繰り返された「容疑者逮捕」の幻。

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台湾の総統選挙&立法委員選挙について書くと思った? 残念、書く書く詐欺に定評のあるやうちさんでした!

と言うのも、まず前回の「日本の「治安神話」は崩壊しているのか。」で、台湾人留学生殺害事件での台湾のメディアvs日本の警察の話を「また別途」なんて投げてしまった手前、そのボールは受け止めないといけません。
今回の事件ですが、日本での報道以上に、実は台湾で報じられています。ご存じのように、台湾では翌週に大型国政選挙が控えていたのですが、それに次ぐ扱いで取り上げられていました。まずは7日の産経新聞から引用。

東京都台東区で台湾人女子留学生2人が殺害された事件は、14日に総統選、立法委員(国会議員に相当)選の投開票を控えた台湾でも、主要各紙やテレビ局が、選挙戦の話題をおさえて大きく扱い、事件への関心の高さをうかがわせている。
事件発生翌日の6日は聯合報、自由時報、中国時報などがこぞって1面トップで報道。聯合報は被害女性の着物姿の写真などで、愛日家ぶりを紹介し、「日本社会の安全神話は崩壊した」などとする識者の寄稿を大きく掲載した。また自由時報は共通の知人の台湾人男性が事情を知っている可能性にまで踏み込んだ。
7日は、服役中の陳水扁前総統の義母の葬儀に伴う一時出所や、総統選3候補の最後の政見放送内容などがトップニュースとなったが、これらに次いで、行方不明の知人男性に関する続報が大きく掲載された。
主要テレビ各局も関連ニュースに時間を割いており、6日は被害女性のうち、林●●(=さんずいに瑩)さんの遺族が台湾中部・台中市の実家でインタビューに応じ、「親孝行で、悪い友人を作るような子ではない」と話す様子などを繰り返し報じていた。

台湾2女性殺害 現地メディア、大きく報道 (産経新聞)

この「識者の寄稿」というのは、前回のアレです。
台湾のメディアもそのあたりの温度差について取り上げてました。東京特派員の陳世昌(8日東京電)がこの産経の報道にも触れながら書いた記事を9日の聯合晩報から訳。

台湾の女性2人が日本で殺害された事件は、7日の「張という姓の容疑者が大阪で既に身柄を確保された」という大誤報を経て、8日になって落ち着いてきている。この一夜の「情熱」は、台湾と日本のメディアの間にある「温度差」を露わにした。日本の記者はみな冷静に対応しているが、台湾のメディアはあらゆるチャンネルを通じて次々と即座に報じて煽っていた。
産経新聞は、台湾の各メディアがこの事件を重大ニュースとして報じていると伝えたほか、8日の朝刊では、部屋に侵入した犯人がすぐさま林さんを襲い、抵抗する時間が無かったと報じている。
(略)しかし、この他の日本のメディアは、この事件に関する突っ込んだ報道をしていない。日本経済新聞は小さな記事で、行方がつかめなくなっている台湾の男子学生について、被害者の女性につきまとっていたことがあり、女性が周囲の友人に「相談」するなど人間関係に悩みがあったことを伝えている。(略)

台湾2女性殺害事件の取材、台湾は過熱、日本は冷静 (聯合晩報/強調は引用者)

と、記事の冒頭にもあるように、今回の事件で台湾のメディアは「張という姓の容疑者が大阪で捕まった」という誤報をかましています。日本では通常、警察の発表に基づいて報じるというのがセオリーなのですが、このあたりもお国柄の違いなんでしょうか。この「行き過ぎ」については8日の自由時報と聯合報からそれぞれ抜粋で訳。

台湾2女性の殺害事件で、重要参考人の張という男子学生が、事件の発生以降行方不明になっている。日本の警察は彼に狙いをつけて追跡を行っており、彼が大阪にいる可能性がわかっているものの、未だ捕えることができていない。日本の警察が7日午後に再び彼の住まいに「踏み込み」、証拠物件の捜索範囲を拡大した。警察の捜査の状況から、この張という男性が重要な鍵を握っており、彼の身柄を確保することが事件の全容解明につながるとみられている。

(訳註:この省略した間に、張容疑者のFacebookや2000年の前科など、日本のメディアに先んじて報じられているのは特筆すべきなのですが、今回は略)この張という男子学生を追跡する中で7日、一日の間に何度も驚かされ情報が錯綜した。台湾メディアは7日、確認をしないまま、15時の時点で2人を殺害した容疑者が「関西で身柄を拘束され、まもなく警察によって東京に身柄を移される」と報じた。16時以降、台湾のメディアは捜査本部のある東京の蔵前警察署の前に集まり、日本の記者たちも話を耳にして続々とやってきた。けれども、最後まで日本の警察からの裏付けは得られなかった。
日本の報道の方法は台湾とは異なる。通常、日本の警察が容疑者を逮捕すると、「身分の確認」を行った後、記者会見が行われる。日本の警察がもし本当に関西で容疑者を逮捕していたのならば、いつもならまず現地でメディアに情報を発表し、その後、新幹線を利用して東京へ「身柄を移す」。しかし、今回はいつもと異なり遅々として動きが伝わってこなかった。長い待機時間と取材の後、日本のメディアの記者たちもこの情報の信ぴょう性を疑うようになった。
19時になると、日本のメディアも次々に警察署から引き揚げるようになった。20時、台湾の駐日代表処の新聞組長である許國禎が飲み物や軽食といった差し入れを持って、警察署に詰めている台湾の記者たちの「慰問」に訪れた。再度の調べによって得られた答えは、大阪の警察は確かに1人の容疑者を捕えていたが、台湾留学生殺害事件とは無関係の、しかも張という姓の男子学生でも無かったというものだった。

日本の警察が張という男子学生の足取りを急いで追う 台湾メディア「解決」を先走り (自由時報/強調は引用者)

日本に留学している女子学生が殺害された事件で、7日の午後、台湾の張という男子学生がこの事件に関して逮捕されたと伝えられた。張のFacebookは同日、ネットユーザたちから「台湾の恥さらしが」などの非難のコメントで埋め尽くされた。しかし、夜になって誤報であったことがわかると、ネットユーザたちは急ぎコメントを削除し、一転して「台湾のメディアはデタラメばかりだ」と批判した。
(略)夜になって誤報と明らかになると、ネットユーザたちはメディアに対し「裏付けの無い情報を発表したのか」「台湾のメディアはデタラメばかりだ」と批判を展開した。ある者は「台湾のメディアを100%信用してはいけない。お前ら、まずは一旦落ち着いて、日本の警察の発表を待つんだ」となだめていた。(略)

台湾メディア、日本の警察よりも早く事件解決 (聯合報)

とまあ、決して笑いごとではないのですが、確かに台湾のメディアってアクセルの踏み方が半端ないイメージってあります。一方で、「日本の警察の発表を待て」とは言うものの、それはそれで台湾のメディアにとって歯がゆい問題があるのでした。容疑者が指名手配されたのは、この誤報の翌日、つまり8日ですが、その記者発表の場に台湾のメディアはいませんでした。成り行きを最も注目している国のメディアが、その場に居合わせることができないのですから、かような過熱した先行報道も無理からぬ......だめですね、やっぱり。以下、9日の中国時報から訳。

台湾人が日本で殺害された事件で、日本の警察が記者会見を行った。しかし、台湾のメディアはこれに立ち会うことができなかった。これは、極めて無茶苦茶な世界的な笑い話ではないか!
日本の警視庁は8日、東京で記者会見を行い、日本に留学した女子学生が殺害された事件で、張志揚容疑者を指名手配したと正式に発表したが、台湾のメディアはすべてこの会場から締め出された。その理由は、単に警視庁の「記者クラブ」のメンバーではないからというだけであった。

台湾のメディアは、日本のいわゆる「記者クラブ」制度というものをよく熟知していないかもしれない。しかし、日本駐在の外国メディアは以前からその深刻な被害を受け続けてきた。そのため「外国特派員協会」を通じて、、閉鎖的で保守的なメディアのしきたりと長年にわたって争ってきたが、未だに改善されていない。外国籍の記者は、日本の各省庁から多少なりとも門前払いを受けており、その都度声を挙げているが効果が見られない。
日本の各省庁には、それぞれ一つだけの記者クラブがあり、主要メディアのみがその会員となっている。会員でないメディア、たとえばスポーツ紙や週刊誌、そして外国メディアなどはほぼ全て、各省庁の記者会見に参加することができずにいる(訳註:原文まま)。
台湾の日本駐在メディア記者たちも、国会の記者証や外務省の記者証などを持っているが、国会や首相官邸に入ることはできても、警視庁の記者会見には参加することができずにいる。警視庁の広報職員が言う理由は簡潔で、「警視庁記者クラブの会員でなければ、記者会見に参加できない」というものだ。
しかし、日本の警視庁が取材の自由を制限することは、我が駐日代表処が国威を発揮していないという問題ではない。真に批判されるべきは、日本の主要メディアが排他的な「記者クラブ」制度によって、自分たちが情報源を独占して享受できるという権益を守るというシステムだ。また、この特殊な状況下でも警視庁が特別な対応を取らず、台湾のメディアの取材の自由を無視したという問題もある。

駐日副代表の陳調和は7日、台湾のメディアに対し、警視庁の記者会見は日本の記者クラブのメンバーを対象に行われるもので、台湾の記者はメンバーではないため参加できない、警視庁はこれまで一切例外を設けていない、と説明した。代表処は交流協会を通じて警視庁に働きかけているが、警視庁は広報担当の主任をホールに派遣して台湾メディアに対して説明しただけだった。

日本で記者会見が行われる 警視庁は台湾メディアの取材を拒絶 (中国時報/強調は引用者)

おっと。東京特派員の黄菁菁がかなりご立腹な様子。ところがこの中国時報の報道、思わぬ伝わり方をします。まずは、この記事をベースにして9日のサーチナ。

台湾メディア・中国時報は9日、日本の警視庁が台湾人留学生殺害事件の記者会見への台湾メディア出席を拒否したことに対して「荒唐無稽だ」と不満を示す記事を掲載した。

警視庁は8日東京で記者会見を開き、台湾人女性留学生殺人事件にかんして台湾人男性の指名手配を発表した。台湾メディアも会見用に足を運んだが「記者クラブ会員」ではないことを理由に追い出されてしまった、と記事は伝えた。
記事は、日本の各省庁がそれぞれ大手国内メディアで構成される「記者クラブ」を持っていて、会員でないスポーツ紙や週刊誌はもちろん、外国メディアでさえ各省庁の記者会見に出席できないことを紹介。台湾メディアの記者は「国会記者証」や「外務省記者証」を持っていて国会や首相官邸に出入りできるにも関わらず、警視庁の記者会見に参加できないとした。
そして、批判すべきは「日本の大手メディアが排他的な『記者クラブ』で情報を独占しようとする体制」「警視庁が(台湾人関連の殺人事件という)特殊な状況下で緊急措置を取らず、台湾メディアによる報道の自由を無視したこと」であると断じた。
記事はさらに、台北駐日経済文化代表処の陳調和代表は台湾メディアに「記者クラブ」の存在について説明したこと、同処が警視庁に連絡してようやく警視庁側が説明係を1名派遣してきたことを明かした。

台湾メディア、台湾留学生殺人事件の警視庁会見締め出され憤慨 (サーチナ/強調は引用者)

と、サーチナが中国時報の記事をほぼ全文訳していることがわかります。ところが、これがそのままコピペされた2chのニュース速報板のタイトルは、「「台湾と北朝鮮は国じゃねえから」 警視庁、留学生殺人事件の記者会見場から台湾メディア追い出す

いやいやいや、「台湾と北朝鮮は国じゃねえから」なんてコメント、記事にねえから!  というか、タイトルを捏造するくらいだったら、オーソドックスに「おめーの席、記者会見場にねえから!」って入れるべきだろ、常識的に考えて。 もしかして、サーチナが書いていないだけで、原文には「台湾と北朝鮮」なんてくだりがあったらどうしよう、とも思っていたのですが、そうでないのは前掲のとおりです。しかも、多くのいわゆる「まとめサイト」がニュース速報板のレスをさらに「まとめ」たことから、このタイトルで拡散するわするわ。台湾も台湾でなんだかなーという感じですが、日本も日本でなんだかなー。

この事件、容疑者が身柄を押さえられた直後に自殺、という形で終わったのですが、容疑者の家族の件についてはまた別途。あれ? またボール投げちゃうの?

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このページは、◆YAUCHInowAが2012年1月15日 23:15に書いたブログ記事です。

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