっている。
それぞれの発言をしたのは誰か、RFIと環球時報、レコチャイの3紙と、おまけで聯合報も加えてまとめるとこんな感じ。カッコ内はそれぞれの原文の表記でっす。

★ 「日本の反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範」
・RFI⇒台湾外交部の陳銘政発言人(台湾外交部发言人陈铭政)
・環球時報⇒ある台湾"外交部"の官僚(有台湾"外交部"官员)+台湾"外交部"の陳銘政発言人(台湾"外交部"发言人陈铭政)
・レコチャイ⇒陳報道官
・聯合報⇒わが外交部の陳銘政発言人(我外交部發言人陳銘政)

★ 「なぜ中華民国にもお詫びをしないのか?」
・RFI⇒台湾外交部の官僚が個人的な話として(台湾外交部官员私下)
・環球時報⇒台湾外交部の官僚が個人的な話として(台湾外交部官员私下)
・レコチャイ⇒表記無し。水面下の話として記載
・聯合報⇒外務官僚が個人的な話として(外交官員私下)

★ 「日本に誠意があるなら、関係する全ての国にお詫びをするべき」
・RFI⇒官僚(官员)
・環球時報⇒この官僚(该官员)(=台湾外交部の官僚(台湾外交部官员))
・レコチャイ⇒台湾外務省の陳銘政(チェン・ミンジョン)報道官+陳報道官
・聯合報⇒外務官僚が個人的な話として(外交官員私下)

★ 「菅談話は日韓両国の事柄であるので、外交部として論評することはない」
・RFI⇒なし
・環球時報⇒なし
・レコチャイ⇒なし
・聯合報⇒陳銘政(陳銘政)

そして、こういう分かりやすい可燃性日本語ソースが出たことにより、ニュー速+でもスレが立つわ盛り上がるわ。何でこれが東亜+でも立たなかったのか不思議で仕方ないけど、立たなくて本当によかったと思う。

【政治】「中華民国」にも謝罪しろ!...韓国のみに向けられた「菅談話」、台湾でも不満の声
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1281696781/
【政治】「中華民国」にも謝罪しろ!...韓国のみに向けられた「菅談話」、台湾でも不満の声★2
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1281706368/
そして、こうやって劣化コピーを重ねて燃えやすくなったものほど、ネットでは広がりやすく、回収しにくいんだよね。と、自省の意味も込めて。

さて、閑話休題でもう一つ聯合報の記事から。菅談話から5日後の終戦の日(いや、15日を終戦の日とするかどうかの議論はさておき)に載った署名記事から抜粋して訳。「また聯合報か」とか言わないでくだしあ。

今日は日本が降伏し、抗日戦争が終結してから65年を迎える。日本の菅直人首相は10日、韓国の植民地化という歴史上の過ちについて、初めて反省とお詫びを公に語った。(略)問題は、台湾はいつになったら同じように反省とお詫びを得ることができるのだろうか?
(略)1895年、日本は兵力により戦い、清朝を脅して下関条約を締結するよう迫った。台湾が殖民統治に見舞われる50年の悲惨な運命が始まったのだ。殖民統治により無数の殺戮略奪と文化消滅があった。しかし65年度の今日、5,000件あまりの台湾原住民族の文化財が、大阪国立民族学博物館に「秘蔵」されている。尋ねるが、台湾政府はこれまで日本側にどんな抗議をしたというのだ?
菅直人は、首相という身分で韓国に対し反省とお詫びを表明することができたのに、また殖民統治期間に「占有した」朝鮮の文化財を能動的に返還する(訳註:原文まま)ことができたのに、なぜ日本の殖民統治という同様な経験をした台湾にもできないのだろうか? もし台日間で歴史問題に対して誠意を示すことができないというのなら、このような「台日友好」にいったいどんな意味があるというのだろうか?

新聞眼/歴史に誠実に向き合うことが、台日友好の前提条件だ (聯合報)

後述のとおり、日本が台湾に対して公に謝罪することは残念ながら難しいでしょう。しかし、「アジア諸国は中韓朝だけじゃねえ!」と騒ぐ人に限って、韓国と同じ事がアジア諸国で起きていた事をほったらかしにしているのもまた事実。大阪国立民族学博物館の所蔵品の話は寡聞にして知りませんでしたが、いずれこれも解決していかなきゃいけないだろうね。
ただ、台湾に向けて談話を発表できない理由というのは、政府が公に説明することすらも憚られる訳で。いらぬ誤解が日本でも台湾でも残らなきゃいいんですけど。どうも台湾での報道を見ると延焼はしそうにない感じ。これもどう転ぶかわかんないけどね。
ということで、最後に香港の明報に11日に載った記事にその辺の理由を考察した記事があるので訳。また林泉忠っすか。

ハーバード大学フェアバンクセンターフルブライト学者、日本の琉球大学法文学部准教授の林泉忠は、日本が韓国に対し遺憾の意を表したことについて、中国への牽制に韓国を巻き込もうとするものとは関係ないと考えている。むしろ、菅直人は就任後も鳩山由紀夫前首相による中韓との友好の手法を踏襲していると考えている。日本とアメリカは関係を補修しているけれども、「中国を牽制する気配はない」という。
林泉忠は、歴史問題という荷を下ろし、アジアとの関係の障壁がなくなることを民主党が望んでいると指摘する。しかし、遺憾の意を表するか否かもその他の要素が絡んでおり、韓国と同様に日本の植民統治があった台湾にはなされていない。林は、日本による台湾の植民統治は50年間と韓国よりも長く、日本は台湾人の鎮圧もしていたと示す。しかし、日本のこうした「不公平な扱い」は、国家としての利益の所在のほか、台湾が主権国家ではないということ、北京もまた台湾を代表して謝罪を要求できないことが理由として挙げられる。
日本の中国、韓国に対する態度が異なる理由は何か? 林教授は、韓国では政府と民間がずっと歴史問題でたゆまぬ努力を重ねてきたからだと考えている。しかし中国を見ると、日本は中国を民主的国家ではないと見做しており、中国政府のスタンスも時に柔らかく、時に強硬で、民間の声も圧力を受けているため、日本は中国の要求に対してそこまで積極的ではない。また林は、歴史問題はあまり中国と日本との間の摩擦になる契機とならないと考えている。中国では2005年に大規模な反日運動が勃発したが、政府は失敗であったと考えており、日本に対する態度も軟化し、日本で安倍晋三が退陣した後は、歴史問題でも軟化している。

旅日大学教授:台湾に謝罪がない不公平さ (明報/強調は引用者)

ふむー。まずは韓国を引っ張り込みたい、っていう気持ちも日本政府にはありそうなもんだけどね。その目論見の成功率はともかくも。そういう引っ張り込みたい期待という点では、台湾って明らかに中国より韓国に近いと思う。となると、やはり台湾の場合には、一国の総理の談話として発表する相手として条件が整っていないことが痛い。今回の菅談話にしたって、朝鮮半島出身者といった単語こそ出ているものの、現在と未来について語っている部分では全て韓国が相手。38度線以北も日韓併合で日本の統治下に入ったことは事実ですが、談話の相手として北朝鮮を直接表に出すことはできない(13日の岡田外相の記者会見コメントで「その趣旨は朝鮮半島全体に及ぶと思います」ってあるけど)。北朝鮮と台湾が同じって書くのもどうかと思うんですが、そういうジレンマがあることを台湾の人は知っていてほしいし、そういう解決すべき問題があるってことを日本の人たちも知っておかなきゃいけないよね。
なーんておいらが偉そうに言えることじゃないすけど。

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