2010年9月アーカイブ

前回の「「赤さん」の話が日本どころか台湾にも広まるという「まさに外道」。」で、あえて裏を狙って「尖閣諸島の話題に荒れている時期に何訳してんすかおいら」などと書いていたら、その数時間後に那覇地検が中国人船長の処分保留を決めてしまったでござる。ちょっと癪なのでその辺の話でも。刑法刑訴法は苦手なんで許してくだしあ。というか、法律全般苦手なんですけど。

今回の那覇地検の判断である処分保留、つまり釈放後は帰国してしまうだろうから(というかしてしまったから)、実質的に不起訴になることについて随分騒いでいる人がいるようですが、那覇地検の説明要旨を見る限り、論理的には筋の通った経緯だと思います。途中まではね。
というのも、一般的に刑事事件だと検挙率だとか、あるいは刑事裁判の有罪率なんかが注目されるけど、逮捕や告訴等を受けたもので実際に起訴される数というのは意外に多くありません。一般的に警察が逮捕し、検察が立件し、それで初めて裁判がスタートするわけですが、まず警察から全ての事件が検察に送致されるわけじゃありません。刑事訴訟法第246条但し書き、いわゆる微罪処分というのがそれです。警察署には引っ張られたけど、前歴だけカウントされてそのまま帰してくれるというパターンがけっこうある。
また、検察に送られたものの全てが起訴されるわけじゃありません。別に有罪の証拠が集められないとかそういうわけじゃなくて、刑事訴訟法第248条により、当人の人柄や犯罪の程度、親告罪であれば示談の有無なんかを勘案して検察官が公訴しないことを決められるんです。起訴便宜主義ってやつです。それが問題だって言うんだったらそれは別の話になっちゃうのでここでは置いておくとして。
例えば法務省の検察統計統計表を見ての通り、平成21年の起訴率は37.5%、刑法犯に限ると18.0%しかありません。と、書くと誤解を与えそうなのでネタバレしますと、多数を占める「自動車による過失致死傷」を抜くと、刑法犯の起訴率はかなり上がって43.9%になります。完全に罪状にもよりますが、それでも2人に1人は不起訴になるんです。
完全に罪状による、というならば今回の公務執行妨害は、というと平成21年は61.3%。ここ数年は60%台で推移していますが、以前は50%を切っていたようです。これは推測ですが、あまり好き勝手に使っていくと、かえって首を絞めることにもなりかねない、という気持ちが警察検察にあるんじゃないかな。転び公妨なんて言葉もあるくらいですかね。

さて、今回の那覇地検の説明を見ると、なるほど「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた」という構成要件には当てはまっているので、海保の手続きは正当だったと言っています。一方、そこから先が検察の判断ですね。犯罪の軽重や前科等にも触れていて、そもそも「これだったらやむなしか」と言いたそうな気持ちも見えなくはないよね。
ところがここから先の発言で判断を誤った感は否めません。一つは粛々と判断すればよかったのに、「引き続きセン船長の身柄を拘置したまま捜査を継続した場合のわが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮」したと「言ってしまったこと」。もう一つは、10日間の勾留期間延長手続きまでしておいたのに、ここにきて「考慮」してしまったこと。この2つですね。
別に処分保留の判断や、その後の流れで不起訴になるというのは間違っていないと思うんですよ。那覇地検も言っているように、逮捕は正当な判断だった。国内法に基づいた手続きも粛々と進めてきた。残念だったのは、そのタイミングと余計な判断材料を口にしてしまったことです。
蛇足だけど、じゃあ口にしなければ良かったのかっていうと、そうだね、それはあるね。公務執行妨害なんて濫用が懸念される罪状で公判に臨むのを避けたいのもあるだろうし、何より万が一正式裁判になんてなったら、それこそこの船長には「日本で裁判に掛けられた」という余計な勲章まで与えられちゃうんだから、という逆方向の政治的判断すらあるしね。中国の人が考える裁判っていうのが、日本のそれと大きくかけ離れたものであってもね。

さて、例によって前置きが長くなってしまったけど、タイミングと理由という2つの残念な点について何となく触れている25,26日の中国時報のうち、まずは25日のから訳。

法律は結局、政治に抗うことはできない。2週間以上にわたって延焼し続けた中国と日本の釣魚台の漁船衝突事件は、最終的に船長の釈放という形で幕を下ろした。日本について言えば、日本は法律の前で屈服した、「民主党タカ派」と見なされていた菅直人首相や前原誠司外相は、黒星を一つ喫した。しかし彼らは、国際政治は支配力の政治であり、これまでの歴史の中でも他者より拳が強いかどうかが全てであるという事実を認めていないのは明らかだ。日中の争いは紆余曲折したが、早いうちにこうした結末は予想できた。
18日間にも及ぶ漁船衝突の争いは、2段階に分ける事ができる。第1段階は日中が理性的に交渉していた。これが約10日間続いたが、19日に中国側は制裁措置の発動を宣言するに至った。第2段階で中国は態度を硬化させた。20項目に及ぶ両国の交流を中止し、温家宝はニューヨークで「主権問題は決して譲歩しない」と述べ、日本に自らの考えのみで進まないよう警告した。これが基で争いは終局を迎えた。
これまでの釣魚台の争いの図式を見てみると、通常であれば外交的な文書を出すか、各々が主権の帰属を主張する声明を出していた。今回、日本は「法に則り処理する」ことを堅持することを選択した。海上保安庁は当初、漁船が警告を無視して「故意に衝突した」とみなし、国内法の「公務執行妨害」にあたるものとを決めた。実は、主権に争いのある(訳註:原文まま)釣魚島列嶼に「国内法」を適用させて処理することは、世界でも論拠に乏しいものである。
日本は13日に14人の船員を釈放した。これは、両国の外交的衝突を延焼させることを避けるための譲歩として捉えられた。しかし19日、日本は船長の勾留を10日間延長し29日までとし「主権を宣言した」。また、中国に対しても6回目の大使出頭要請に聞かぬふりの対応をし、北京が制裁に動くキーポイントを作ってしまった。保釣人士であろうと、また日本から「冷静に」と求められた民族主義者であろうと、この時ばかりは気持ちを落ち着かせることはできなかった。19日、中国は省部級の交流の停止を宣言、日中国交回復以降38年間で最も厳しい仲違いと見られた。
世界では、実力というものが重んじられ続けている。実力とは支配力のことである。日米両国は、あるいは今回の事件を利用して中国の戦略の深さを探ろうとしたのかもしれないが、日本が理解できていなかったのは、中国が主権や領土に関して「1mmたりとも譲ることはない」ということだった。日本が今回の事件で犯した最大のミスは、中国に対する見立てを誤り続けたことだ。この領土争いに対する中国の姿勢を見誤ったとことで、大きなダメージを負うことも恐れず、さらに制裁の発動ということになれば、日本はより多くのことを失うだろう。
日本の海上保安庁は以前、この船長に対し罪を認めるのかどうか尋ねたところ、船長は「ここで私が罪を認めれば、中華民族の罪人ということになる」とはっきりと答えたという。双方がぶつかっていた点は異なっていた。日本人は法律を重視し、法に則って処理することを求めた。しかし中国は政治的な現実をより重要視した。今回の争いは、政治の世界の実力こそが王道であることを証明してしまったのだ。
中国経済が発展を遂げて以降、アジア市場はもう日本に依存しなくなった。アメリカも中国の顔色を伺うようになった。この上、政治的な実力の面でも日本は弱体化してしまっている。今回の日中の衝突が今後の事件解決のモデルとなるかどうかはなお観察が必要だ。しかし、一つ予見できることは、釣魚台の争いを解決することは、簡単ではないということだ。

国際政治は力で押すもの 日本も屈服した (中国時報/強調は引用者)


この中国時報が冒頭で書いている一文が全てだろうなあって思うんですよね。こういう風に受け取られちゃう事がいちばん痛い。
ただ、じゃあ「中国が勝って、日本が負けた」かと言うとそうでもないとは思っていますけど。一つは、逮捕から処分保留の手続きに至るまで、いちおうは一気通貫で日本の法律に基づいて粛々と処理しているんですから、何も負けちゃいません。だからこそ、あれを「言わなきゃよかった」んです。仮に最終的に処分保留だったとしてもあの「考慮」に触れていなければ、「一中各表」じゃないですけど、「中国は中国で国内に向け外交的勝利を喧伝するし、日本は日本で国内法に基づく手続きを粛々と行った事実」が残るんだから。

なので、「これで尖閣海域に中国漁船が入ってきても取り締まれない」などと言っている人がいるようですが、そんな事はないでしょう。ネズミ捕りと一緒にするのも変だけど、同じような展開になれば今回同様粛々と捕まえればいいんです。ただ心配なのは、2回目3回目となった時に本来であれば否応無く起訴に至るはずが、今回の経緯によってかえって日和るようになっちゃうと、その時こそ負けでしょうね。だから、今回はまだ中国には負けてないんじゃないかな。オウンゴールはしているけど。

もう一つは、中国があまりになりふり構わず来てしまっていた点です。その強引さで掴んだ今回の結果を「勝ち」と中国が捉えるのであれば、それは今後諸外国からの警戒と反感を招くという部分と、国内の期待感という部分で自らハードルを上げちゃったのだから、やがて自分の首を絞める結果にならなきゃいいんだけどね。温家宝発言にしろレアアースにしろ、それからフジタの社員の件にしろアジアのメディアは経過を細やかに報じてます。それは中国が南シナ海やインドとの間で「第二の事件」を招くかもしれないという警戒感の表れなんだと思います。

だから、単に「起訴に至らなかった」という点をもって検察や政府批判を行うことは、ちょっと「おや?」って思うんですよね。この後のことを考えれば「負けた」と捉えるんじゃなくて、「日本の法律に基づいて粛々と対処した」ということを(最後がアレだけど)主張するべきなんだと思う。それでも今回の措置は生温いって言うのなら、立法府に対して領海侵犯に関する法整備を訴える方が有意義なんじゃないのかな。

ということで例によってgdgdになったけど、最後に26日の中国時報の短評から訳。

日本が中国漁船の船長を釈放する決定は、政治的考量によるものだということが強く明らかになった。しかし結局この終わり方は、新たな展開の始まりに過ぎずなお観察する必要がある。
本件での中国の態度は非常に強硬だった。多岐に渡る交流活動の停止だけではなく、温家宝・総理までもが速やかな無条件釈放を求めた。日本政府はこの緊張した局面を打開するため、前倒ししての船長釈放を決めた。しかし中国は、善意ある反応で応えるようなことをせず、かえって謝罪と賠償を求め、日本の外務省はこれを拒否している。
中国を見てみると、あたかも抗日戦争の勝利のようで、日本に対する強硬姿勢を示すことは正しい戦略だったと言える。日本が素直に釈放した結果、彼らの日本に対する恨みの民族感情を満足させることができたばかりではなく、保釣を声高に叫ぶ声にも興奮を与えた。
一方、日本の国民を見てみると、弱腰に屈服してしまったというように映り、悪い結果という評価と気弱に見える点から、日本政府は強烈な批判に晒されている。薄氷を踏むようにして代表選挙に勝った菅直人は、恐らく再び苦しい立場に追い込まれるだろう。日本政府は、自らの主権を護る努力を証明するために、釣魚台海域や南西海域を護る部署の増強に動くかもしれない。また、より進んだ態度表明をアメリカに求めることもあるだろう。
今後、もし再び中国の漁船が「合法」に釣魚台海域に来て漁を行ったら、日本はこれを阻むだろうか? もし再び衝突したら日本は逮捕するだろうか? 逮捕した後に、もし再び中国の圧力があったら日本は釈放するだろうか? 1人を釈放する事が10人や100人とならないだろうか? 日本の釣魚台に対する主権の地位は損なわれていないだろうか? これらは稀なケースであるかもしれないが、より複雑な局面の変化を招かないとも限らない。今回の争いは、始まりにすぎないのかもしれない。

短評―厄介事はうまくいったが (中国時報/強調は引用者)

今回は多少どうでもいい話でも。いや、毎回そんなもんですが。

おいらの生活圏内ではそれなりにメジャーですが、きっと世間一般ではそれほど知られてないはずの子供、「赤さん」というのを知ってるでしょうか? 「まさに外道」のあの赤ん坊です。と言えば多少は通じるかな。詳細については、ニコニコ大百科の該当項目、「赤さん」を見ていただきいところ。面倒な人は、例えばこんな画像を見れば思い出すかもしれません。

yaguyagu114.jpg

上のニコ百にもあるとおり、元々は「ふたば☆ちゃんねる」やカサマツアップローダで使われていた由緒ある画像。先月上旬、この元画像が「実は約10年前に撮影されたアメリカの子供の写真だった」ということが発覚し、しかも赤さんと父親のインタビューまで載っていたことがネットで話題になりました。内容については、アメリカのブログメディア「DadWagon」にあった記事を訳した「隙間一行」の「俺の息子が日本で・・・」を参照のこと。おいらとしても、懐かしの画像ですね。
かいつまんでしまえば、アメリカの子供の写真が日本のネットでテンプレに使われてしまっていた、というお話なんですが、なぜか台湾の自由時報がこの話題を捕らえてしまいました。19日にがつんと載ってしまったので、思い切って全文訳。

10年前、あるアメリカの父親が、生後数ヶ月になろうかという可愛いわが子の写真を自分のwebサイトにアップした。しかし、その可愛らしい乳飲み子の写真は、ネット上で転々として日本に達した。5年前には背景とテキストボックスが加わり、日本のネットユーザたちが何かを叫ぶための絶好のテンプレ素材になっていた。
10年後、この父親は不注意にもネット上でこの赤ん坊を見つけてしまった。それは日本でとても有名な「毒舌の赤ん坊」になっていた。しかし、彼は決して怒ることはなく、むしろ、もしあの子供(訳註:正しくは子供のフィギュア。上の隙間一行参照)を一つ買ってみたいと話している。当事者であり今は10歳まで成長したスティーブンは、地球の裏側で自分が有名になっている事態に、少し困惑しているようだった。

赤ん坊の父親アレンの話によれば、彼もまたコンピュータのマニアであり、2000年にインターネットがようやく一般的になり始めた時期に、自分であるWebサイトを立ち上げたという。さらにそこに我が子スティーブンの写真を載せ、説明文には「スティーブンはとても幸せな赤ん坊」と書いた。最近になり、彼はある時Googleで自分の名前を入れて検索を行ってみた。すると、赤ん坊の写真が2つのテキストボックスの間に挟まれた画像を発見した。テキストボックスには、彼の読めない日本語が書かれていた。
アメリカのブログメディア「DadWagon」には、このアレンとスティーブンの親子のインタビュー記事が掲載されている。ニューヨークタイムズもこれを報道し、この事件はネットを介して日本にも伝わった。ネットユーザたちは、「結局、誰がこのいたずらの『元凶』だったのか」を議論した。
事実、この「毒舌の赤ん坊」の本当の身分の話は、今年1月にも日本のネット上で大きな話題となった。当時、あるネットユーザが1枚の白人女児の写真を貼った。この女の子こそが「毒舌の赤ん坊」の本人であると。これには多くのネットユーザが飛び上がって驚いた。ある者が「スティーブンは男の子の名前だぞ」と反論し、「毒舌の赤ん坊は女の子」というデマは、ピタッと鳴りをひそめた。
ネットユーザの追跡調査によれば、この赤ん坊の写真でいたずらをした元凶は、著名な掲示板「ふたば☆ちゃんねる」であると推定されている。当時、多くのネットユーザが同意を得ずに無断でふたば☆ちゃんねるの画像や文章にリンクをしていたため、ふたば☆ちゃんねるは怒った勢いで赤ん坊の写真を改変したという(訳註:前掲のニコ百のとおり、画像へのリンクに対応したのはカサマツアップローダで、ふたばではない)。画像の両側の吹き出しには「こちとら慈善事業でロダやってんじゃねぇんだ」と「直リンなんかさせるかよ!(訳註:原文直訳だと、「むやみやたらにリンクさせるかよ!」になる)」という文字が入り、「まさに外道」という署名も入っていた(訳註:同じく、この改変画像はカサマツアップローダのもので、ふたばではない)。なお、この「まさに外道」という言葉は、マンガ『地獄甲子園』に由来する。後にこれが別の有名な掲示板「にちゃんねる」で爆発的に広まり、「毒舌の赤ん坊」が台詞を言い放つ画像が次々と生まれていった。ネットユーザたちは、この「毒舌の赤ん坊」に畏敬を表し、尊敬の念をこめて彼を「赤さん」と呼んでいる。

この「毒舌の赤ん坊」はかなり歴史があり広まっていることから、かつてフィギュアを売り出そうと考えた者がいたものの、誰に肖像権の話をすればいいのかもわからず、結局は沙汰止みとなったこともある。
インタビューの中で記者がアレンに「なぜあの写真が日本のコラージュ職人たちに気に入られたのだと思う?」と聞くと、アレンは笑いながら、「多分彼らは可愛い赤ちゃんの写真が好きなんじゃないかな?自分で言うのもなんだけどあの写真は可愛いし。自画自賛してるわけじゃなくただ事実としてそう思うんです(訳註:原文同旨なので隙間一行から転載)」と答えている。アレンも日本の掲示板にいくつか書き込みを行ったそうだが、彼は日本語がわからなかったので、日本のネットユーザたちからどのような反応があったかわからないという。ネットの有名人となってしまったスティーブンだが、今もっとも心配していることは、クラスメートや友人がこの事を知ってしまうことだという。もし、みんながこの話をし始めたらきっととても恥ずかしいだろうと話している。

毒舌の赤ん坊が日本中で人気 本人は10歳になるアメリカの男の子 (自由時報)


日本での流布のくだりには若干の事実誤認があるものの、極めて正確に「赤さん」の話を伝えています。なんてこった。これで「赤さん」の話は日本やアメリカに留まらず、台湾でも知られることになっちゃったわけだね。まさに外道。
というか、今年1月の「赤さん=女の子疑惑」っていうと、1月8日にニュース速報(VIP)に立った「「まさに外道」赤ちゃんの成長後wwwwwwwwwwwwwww」の話ですか? おいおいVIPPERですか、それともまとめブログの読者ですか。いずれにしても恐るべし。
いやいや何が恐ろしいかって、自由時報の記事とそのURLを見てのとおり、これ、国際面のかなりいいポジションを与えられた記事なんです。何やってんすか自由時報。そして尖閣諸島の話題に荒れている時期に何訳してんすかおいら。
前回の「あちらが立てば、こちらも立たねばならない訳で。」に続き、尖閣諸島に関するお話で。「39's Giving Day」のBlu-rayの件は、またいつか。

さて、前回も少し書いたのですが、中国の漁船「ミン晋漁5179号」の衝突に端を発したこの問題で、台湾の保釣人士たちが14日未明に尖閣海域まで船を出しました。これに付き添う形で台湾側からは海巡署の船が出て、さらに日本からも海保の巡視船が出たこともあり、現場海域には20隻近い船がいたようです。このいつも通りの「睨めっこ」に対し台湾の外交部は14日、コメントを発表するとともに記者会見を行いました。コメントについては前回拾ったとおりなのですが、今回はまず日本メディアが報じたニュースから、外交部の関係の部分だけを抜粋します。海巡署についてはごめんなさい。

(略)台湾の抗議船が当局の巡視船とともに尖閣諸島に近づき海上保安庁の警告を受けて引き返した問題で、尖閣の領有権を主張する台湾の外交部(外務省)は14日、同庁が抗議船の動きを妨害したとして日本側に抗議したことを明らかにした。海岸巡防署(海上保安庁)も、抗議船が尖閣に向かう場合は今後も同行すると明言。尖閣の火種が波及する形で日台関係が再び冷え込む可能性が出てきた。(略)

尖閣、日台関係に波及 船妨害と日本側に抗議 (日本経済新聞/強調は引用者)

沖縄・尖閣諸島(台湾名・釣魚台)に接近した台湾の抗議船が14日、海上保安庁に航行を阻止されたことについて、台湾外交部(外務省)は同日「不満を表明し、日本側に抗議した」と発表した。また改めて「釣魚台は我々の固有の領土だ」と主張した上で「共同で日台間の相互利益と長い友情を守ることを希望する」と表明した。(略)

台湾:外交部が抗議船航行阻止に「不満」 尖閣諸島接近で (毎日新聞/強調は引用者)

(略)台湾外交部の章計平報道官は、14日の記者会見で尖閣諸島は台湾の固有の領土だとしたうえで、「漁船はわれわれの海域で活動しており、日本側の妨害に抗議するとともに不満を表明した」と述べました。(略)

台湾外交部が日本側に抗議 (NHK/強調は引用者)


他にも共同電の記事なんかもありますが、まずはこの3つだけ。本当は時事通信も探していたんですけど見つからなかったんですよね。なぜこの3つの記事を引っ張ってきたかと言うと、いちばん最後のNHKにもある「記者会見」が問題だったんです。おいらは台北にいる記者の皆さんの取材姿勢を批判するような立場にありませんが、15日の台湾の主要紙は、この記者会見での日本メディアの姿勢を一斉にバッシングします。3紙続けて抜粋して訳すことにしましょうか。上から自由時報、聯合報、中国時報です。

外交部は14日、保釣船が日本側の妨害に遭った件で記者会見を開いた。台湾駐在の日本メディアの記者たちが出席し、気勢激しく迫っていた。台湾と中国とが連携して釣魚台問題で日本に対して圧力をかけているのではないか、というばかりではなく、外交部の章計平・新聞司副司長に対し、釣魚台が中華民国に属する根拠を提示するよう要求した。

日本の記者たちの態度が強硬であったことから、また台湾はなぜ釣魚船の出航させたのかとの質問もあり、一部の台湾記者から反発を招いた。会場の後方からは、「釣魚台はもともと台湾のものだ。なぜ出ていかなければならないのか!」という声も上がった。
中国漁船が釣魚台海域で日本側に拘束された事で、日中関係は緊張している。台湾はこれにやや遅れて歩調を合わせている。日本メディアは章計平に対し、双方が手を組んで日本にプレッシャーをかけているのかどうか説明を求めたが、章計平はその場では関係がないとコメントした。さらにある日本の記者は記者会見の終了後、釣魚台が台湾のものであるならば、なぜ中国漁船が当該海域で漁を行っても、台湾は日本がしているような抗議をしないのかと質問した。
これに対し章計平は、「中国大陸との事柄は両岸関係に属するものであり、その点については回答する権限と責任のある機関から回答する」と答えたところ、日本の記者は不満げに「なら、いっそのこと統一してしまえばいい」と話した。

台湾の記者は、日本の記者の横暴な態度に不快感を覚え、外交部がこうした動きに異を唱えないとなめられてしまう、と多くの記者たちが話し合っていた。

中国と台湾は連携して日本の圧力をかけているのか? 日本メディアが外交部と衝突 (自由時報/強調は引用者)

外交部が14日に行った記者会見には、数十人の日本メディア記者も入っていたが、強い語気で、順々に絶えず質問をぶつけ、中華民国は「我々の尖閣諸島」に主権はないと鋭く質疑を行った。これはその場にいた台湾の記者たちに不満をもたらし、「我々の釣魚台だ」という言葉が口を付き、会場の空気は緊張したものになった。

14日の外交部記者会見は、事前に釣魚台問題について声明を発表することが知らされていた。記者会見が始まる前から既に、日本のメディアで会場は埋まり、日本経済新聞、毎日新聞、時事通信、NHKなどが詰めかけていた。
質問が始まると、日本のメディアは相次いで釣魚台の主権について質問を行った。何度も何度も、問題となっている海域を「我々の尖閣諸島」と形容したので、会場にいたあるテレビ局のカメラマンは耐えかねて「何がお前たちのだ? 我々の釣魚台だ!」と口にした。
日本メディアは繰り返し「なぜ尖閣諸島が台湾のものだと主張するのか、その根拠は何か?」と問い詰めた。外交部の章計平・副発言人も態度を頑なにさせていき、釣魚台の主権帰属について「関係する文献や歴史的資料の中にすべて記載されている」と強調し、日本のメディアに自らそれらを参照するよう求めた。

記者会見終了後も、日本のメディアは章計平を取り囲み、「なぜ中国の漁船が尖閣諸島に入ってきてもあなた達は抗議せずに、我々には抗議するのか?」と質問を続けた。章計平は、その件は両岸関係に関わる事であり、大陸委員会と統一したコメントに拠るべきだと述べた。しかし日本メディアはこれにも納得せず「理解できない」「あなた達両岸は、いっそ統一してしまえばよい。まったく主権は無いのか」などと話した。

日本メディア「台湾に主権はないのか」質問 台湾メディアからは反論も (聯合報/強調は引用者)

(略)しかし、その後の記者会見の中で、外交部は日本の記者から厳しい声を浴びせられた。どうして中国に対しても釣魚台の主権を何度も主張しないのかと問われ、「台湾と中国はいっそ統一してしまえばいいのに」と言われてしまった。

外交部の沈呂巡・政務次長が今井正・交流協会代表を呼びだした前日、中国も釣魚台問題で日本の中国大使に4度目の呼び出しを行っていた。これは我が方が中国と共同戦線を張っていることを示しているのではないだろうか? 外交部の章計平・副発言人は、単に時系列的に見ると偶然の一致があっただけで、我が方と中国大陸は釣魚台問題における動きで「何も関係はないし、何も関わりはない」と強調した。
章計平はまた、沈政務次長が今井代表に会った際、今井代表は「非常に遺憾である」と述べただけで、我が方に「抗議を行うことはなかった」という。(略)

日本の記者が外交部と衝突:中国と台湾はいっそ統一すれば (中国時報/強調は引用者)


3紙とも同様に取り上げている(ただし中国時報は単独の記事ではなく、一連の記事の一部で)点が気になりますね。個人的な感想としては、こりゃ異常事態なんじゃないかと。いずれにせよ、記者会見がかなり殺伐とした状況であったことは間違いないようです。
これが載った15日以降、日本のメディアでこれを報じた記事が無かったので(そりゃ書きませんよ)、「じゃ立てようかな、ブログに書こうかな」と思っていたら、意外なところから日本に伝わる展開に。

2010年9月14日、台湾紙・聯合報によると、台湾外交部が同日開いた記者会見の最中、尖閣諸島問題をめぐる日本人記者の質問に台湾記者が噛みつく場面が見られた。15日付で環球網が伝えた。
記事によると、台湾外交部は事前に記者会見の要旨を「釣魚島(尖閣諸島の台湾での呼称)問題に関して声明を発表する」としていたため、会場には大勢の日本メディアが集結。日本の記者が質問の際、「我々の尖閣諸島」と発言すると、台湾記者から「お前たちのではない!我々のだ」とヤジが入るなど緊迫したムードの中で進められた。
日本の記者から「尖閣諸島を台湾領土だとする根拠は?」との質問を受けた同部の章計平(ジャン・ジーピン)副報道官も態度を硬直化させ、「関連資料や歴史的データに全て記されている。ご自分で探されたらどうか」とだけ答えた。
会見終了後、章副報道官を取り囲んだ日本の記者団から、「中国本土の漁船が尖閣諸島沖に侵入しても抗議しないのに、なぜ日本にだけ抗議するのか?」と質問が飛ぶと、同副報道官は「中台問題に関しては行政院大陸委員会の管轄だ」と返答。記事によると、これに対し日本の記者団から、「訳が分からない」「中台は統一してしまえ」などの声が上がったという。

尖閣問題めぐる日本人記者の質問に台湾記者がヤジ=外交部の記者会見で―台湾紙 (レコードチャイナ)


おおおおお。って、意外でも何でもないですよ。最近だって「今さら菅談話の話でも。」の時にやられてるじゃないですか。菅談話の時と異なり、っていう言い方をすると怒られそうですけど、聯合報→環球時報→レコチャイでも記事の内容は特に変わっていません。あ、環球時報の該当する記事は、「日媒涌进发布会质疑钓鱼岛"主权"遭台记者狠批」ですね。こちらでは中国時報の記事の一部も引用しています。

すると当然の事ながら東亜+でもスレが立つわけで。しかも伸びるわ伸びる。
 【日台】 日本記者「我々の尖閣諸島」→台湾記者「お前たちのではない!我々のだ」とヤジ...外交部の記者会見で [09/16]
 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1284637405/
 【日台】 日本記者「我々の尖閣諸島」→台湾記者「お前たちのではない!我々のだ」とヤジ...外交部の記者会見で [09/16]★2
 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1284650148/

さて、近隣諸国が日本に対して好意的ではない発言をすると忌み嫌い、メディアをことごとく叩く東亜+の皆さんはどちらの味方をするのかな、と穿った視線で見てみると......。

2 名前:<丶`∀´>(´・ω・`)(`ハ´  )さん 投稿日:2010/09/16(木) 20:44:32
>これに対し日本の記者団から、「訳が分からない」「中台は統一してしまえ」
>などの声が上がったという。

どうも、臭うな・・・。

【日台】 日本記者「我々の尖閣諸島」→台湾記者「お前たちのではない!我々のだ」とヤジ...外交部の記者会見で [09/16] (東アジアnews+板)


って、そこかよ!
見ていると、どうも「こんな事が本当にあったのか疑わしい」とか「『なぜ中国に抗議しないのか』という質問は核心を突いている」みたいなレスが目立ちますね。あ、お決まりの「本省人どうこう外省人どうこう」「親日がどうこう反日がどうこう」は別にして。
そりゃ記事の中身を妄信しないのは大事だとは思いますけど、その根拠を「中国メディアだから」「日本のメディアが報じていないから」って、おいおい。普段あれだけ日本のメディアをけなしておきながらそれはないでしょうよ。
また、「なぜ中国に抗議しないのか」というのは突っ込みどころではあるけども、「抗議する」にしても「抗議しないことを明確にする」にしても、いずれも両岸関係に大きく影響を与えるわけですから、そりゃ逃げるでしょう。北方領土にロシアビザで渡航しようとする民間人に対し「自粛」を要請するのと同じようなものでしょうか。なので、ある意味教科書通りの返答なのですから「中台は統一してしまえ」というのは「どうかなあ」というのが正直な感想。

領土が絡むとあって双方譲れない立場があるのはわかるんですが、ここまでエキサイトしたということに、台湾の主要3紙に少なくとも「そう取られた」という事に、なんとなく「おや?」と思わざるを得ません。何かボタンの掛け違いというか歯車の噛み合わなさというか、空気にあてられてしまったように見えるんですね。なんとなく。
もともとメディアの世界ではそういう空気だったのかもしれませんが、やはり「どうしてそうなった?」と感じずにはいられません。台湾の人の日本観に影響を与えないといいなあと思うと同時に、その状況が多くの日本人に伝えられていない事にも少しだけ懸念をしてみたり。

例によって無駄に長くなったので、簡潔に事の顛末を把握したい方は、「Zhenyan部落格」の「日本メディア、台湾での記者会見中「いっそ、中台が統一すればいいだろ」と発言、台湾で物議。」でどうぞ。いい加減、他のブロガーさんを頼らず書きたいものです......。

中国漁船「ミン晋漁5179号」の衝突事件ですが、予想以上に面倒な展開になってきました。とは言え、1週間もたつと経緯や中国政府の対応について的確にまとめたサイトがそこかしこにあるので助かりますです。今から追いかけたいという人は、そんな中でも「中南海ノ黄昏」の「万国の中華諸君よ、団結せよ!@不法操業船長逮捕」を見れば、時系列的にも、そして中国政府のジレンマもわかるんじゃないでしょうか。と、前フリを他サイトにお任せするおいら。

さて、中国で糞青が盛り上がれば日本でも似たような人たちが乱舞する、というのはどうやら様式美になっているようでして、東亜+のスレを見ても向こうの熱にあてられている人が山のようにいるのでした。
 【尖閣問題】船員解放「中国外交の勝利」...ネットは大騒ぎ「原爆を落とせ、ミサイルを撃て」 反日ムードが盛り上がっている[09/13]
 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1284389101/

特に不可解なのは、船長を除く船員14人が帰国したことについて、大陸側で「政府と国民の一体行動の成果」と歓喜し、日本側が「てめぇこらふざくんな」とお怒りムードな事。おいおい両方ともなんでやねん。疑いがあるのって漁業法違反と公務執行妨害でしょう? だったら船長さえいればいいわけで、というか船長ってそういう責任を負うべき人なわけで、14人も追加で拘束していたって邪魔なだけでしょう。なんて。
「中南海ノ黄昏」のタソガレさんも触れていますが、本来であれば彼ら14人もすんなり帰国できたはずなんです。例えば、今回の件と同じ7日に、台湾籍の漁船が小笠原海域で同じように海保に捕まっていますが、こちらは10日までに保釈金を支払って解放されています。

我が方の宜蘭県蘇澳鎮籍の漁船「新徳益186号」は、今月(9月)7日に日本の海上保安庁によって違法漁業の疑いで勾留されていたが、外交部および在外公館の関係者が交渉に尽力した結果、「新徳益186号」は保釈金800万円を支払った後、乗組員および船ともに本日(10日)19時までに既に解放されている。船長の林、船主の曾および7人の乗組員は全員無事であり、帰国の途についているところ。

新聞背景参考資料第083号 (中華民国外交部)


「いやいや、今回は尖閣諸島ですよ、センシティブな海域ですよ」って話もありますけど、遡れば2年前、尖閣諸島で同じく海保11管区の巡視船に衝突し、こちらは沈没までしてしまった台湾の「聯合号」の場合でも、6月10日未明の事件勃発から約1日で乗組員13人が帰国していますし(ただし精密検査を受けていた3人は除く)、あの船長も13日夜には帰国しています。いやまあこの時も台湾からいろいろ言われていますけど。となると、やはりタソガレさんも言っていますが、むしろ中国側のよくわからんハードルの上げ方によってかえってここまで長引いてしまったこと自体が、イレギュラーとも言うべきなのでしょう。繰り返しますが、日本としては逆に返すのが遅くなったくらいだと思います。自分で難易を上げて喜ぶ大陸も、必要ないのに留めておいた乗組員を帰すことに怒る日本ともどもなんでやねんって感じです。

さて、その2年前の「聯合号」事件の時には、衝突したのが日本と台湾の船だったというのに、なぜか中国外交部が「重大な関心と強烈な不満」を表明してきました。これについては「なんか結局変な報道が入り混じる台湾漁船と海保巡視船の衝突事件。」でいつもながら雑然と書いています。
立場は入れ替わって今回、言ってみれば台湾は蚊帳の外。いや、ブログ書けないぞというくらいネタが少ない。いや、それでいいんですけど。そもそも前回の中国の横槍が異常なだけで。あれは「台湾の漁船のピンチは中国のピンチ」という発想ですが、今回の場合「大陸の漁船のピンチは――」となるかと言うとそうでもない。政府としてもそこまでオフィシャルで言うには「機が熟していない」ということなのでしょう。

逆に敏感に反応したのは、「中華保釣協会」といういわゆる保釣人士と呼ばれる方々。行動する何とやらって感じでしょうか。11日には香港アモイのメンバーと共に尖閣近海に行くと発表してしまいます。こうなってくると、日本と中国との間のトラブルはさておき、「釣魚台は中華民国の領土」と謳っている以上、「国内問題」として適切に対処しなければなりません。急遽舞台に引っ張り出された外交部は、13日にコメントを出します。2件あるのですが、それぞれ訳。

一.先日来の釣魚台列嶼近海における動向について、政府は高い関心と適切な対応を続ける。外交部は既に今年8月の「日米両国が釣魚台列嶼海域附近を含む南西諸島で総合軍事演習を行おうとしている件」や「日本の衆議院安全保障委員会の委員が上空から釣魚台列嶼を視察した件」などに際しても、我が方に釣魚台列嶼の主権があるという一貫した立場をそれぞれ重ねて述べている。また、駐日代表処を通じて日本側にも強い関心と抗議の意思を伝えているものである。
二.釣魚台列嶼は我が固有の領土であり、我が国の宜蘭県頭城鎮大蹊里の行政管轄下にあり、我が主権管轄の範囲に属している。この立場は、政府が既に何度も日本側に対し厳正に伝えているものである。今回、我が国の保釣人士が釣魚台列嶼海域に行き主権をアピールする活動を行う事は、純粋に民間人の自発的な行為であり、政府としては法に基づき身の安全を確保するとともに、日本側に対して妨害を行わないよう強く求めたところである。日本側には大局的な観点に立つことを望み、両国間の相互利益の関係と長きに渡る友好が共に維持されることを望んでいる。
三.香港とマカオの人士が当該海域に向かい保釣活動を行うことについては、「香港アモイ関係条例」第14条の規定により、仮に台湾に入る香港アモイの者が許可目的以外の活動を行うのであれば、「香港アモイ住民の台湾地区進入および居留定住許可方法」の規定に違反したものとして、入出境許可の取消しあるいは廃止を行い、今後来台許可を行わないものとする。移民署は関係する規定により対処するほか、関係人物らに我が国の法律規定を遵守し法を犯さないよう求めている。

近日の釣魚台列嶼近海の動向に関し、政府は高い関心と適切な対応を続ける (中華民国外交部)

外交部代理部務の沈呂巡・政務次長は13日15時から外交部で日本の駐華代表(訳註:原文まま。最近この表現好きだな外交部)の今井正と会談した。我が国の領土である釣魚台列嶼海域で先日発生した事件について、釣魚台列嶼が我が国固有の領土であることを繰り返し厳正に述べた。我が国の人間が当該海域で活動を行うことについて、我が主権管轄に属するものであることから、我が政府は法に則って対処するとともにその安全を確保することを伝え、日本側が妨害を行わないよう求めた。また、併せて平和的で理性的な態度で関係問題に対応することも求めている。
沈政務次長はまた、日本側が公の船舶を絶えず釣魚台列嶼海域で活動させていることについて強い関心を示し、日本側が当該海域のような活動により、我が主権に関する問題に抵触するようなことがないよう求めた。
沈政務次長はさらに、台湾と日本との関係は馬英九・総統が就任して以来、大きな進展を重ねていると強調し、政府はこれを高く評価すると共に、両国の関係が強まり続けることを望んだ。
今井代表は日本側の立場を説明した。

外交部、釣魚台列嶼が我が国固有の領土であることを重ねて厳正に述べる (中華民国外交部)


とまあ、従来どおりの立場を重ねて強調しているに過ぎない、という感じでしょうか。どこの漁船かはさておき、中華民国の領土であるはずの場所で日本がかような動きをすることには牽制しますよ、って感じですかね。しかも、「固有の領土である」という主張とともに「両国とも冷静な対応を」とか「台湾と日本との関係強化を望む」といった定型文が必ずセットになるところもテンプレ通りです。というか、この展開はけっこう好きだったりします。
さて、本来であれば「中華保釣協会」は香港やマカオの活動家も参加する予定だったのですが、事前の申請内容と合致しなければダメ、という事になり、また外洋に出るには漁業関係者でないとダメ、という事で、台湾のメンバーも削られて結局東シナ海ふたりぼっちに。参考までに13日の聯合報から訳。

台湾・香港・マカオの保釣人士たちは、13日にも台北県の野柳港から出航する。海巡署は12日、釣魚台列嶼は我が国の領土であることを強調しつつも、娯楽漁業管理方法の規定に従い、海釣船の活動区域が海岸から24カイリを越えたら、農業委員会から処罰されるだろうと述べた。
洋巡総局は、「洋巡総局としては保釣人士たちが出航する前の行動に干渉することはできないが、出航後の実際の行動が申請内容と一致しなければ、娯楽漁船管理方法に違反したとして罰することになる」と述べた。

海巡署:海釣船が海岸から24カイリを越えたら罰する (聯合報)


さて困ったのが海巡署。本当は外交部のコメントとこの規定で終わればよかったのに、それでも現地に行こうとする人がいるんだもの。しかも、どう見ても「お前、海の男ちゃうやろ」というおじさん2人が、「尖閣近海で海釣りをする」と言うわけですから。
立場的には「我が国固有の領土」と言わざるをえない。そう言っている以上、また渡航を止める理由も無い以上、国民の安全を守るのが使命なのだから、なるたけ穏便に終わるよう付いていかなければなりません。どこの国でもこのへんの構図は一緒のようですね。むしろ、こういう活動ができるというだけ大陸よりも自由な国、という証拠なんでしょうか。というわけで14日の聯合報から抜粋して訳。

(略)海巡署海洋巡防総局の林星亨・副総局長は、「法に則り、国民の海上での活動の安全を確保する。すでに臨機応変に対応できる計画を緻密に完成させている」と強調する。海巡署では普段、台湾東北海域で2から3隻の巡防艇を巡視することで固定しているが、今回は権限の委譲を行い、巡防艇の指揮官が海上の状況を見ながら随時対応することにしている。
少なくとも11隻の大小の艦艇を一定の距離内に置いて護衛し、必要な際には随時救援に駆けつけ、艦艇の上では海巡署の特勤人員が随行して状況に対応するという。(略)

台湾保釣船が出航 海巡署の艦艇が随行 (聯合報)


海巡署の船は、国土を守るのではなく国民の生命と安全を守るために随行したので、当然のことながら日本の海保と戦う気満々というわけではありません。いや、表に出さないだけなのかもしれないですけど。そしていつものように保釣人士も、尖閣海域で泳いだり釣りしたりすることもなく戻ってきているのでした。ある種どこまでも予定調和な展開で、いつまでも乗組員を引っ張ったり、気がついたら戴秉国に朝駆け食らったりという対中国サイドの斜め上展開には及ばないのでありました。
とかなんとか書いているところに、問題の保釣船による尖閣諸島遊覧に関して台湾の外交部がコメント。日本の紙面を見ると「外交部が抗議」とあるのでどうしたものかと思って外交部のサイトから訳。

一.我が漁船「感恩99号」が9月14日、釣魚台列嶼の南西23カイリで日本政府の船に妨害され、また我が海巡署の船も睨み合う形になったことについて、我が政府は強く不満を表明する。外交部は既に事件発生後ただちに日本側に抗議を表明している。
二.ここで再び厳正に申し上げるが、釣魚台列嶼は我が国固有の領土であり、当該海域におけるいかなる我が船舶の活動も、我が主権の管轄に属するものである。日本側には大局的な観点に立つことを望み、両国間の相互利益の関係と長きに渡る友好が共に維持されることを望んでいる。

我が漁船が釣魚台列嶼海域で日本側の妨害に遭った件につき、外交部は日本側に抗議するとともに、我が固有の領土であることを重ねて伝えた (中華民国外交部)


っておい、二の後段の文章「盼日方自全局著眼,共同維護兩國間互利關係及長久之友誼」って、13日の新聞稿の二の最後の文章と一言一句同じじゃないですか。保釣人士の行動に始まり、外交部のコメントまでテンプレ化しているとなると、この「外交部が抗議」という記事を受けて「 所 詮 敵 国 」などといった言葉が並ぶ掲示板の書き込みすらも、なんだかコピペのように思えてくるというものです。っていうかあれは流石にコピペだけどね。......そうだよね?

★ 追記(09/17 01:50)
保釣人士の動きと外交部の動きの時系列がわかりにくいと言われたので、少し順番を整理しました。すいませんでした。
今回は簡易更新でっす。まあ捻ったって何も面白くならないんですけど。

2日の自由時報に、「台湾の元軍事情報局副処長が、日本のメディアのインタビューを受けた」という記事があったので、これをいつものように適当に訳。この「日本のメディア」というのは、4日に発売になった講談社の「G2」です。朝日新聞の台北支局長だった野嶋剛さんがインタビュアーで、タイトルは『中国スパイへの「鎮魂」』みたい。本当はそのまま2日のうちにスレ立てすりゃよかったんですが、延び延びになっているうちに当該雑誌の発売日を迎え、気がつけば既に5日が経過していたのでありました。なんといういつも通り。
てっきり自由時報の取材も本人が受けたのかと思ったんですが、編集長の藤田さんのTwitterを見ると、こちらはインタビュアーの野嶋さんが受け答えをされたみたいですね。

G2次号掲載「中国スパイの告白」。台湾ナンバー1の新聞「自由時報」のインタビューを受ける筆者、野嶋剛氏。 http://tweetphoto.com/42301047

http://twitter.com/YFYF3/status/22499797244 (Twitter)


若干、どころかかなり雑誌の宣伝チックなエントリですが、面白そうな内容なので未読の方はぜひ。って、ここまで書いておいてそもそもおいら自身が未読と言う罠。

元軍事情報局副処長の龐大為は先日、日本のメディアのインタビューを受け、30年来にわたって携わった両岸の情報活動の秘密について語った。龐大為は、両蒋時代(訳註:蒋介石・蒋経国の時代)の軍事情報局は、「中国との戦争状態に置かれていた」軍事情報局であったと話し、情報の活用の基本には非常に熱心だったという。その後、李登輝時代と陳水扁時代になると「政治的対立の道具に変わった」と言い、現在の馬英九政権下でも、軍事情報局に対して全く関心を持っていないようで、長きにわたる伝統を有する軍事情報局も、現在の存在意義が問われており、台湾の中国に対する諜報戦争はだんだんと冬眠の時期に入りつつあるという。

インタビューの内容は、9月4日に発売される日本の政論雑誌「G2」で公にされる。龐大為はこれまでに数回、偽名を使って中国に潜入して重要人物と接触し情報を得てきたことがある。2000年に一線を退いた後は、中国の元将校である劉連昆にどのように接触したかを書いた「情報作戦参考」を出版した。これにより台湾の司法当局から国家防衛機密漏洩罪で起訴され、2007年に1年半の刑を言い渡されるも、執行猶予を受け、その後台湾での生活に監視の目を覚えるようになりフィリピンに移り住んでいる。
龐大為と接触した中国人民解放軍総後勤部の劉連昆少将は、1999年3月に中国当局によって逮捕され、同年8月に死刑判決を受けた。処刑された当時は、「人民解放軍の歴史上、最高位のスパイ」として知られていた。

龐大為によれば、彼の30年間の対中国情報工作人生の中で、最も価値があり最も印象に残った3件の重要な情報があるという。1つは中国の「九三一会議」関係の情報だ。1993年1月、中国共産党中央軍事委員会は、軍事力を東シナ海、南シナ海、インドとの国境地帯に投入し、片やアメリカの第七艦隊を牽制し、片やインドを警官することを決定した、というものだ。2つ目は1997年2月に鄧小平危篤という情報を確実に掴み、2月19日の鄧小平死去の情報も入手したことだという。3つ目は1996年の台湾海峡危機の際に中国の「連合九六一」軍事演習の情報を把握し、李登輝が初めて台湾の民選総統となった圧倒的な勝利を直に導いたことだという。

龐大為はまた、台湾には多くの中国スパイが潜伏しているとも指摘している。台湾も多くの人数を捕まえてはいるけれども「依然として雨後の筍のようであり、捕まえきれない」という。最近では中台関係が改善したこともあり、中国の観光客やビジネスマンたちが続々と台湾に入ってきているが、その中には当然のことながら情報活動を行う人物も大勢いるという。しかし台湾の軍事情報局は、以前の5,000人から2,000人に変わってしまっていて、予算も40億元から現在は10数億元になっており、現状では台湾に入ってきている大陸の人間を細かに徹底調査する手立てがないという。

日本メディアのインタビュー:元軍事情報局副処長の龐大為:台湾の対中国情報は、冬眠の時期に入った (自由時報)


読んだら感想でも書こうと思います。と、書いちゃうと手に入れられないフラグなんですよね、おいらの場合。

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