タイミングの外し方について定評のあるこのブログですが、2週間以上遅れて菅首相談話の話でも。
今月10日に発表された菅直人首相の内閣総理大臣談話。いろいろと言われていますがよくできた作文だと思います。日韓併合100年という節目も、時宜を得たものだと思うしね。

本年は、日韓関係にとって大きな節目の年です。ちょうど百年前の八月、日韓併合条約が締結され、以後三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。三・一独立運動などの激しい抵抗にも示されたとおり、政治的・軍事的背景の下、当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられました。

私は、歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち、自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います。痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることは出来ないものです。この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします。

このような認識の下、これからの百年を見据え、未来志向の日韓関係を構築していきます。また、これまで行ってきたいわゆる在サハリン韓国人支援、朝鮮半島出身者の遺骨返還支援といった人道的な協力を今後とも誠実に実施していきます。さらに、日本が統治していた期間に朝鮮総督府を経由してもたらされ、日本政府が保管している朝鮮王朝儀軌等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれらをお渡ししたいと思います。

日本と韓国は、二千年来の活発な文化の交流や人の往来を通じ、世界に誇る素晴らしい文化と伝統を深く共有しています。さらに、今日の両国の交流は極めて重層的かつ広範多岐にわたり、両国の国民が互いに抱く親近感と友情はかつてないほど強くなっております。また、両国の経済関係や人的交流の規模は国交正常化以来飛躍的に拡大し、互いに切磋琢磨しながら、その結び付きは極めて強固なものとなっています。

日韓両国は、今この二十一世紀において、民主主義や自由、市場経済といった価値を共有する最も重要で緊密な隣国同士となっています。それは、二国間関係にとどまらず、将来の東アジア共同体の構築をも念頭に置いたこの地域の平和と安定、世界経済の成長と発展、そして、核軍縮や気候変動、貧困や平和構築といった地球規模の課題まで、幅広く地域と世界の平和と繁栄のために協力してリーダーシップを発揮するパートナーの関係です。

私は、この大きな歴史の節目に、日韓両国の絆がより深く、より固いものとなることを強く希求するとともに、両国間の未来をひらくために不断の努力を惜しまない決意を表明いたします。

内閣総理大臣談話 平成二十二年八月十日 (首相官邸)


談話を発表する理由、歴史的事実、そしてそれに基づく態度についても、押さえるべき点は押さえて、ぼかすべき点はぼかし、道を示すべき点は示している。まあ、朝鮮王朝儀軌の所だけ、若干「あれ?」って思いましたけど。むしろ、日本として精一杯の角度でハンドルを切りつつ、しかもシフトはRじゃなくてほとんどDなのだから、不満を持つ人が韓国にいるのもいたし方ないかもね。って、え、日本にもいるんですか、はあそうですか。

この談話を発表することが取りざたされた今月の頭頃、おいらがむしろ気になっていたのは国内や韓国の反応というより、台湾の反応。100年前の日韓併合条約によって以降36年間の植民地支配が始まった、とするならば、台湾はそのさらに15年前の下関条約によって日本に割与されている。台湾から「あれ? うちは?」と思われても何ら不自然なことじゃない。その辺の懸念があまり見られなかったような気がするのが、あの騒動の不思議なところ。
13日に岡田外相は記者会見で「100年というときに、日本政府として何も言わないということはあり得ない選択だと思います」とコメントしているけど、下関条約100周年にあたる1995年の村山内閣当時(Twitterでは間違って書いてました。下関条約締結・発効とも100年後は村山内閣でした)何も無かったのは事実なわけで。これは何か言われてもおかしくないなと思っていたら、案の定。まずは11日の聯合報から抜粋で。

日本の菅直人首相が、殖民統治についてお詫びの談話を発表した後、韓国政府は日本のお詫びを受け入れると述べた。ただし李明博大統領からの公式な反応ではない。一方、我が方の外交部の陳銘政報道官は、「日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものである」という考えを述べた。
(略)陳銘政は、日本による韓国の植民地化にお詫びを示したことについて「日韓両国の事柄であるので、外交部として論評することはない」と述べた。
しかし、外務官僚は個人的な意見として、日本が第二次世界大戦の時期に植民地とした国は韓国だけではなく、「なぜ中華民国にもお詫びをしないのか?」と述べた。もし日本が本当に誠意を持っているのなら、第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国にお詫びをするべきで、そうしてこそ周囲の国が日本の誠意と善意を感じ取ることができるだろう、と話した。

第二次世界大戦の時期の植民地は韓国だけではない「なぜ中華民国にもお詫びしないのか?」 (聯合報/強調は引用者)


さて、ちょっと脱線しますが、この陳銘政発言が、思わぬ形で転載転載を重ねます。まずは、フランスの放送局RFIの中国語版が伝えた11日の記事から抜粋で。ってこれほとんど聯合報と変わらないんですけど。

日本の菅直人首相は10日、100年前に日本が韓国を併呑したことに対してお詫びを表明する談話を発表した。(略)この談話に対し、台湾外交部の陳銘政報道官は、「日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものである」とコメントした。
(略)しかし、台湾の外交部職員は非公式に不満を述べた。日本が第二次世界大戦の時期に植民地とした国は韓国だけではない。なぜ中華民国にもお詫びをしないのか? この職員は、もし日本が本当に誠意を持っているのなら、第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国にお詫びをするべきで、そうしてこそ周囲の国が日本の誠意と善意を感じ取ることができるだろう、と話した。
台湾の主要紙は11日、論評記事で菅直人(訳註:原文では「棺直人」になってるんですが、何なんですか)の談話を肯定的に捉え、「誠実な菅直人、新アジア人の印象」といったタイトルで伝えている。論評記事では、日本とアジアとの間ではなお多くの残された戦争問題があるが、日本が考えを持てば、解決することは難しくなく、問題は執政者の気持ち次第だと指摘している。

台湾政府職員:菅直人は中華民国にお詫びすべきだ (Radio France Internationale 中文版/強調は引用者)


ちなみに、この論評記事というのは、11日に聯合報東京特派員の陳世昌が伝えた「新聞眼/菅直人は社会運動出身 新アジア人の印象」です。さて、このRFIからの転載を交えて伝えたのが、12日の大陸の環球時報。ええ、例のパターンです。さすがに面倒なので大いに省略して抜粋。

(略)ある台湾"外交部"職員は、日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものであると語った。しかし、もし日本が本当に誠意を持っているのなら、「"中華民国"に向けて、また第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国に対してお詫びをするべき」と彼は話している。
(略)この談話に対し、台湾"外交部"の陳銘政報道官は、「日本の第二次世界大戦に対する反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範となるものである」とコメントしている。
(略)これに対し、台湾の外交部職員は非公式に不満を述べた。日本が第二次世界大戦の時期に植民地とした国は韓国だけではなく、"なぜ中華民国にもお詫びをしないのか?" 報道によれば、この職員は、もし日本が本当に誠意を持っているのなら、第二次世界大戦の時期に日本の迫害を受けた全ての国にお詫びをするべきで、そうしてこそ周囲の国が日本の誠意と善意を感じ取ることができるだろう、と話しているという。(以下略)

日本の韓国へのお詫びに台湾が不満:なぜ"中華民国"にお詫びしないのか (環球時報/強調は引用者)


と、聯合報やRFIでは「陳銘政報道官」と「外交部職員」の発言が明確に分かれていたのですが、環球時報の冒頭部分ではこれが一緒くたになり「外交部職員」の発言として扱われています。なにそれこわい。
もちろん、聯合報やRFIの報道で使い分けられているとはいえ、「外交部職員」の非公式発言というのが陳銘政報道官によるものではないとは言い切れません。オフレコ発言はこう書く、みたいな暗黙の了解でもあるのかな。いや、それにしても安易に同一人物に結び付けようとするのは伝言ゲームすぎるでしょ、これは。
そして極めつけはご存知レコードチャイナ。上の環球時報の内容から、という13日配信のこの記事から抜粋で。

2010年8月12日、台湾外務省の陳銘政(チェン・ミンジョン)報道官は、菅直人首相が日韓併合100年に伴い「韓国に対する植民地支配を謝罪する」談話を発表した件について、「『中華民国』および第2次世界大戦に日本の迫害を受けたすべての国に謝罪すべきだ」と述べた。仏国営ラジオ局ラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)の報道として中国紙・環球時報(電子版)が伝えた。
陳報道官は「菅談話」について、「日本の第2次世界大戦に対する反省であり、地域の平和と安全維持にとって非常に重要な効果をもたらす」と評価したものの、「日本に本当に誠意があるのなら、『中華民国』および大戦中に日本の迫害を受けたすべての国に謝罪すべきだ」と述べた。
報道によれば、台湾ではこれ以外にも日本の首相による謝罪が韓国にのみ向けられたことに不満を表す声が多い。「日本に植民地にされたのは韓国だけではない、なぜ『中華民国』に謝らない?」「すべての国に謝らなければ、日本の誠意や善意は感じられない」と言った声が水面下で高まっているという。(以下略)

「中華民国」にも謝罪しろ!「菅談話」に台湾でも不満の声―仏メディア (レコードチャイナ/強調は引用者)


やりよった。冒頭の日付からしておかしい(11日の聯合報の記事に日付は入ってないけど、おそらく10日の発言だもの)上に、「日韓両国の事柄であるので、外交部として論評することはない」と言っていたはずの陳銘政報道官が、「中華民国にも謝罪すべき」なんて発言したことになっている。
それぞれの発言をしたのは誰か、RFIと環球時報、レコチャイの3紙と、おまけで聯合報も加えてまとめるとこんな感じ。カッコ内はそれぞれの原文の表記でっす。

★ 「日本の反省の動きは、地域の平和と安全を維持することに非常に重要な模範」
・RFI⇒台湾外交部の陳銘政発言人(台湾外交部发言人陈铭政)
・環球時報⇒ある台湾"外交部"の官僚(有台湾"外交部"官员)+台湾"外交部"の陳銘政発言人(台湾"外交部"发言人陈铭政)
・レコチャイ⇒陳報道官
・聯合報⇒わが外交部の陳銘政発言人(我外交部發言人陳銘政)

★ 「なぜ中華民国にもお詫びをしないのか?」
・RFI⇒台湾外交部の官僚が個人的な話として(台湾外交部官员私下)
・環球時報⇒台湾外交部の官僚が個人的な話として(台湾外交部官员私下)
・レコチャイ⇒表記無し。水面下の話として記載
・聯合報⇒外務官僚が個人的な話として(外交官員私下)

★ 「日本に誠意があるなら、関係する全ての国にお詫びをするべき」
・RFI⇒官僚(官员)
・環球時報⇒この官僚(该官员)(=台湾外交部の官僚(台湾外交部官员))
・レコチャイ⇒台湾外務省の陳銘政(チェン・ミンジョン)報道官+陳報道官
・聯合報⇒外務官僚が個人的な話として(外交官員私下)

★ 「菅談話は日韓両国の事柄であるので、外交部として論評することはない」
・RFI⇒なし
・環球時報⇒なし
・レコチャイ⇒なし
・聯合報⇒陳銘政(陳銘政)

そして、こういう分かりやすい可燃性日本語ソースが出たことにより、ニュー速+でもスレが立つわ盛り上がるわ。何でこれが東亜+でも立たなかったのか不思議で仕方ないけど、立たなくて本当によかったと思う。

 【政治】「中華民国」にも謝罪しろ!...韓国のみに向けられた「菅談話」、台湾でも不満の声
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1281696781/
【政治】「中華民国」にも謝罪しろ!...韓国のみに向けられた「菅談話」、台湾でも不満の声★2
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1281706368/
そして、こうやって劣化コピーを重ねて燃えやすくなったものほど、ネットでは広がりやすく、回収しにくいんだよね。と、自省の意味も込めて。

さて、閑話休題でもう一つ聯合報の記事から。菅談話から5日後の終戦の日(いや、15日を終戦の日とするかどうかの議論はさておき)に載った署名記事から抜粋して訳。「また聯合報か」とか言わないでくだしあ。

今日は日本が降伏し、抗日戦争が終結してから65年を迎える。日本の菅直人首相は10日、韓国の植民地化という歴史上の過ちについて、初めて反省とお詫びを公に語った。(略)問題は、台湾はいつになったら同じように反省とお詫びを得ることができるのだろうか?
(略)1895年、日本は兵力により戦い、清朝を脅して下関条約を締結するよう迫った。台湾が殖民統治に見舞われる50年の悲惨な運命が始まったのだ。殖民統治により無数の殺戮略奪と文化消滅があった。しかし65年度の今日、5,000件あまりの台湾原住民族の文化財が、大阪国立民族学博物館に「秘蔵」されている。尋ねるが、台湾政府はこれまで日本側にどんな抗議をしたというのだ?
菅直人は、首相という身分で韓国に対し反省とお詫びを表明することができたのに、また殖民統治期間に「占有した」朝鮮の文化財を能動的に返還する(訳註:原文まま)ことができたのに、なぜ日本の殖民統治という同様な経験をした台湾にもできないのだろうか? もし台日間で歴史問題に対して誠意を示すことができないというのなら、このような「台日友好」にいったいどんな意味があるというのだろうか?

新聞眼/歴史に誠実に向き合うことが、台日友好の前提条件だ (聯合報)


後述のとおり、日本が台湾に対して公に謝罪することは残念ながら難しいでしょう。しかし、「アジア諸国は中韓朝だけじゃねえ!」と騒ぐ人に限って、韓国と同じ事がアジア諸国で起きていた事をほったらかしにしているのもまた事実。大阪国立民族学博物館の所蔵品の話は寡聞にして知りませんでしたが、いずれこれも解決していかなきゃいけないだろうね。
ただ、台湾に向けて談話を発表できない理由というのは、政府が公に説明することすらも憚られる訳で。いらぬ誤解が日本でも台湾でも残らなきゃいいんですけど。どうも台湾での報道を見ると延焼はしそうにない感じ。これもどう転ぶかわかんないけどね。
ということで、最後に香港の明報に11日に載った記事にその辺の理由を考察した記事があるので訳。また林泉忠っすか。

ハーバード大学フェアバンクセンターフルブライト学者、日本の琉球大学法文学部准教授の林泉忠は、日本が韓国に対し遺憾の意を表したことについて、中国への牽制に韓国を巻き込もうとするものとは関係ないと考えている。むしろ、菅直人は就任後も鳩山由紀夫前首相による中韓との友好の手法を踏襲していると考えている。日本とアメリカは関係を補修しているけれども、「中国を牽制する気配はない」という。
林泉忠は、歴史問題という荷を下ろし、アジアとの関係の障壁がなくなることを民主党が望んでいると指摘する。しかし、遺憾の意を表するか否かもその他の要素が絡んでおり、韓国と同様に日本の植民統治があった台湾にはなされていない。林は、日本による台湾の植民統治は50年間と韓国よりも長く、日本は台湾人の鎮圧もしていたと示す。しかし、日本のこうした「不公平な扱い」は、国家としての利益の所在のほか、台湾が主権国家ではないということ、北京もまた台湾を代表して謝罪を要求できないことが理由として挙げられる。
日本の中国、韓国に対する態度が異なる理由は何か? 林教授は、韓国では政府と民間がずっと歴史問題でたゆまぬ努力を重ねてきたからだと考えている。しかし中国を見ると、日本は中国を民主的国家ではないと見做しており、中国政府のスタンスも時に柔らかく、時に強硬で、民間の声も圧力を受けているため、日本は中国の要求に対してそこまで積極的ではない。また林は、歴史問題はあまり中国と日本との間の摩擦になる契機とならないと考えている。中国では2005年に大規模な反日運動が勃発したが、政府は失敗であったと考えており、日本に対する態度も軟化し、日本で安倍晋三が退陣した後は、歴史問題でも軟化している。

旅日大学教授:台湾に謝罪がない不公平さ (明報/強調は引用者)


ふむー。まずは韓国を引っ張り込みたい、っていう気持ちも日本政府にはありそうなもんだけどね。その目論見の成功率はともかくも。そういう引っ張り込みたい期待という点では、台湾って明らかに中国より韓国に近いと思う。となると、やはり台湾の場合には、一国の総理の談話として発表する相手として条件が整っていないことが痛い。今回の菅談話にしたって、朝鮮半島出身者といった単語こそ出ているものの、現在と未来について語っている部分では全て韓国が相手。38度線以北も日韓併合で日本の統治下に入ったことは事実ですが、談話の相手として北朝鮮を直接表に出すことはできない(13日の岡田外相の記者会見コメントで「その趣旨は朝鮮半島全体に及ぶと思います」ってあるけど)。北朝鮮と台湾が同じって書くのもどうかと思うんですが、そういうジレンマがあることを台湾の人は知っていてほしいし、そういう解決すべき問題があるってことを日本の人たちも知っておかなきゃいけないよね。
なーんておいらが偉そうに言えることじゃないすけど。

★ 補記予定。
8月というのは、手を合わせる機会の多い月です。8月8日は、八八節という台湾の「父の日」にあたる日だったのですが、同時に、いわゆる「八八水災」から丸1年が経過した日でもありました。昨年の8月9日には、高雄県甲仙郷で小林村という集落が土砂崩れで壊滅するなどの被害が発生しています。このへんは、「とんだ八八節になっちゃって。」「昨日はちょっとはしゃぎすぎました。」あたりを参照ください。と、改めて自戒の意味を込めて。

この八八水災1周年に合わせるようにして、日本で今年6月にNHKスペシャルで放送された『深層崩壊が日本を襲う』が、台湾でも公視で『當土石崩落』というタイトルで放送されました。
まずは公共電視のサイトから番組紹介を意訳。

昨年8月、世界の防災専門家たちはある大規模な土砂崩れ災害に震撼し、その場所が注目を集めた。それは台湾の南部で発生したものだ。この災害は、山腹の地中深くから発生したもの――「深層崩壊」による土砂崩れで、これにより小林村という集落が消滅し、500人の命が奪われる結果となった。この「深層崩壊」と今までの土砂災害には、いったいどんな違いがあるのだろうか?
「深層崩壊」は、日本の各地方自治体が防災対策の中でこれまで考えてこなかった新しいタイプの災害だ。NHKの「NHKスペシャル」は台湾で取材を行い、また多くの専門家もいっしょに現地を見て、『深層崩壊が日本を襲う』というドキュメンタリー番組を制作した。

モーラコット台風による被害から1年を迎え、公共電視ではNHKが制作した「NHKスペシャル」、『當土石崩落』を特別に放送する。放送では、2009年のモーラコット台風の大雨が南台湾に大きな爪痕を残した様子を掘り下げて研究し、さらに小林村が壊滅した地層崩壊の原因を分析する。また、小林村の生存者である黄金宝さんを訪れると共に、動画で小林村が壊滅した様子を擬似的に再現する。
NHKの山崎登解説委員が「表層崩壊」と「深層崩壊」の状況の違いを解説し、CGで再現する。本番組では、日本の各地震地域に赴いて地層を調べ、台湾の小林村の地層と比較を行い、さらに動画のシミュレーションと結びつけることにより、地形崩壊や大規模な土石流の成因、将来の防災の道を分析する。

當土石崩落 (公共電視)


長期間、広範囲にわたる地道な調査、そして最新の技術を使って検討しそれを表現するという点においては、日本のメディアの中でNHKの右に出るものはないと思ってます。タイムリーなテーマ、そして重厚な内容ということも相まってか、台湾でも放送前から注目されていました。例えば5日の中国時報から。

昨年のモーラコット台風は台湾に大きな被害をもたらした。気に掛けたのは台湾人ばかりでない。地球の気候問題の一環としてこの災難が世界中から注目されている。日本のNHKは昨年12月に調査チームを結成し、ドキュメンタリー番組『當土石崩落』を撮影を台湾で行い、事件の原因と結果を検証して、日本で広く議論を引き起こした。

(略)調査チームからはいくつかの疑問が上がった。なぜ25度という大型の土石流が発生することがほぼ不可能な斜度で、このような大災害が発生したのか? また、小林村では避難訓練が3ヶ月前に行われていたにも関わらずどうして直ちに避難することができなかったのか? 調査チームは、日本の地形や防災対策が台湾と似ており、この10年近くで「深層崩壊」の発生が倍に増えている状況を心配しており、事前の準備の必要性や対応方法を提示している。
番組では、科学的な方法により災害が発生した原因を検証し、また動画を用いて分かりやすく示している。例えば、調査チームが小林村上部の崩壊現場を実地調査し、深さ84m、20階建てのビルに相当する高さの変形岩盤が、3,000mm以上の大雨に耐え切れず崩壊したさまが、動画によってその過程が明快に表現されている。(以下略)

深層崩壊が世界を驚嘆させる NHKが八八水災を記録 (中国時報)


一方、小林村の事例を詳細に検証し、その後に生かそうという姿勢を見せたのが被災した台湾ではなく日本だったということも、少なからず取り上げられています。6日の聯合報と5日の台視から抜粋して訳。

(略)NHKの調査に協力した「南方文化工作室」の鄭水萍研究員は、台湾の学者や専門家が小林村の災害の主要因に関して誰も動かなかったが、日本の学者は非常に仔細に渡って追求したと語り、「たいへん恥ずかしくなった」という。また、「政府の姿勢は、どうしてこんなに違うのだろうか?」と思ったという。
(略)鄭研究員によれば、この番組が日本で放送された後「日本人は愕然とした」といい、日本ではこうした類の新しい形の災害への防災対策が足りていないことに不安を覚えたと語る。彼は、誰かに責任を追及するのではなく、また隠蔽しようとするべきでもないと話す。さもなくば「日本人は台湾に来て経験を積み上げたというのに、我々はまったく研究もしていない」というのが、どうして間違っていると言えようか。
小林村の住民で生存者の黄金寶は、NHKの番組の中でインタビューを受けた。彼が感心したのは、日本人が皆、災害の原因を見つけ出すために彼を訪問する必要があるとわかっていたことだった。なぜもうじき1年が経過しようとしているのに、台湾政府は彼らのような目撃証人をまったく探そうとしなかったのか? 関係機関が速やかに高危険度地区の調査を完成させ、小林村壊滅の悲劇を繰り返すことのないよう期待している。立法委員の田秋菫と黄淑英は、同じ轍を踏まないよう一日も早い「地質法」の成立を呼びかけている。

NHKが小林村崩壊を解析 被災者:台湾は何をやったのか? (聯合報)

(略)番組の中で、日本の学者は悲劇の原因を深層崩壊だと突き止めた。当時、土石流の深さは84mにも達し、それがかくも恐ろしい破壊力をもたらしたのだ。まもなく八八水災から1年になろうとしている。我々の政府は、災害の検証について、どれだけのことをしただろうか?

八八水災がまもなく1年 NHK全記録、災害の映像を再現  (台視)


もちろん、防災に対する意識や、災害に関する知識・経験の蓄積なんて国によって、いや同じ国でも地域によって違いがあるから、日本と台湾とで取り組みに温度差があることは、ある程度仕方の無い事だと思うんだけどね。まあ、それを差っ引いてもこの反応というのは、やはり当時の対応が今なお引きずられていることが伺えます。
天災というのは忘れた頃に来るのが相場と決まっていますが、近年の気候変動も考えると、こうした土砂災害は毎年あってもおかしくない災害になっています。どうか、日本でも台湾でも同じ悲劇が繰り返されませんように。
前回の「なんで台湾がそこまで防空識別圏の変更を嫌がるか。」にはてなブックマークが10以上もついてしまい、恐縮を通り越して若干の恐怖すら感じている今日この頃です。本当にいいのかなあ、というかアテにしないでくださいね、と妙に保険を掛けたくなってしまうヘタレですごめんなさい。
これはもしかして、今や最大のアクセス数にまで伸びてしまった「「自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)」と「あきらめたらそこで試合終了ですよ」。」に迫るんじゃないか、と思ったら、そちらにブックマーク数こそ大きく勝っているもののアクセス数は7分の1程度。むぅ、検索の引っかかり方とか、読んでなお「ブックマークしておこう」と思うかどうかという違いとかもあるだろうから、一概には比べられないのかもしれないね。まあ、このブログの方向性が決してACGの方向に傾いでいないということがわかっただけでも充分じゃないですか。

とか言っておいて、『けいおん!』の話題です。結局ACGかよ!
でも先に謝っておきます、ごめんなさい。アニメ2期は早々に脱落して観ていません。そうは言っても、5月には「台湾の『けいおん!』第3巻は、尖端出版が着せ替え表紙×2を作るらしい。」なんて書くなどそれなりに気にしてはいるんです。その着せ替えの話も、PTTや台湾のブログでもURL貼ってもらえたりして、というか異様なまでに台湾からアクセスがあって、おいらとしては嬉しさ半分戸惑い半分といったところでしょうか。
さて、台湾で『けいおん!』を翻訳し出版しているのは先端出版という会社なのですが、そちらの社員の方が「大破説了算」というブログを書いています(ただし非公式)。5月26日のエントリーでは、例の3巻の着せ替えについて触れている中で、ラストにこんな一節がありました。

これらのバージョンは全て初刷限定のものだけれど、
また大破がここで聞いたところによると、日本にもこの特典を買う争いに参戦しようとしている『けいおん!』の漫画ファンがいるらしいのでw
全てのカバーを集めたいと考えている漫画ファンのみんなは、
より気をつけてくださいね!

『けいおん!』の実物をレビューするよ! (大破説了算/強調は引用者補記)


へぇ。ないない、それはない。だって、この特典ブックカバーの話をブログに書いた時、なぜか『けいおん』本スレ(けいおん!!紅茶985杯目)や萌え+のスレ立て依頼スレ(スレタテ依頼スレッド34)にエントリのURLが晒されたけど、ほぼノーリアクションだったもん。あえて言うなら尖端さんの煽り乙って感じかな。

と、さらっと流せるほど大人じゃないんですよ、おいらは。←

っていうことで、日付は遡って6月上旬にこれらを手配。売られたケンカは買うぜ、という訳ではなく、面白そうなものには手を出しちゃうんですよ、ごめんなさい。でも厄介だったのは、「台湾の『けいおん!』第3巻は、尖端出版が着せ替え表紙×2を作るらしい。」でも書いたとおり、2種類の着せ替えのうち、1種類(タイプB)はVOFANの時と同じく博客來で買えるんですが、もう1種類(タイプA)はそれ以外で買わなければならないということ。えっ。博客來以外でネット購入可&日本に送ってくれる本屋なんてあるのかな。
ってことで探した探した。誠品網路書店というオンラインの本屋さんに残っていたこちらの限定版を注文。例によって、中の人の隣の人を経由するというしちめんどくさい手段を使い、6月中旬には手元に届いていたのでした。

で、それから今まで何をやっていたんですか、ということだけど、それはいいじゃないですか。周回遅れで取り上げるなんてこのブログではザラじゃないですか。
気を取り直して、早速台湾版×2と、比較用に日本版の3冊を見比べてみましょうか。なお、いろいろ慌てていたので写真のクオリティがとても低いです。ごめんなさい。いつか差し替えるかも。

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まずははるばる台湾からやってきた二つの包み。左側の写真の手前に写っているのが博客來、奥が誠品です。で、それぞれ開封すると右の写真みたくちゃんと入っていました。そりゃそうですね。右側の写真ではさりげなく場所が入れ替わっていて、左側が博客來のタイプB、右側が誠品のタイプAになります。それぞれちゃんと出して帯がかかった状態を見てみると、こんな感じになります。

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でも、それぞれ「特製ダブルカバー」って書いてあるんですけど、包みの中には見当たらない。それもそのはず、この内側にいました。左側の写真の右に写っているタイプAのカバーを外すと、日本版と同じ表紙が登場します。

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せっかくなので、日本版と並べてみましょう。表紙と裏表紙です。

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こうして見ると、タイトルロゴ以外は全く同じと言っても過言じゃないですね。というか、だいたいそういうものなんですけど。ちなみに、台湾の通常版は裏表紙の返りの部分も日本版と同じ和なんですが、限定版はこんな風にちょっと凝ったモノになっています。日本版の3巻は1月発売だったのですが、台湾は6月発売なので、「SUMMER TIME!」なんでしょうかね。そういえば表紙も夏らしい表紙だしね。 まあ、水着の方が人気が出るから仕方ないね。

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中身の方は、というと基本的に日本語版をそのままどストレートに訳しています。設定的にも入っていきやすいからかな。注釈がついているのは2ヶ所だけ。さわちゃんが軽音楽部出身ということを知って驚く場面で「OG」という単語もそのまま訳に使用、「OGってのは和製英語でで、グループを卒業した女性のこと」と欄外にご丁寧に添えられているのと、澪のベースにエリザベスという名前がついているというところで「いや、エリザベスって単語の日本語の読みの一部が、ベースに似た発音なんです」とこれもわざわざ記載。特に前者はそこまで原文を尊重しなくても、と思っちゃうんだけど。
せっかくなので、ほんのちょっとだけですが、後ろめたさを抱えつつ台湾版の裏表紙から1コマと本編からも1ヶ所だけ。絵の上に乗ってしまっている擬音はこんな感じで日本語がそのまま残っていることがあるけど、全体的にはけっこう頑張って中国語を上から落としています。

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と、これだけ見比べてもなんとなく意味がわかりそうだし、 「あずにゃん」は「梓喵」なんだね、というのもわかるし、 日本人が読んでもそこそこ面白いんじゃないでしょうか。と言うか、いわゆる口語が文字になっているのでかなり面白いです、個人的には。
最後にもう一枚だけ。「2種類の限定版表紙の裏表紙をくっつけると、1枚の完全な図柄を見ることができる」という触れ込みだったので、しっかりとお約束は守りたいと思います。

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え、かかったお金ですか? 博客來が404NTD(本体153NTD+送料251NTD)、誠品が430NTD(本体180NTD+送料250NTD)で台湾版に計834NTD(約2,300円)、日本版は860円なので、全部で3,200円くらいでしょうか。いやいや、お金で買えない価値があるんですよ(きりっ)。マスターカードは使ってませんけど。
なので、いないとは思いますが念のため。日本版も台湾版も大切にしたいと思います。速攻でブックオフに持ち込むとか、ヤフオクで値を釣り上げて捌くなんてことはしません。だから、同じ理由で「ください」みたいなメールとかも勘弁してください。
ニコニコ動画の「組曲『初メテノ音』」のsnowさんが、動画公開2周年にあたる7月1日にmp3ファイルを再配布するらしいですよ! きた! これで勝つる!



いつまでも輝きを保つ名曲というのは良いものですけれど、このブログのネタになるようなニュースというのは足が速いものばかり。はてなブックマークで「ブログ用」とタグを付けられたものが、おいらのめんどくさがり屋さんな性格によっていくつ日の目を見なかったことか。というわけで、今回はそちらの話をしますので、初音ミクの話でも、先日出た『とある科学の超電磁砲』第5巻の話でもありません。というか、そういうブログじゃないんだって何度言えb(ry

今から1ヶ月ほど前、政府が与那国島上空を縦断していた防空識別圏(ADIZ)を台湾側に広げる、というニュースがあったのですが、その頃このブログは初音ミクやら「けいおん!」やらACG一色、気がついたら言い始めた首相が変わっていたという有様でした。
 【日台】与那国島上空に設定されていた日本の防空識別圏、台湾側洋上に新境界線を引くことで日米合意[05/26]
 http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1274925043/
 【日台】 与那国島上空に設定されている防空識別圏の変更に台湾反発 「話し合いなく遺憾だ。受け入れられない」 [05/29]
 http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1275138838/

「事前ネゴもやってなかったっぽいし、このまま沙汰止みかなあ」と思っていたら、防衛省は今月24日に、25日付けで防衛省訓令を改正し、防空識別圏を与那国島の西側洋上に膨らますことを発表しました。予期せずニュースの鮮度は復活したんですが、台湾側の反応も東亜+の反応も1ヶ月前のほぼ焼き直しといった感じです。
 【日台】 防空識別圏の再設定に外交部「きわめて遺憾」と受け入れられないとの立場を示す [06/25]
 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1277470242/

さて、両スレをざっと見ても、やれ「台湾も結局反日」だとか「なんで日本の領空に防空識別圏を設定して悪いんだ」という声は散見されるんですが、台湾側がなんでこんなに強硬に反対しているかに思いを巡らせてる人が少ないのでちょいと整理。
まず、防空識別圏の意味ですが、 ぶっちゃけそこに余力を割くのもめんどいので うまく説明する自信がないのでWikipediaでぐぐれ。とまあ、そこに載っているとおり、おおよそかいつまんで書けば領空侵犯に備えてより外側で外部からの侵入をチェックする空域といったところでしょうか。ああ、ちゃんとした定義とか、飛行情報区(FIR)との関係について知りたい方はそれなりにぐぐってくだしあ。
ちなみに、Wikipediaには日本の防空識別圏の図があるんですが、これって若干間違っています。日本の防空識別圏は昭和44年8月29日付防衛庁訓令第36号「防空識別圏における飛行要領に関する訓令」で定められているんですが、その中では本土から概ね200カイリくらいの外側線と、概ね20カイリくらいの内側線が決められていて、この2つの線に囲まれた部分が防空識別圏です。Wikipediaの図は、外側線の内側を全部塗っちゃってますね。
で、しかもこの図だとあまりに抽象的すぎるので自分で地図にプロットしてみたのがこれ。結局、かなり目分量になってしまったのであまり信用しないでください。

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さて、今回はこのうち東経123度線(正確には北緯28度14秒東経122度59分54秒から北緯23度15秒から東経122度59分55秒を結んだ線)の外側線が与那国島を南北に縦断していたことに端を発します。つまり、島の東側は日本の防空識別圏、西側は台湾の防空識別圏ってわけですね。確かに「防空識別圏≠領空」ってわけじゃないけど、住んでいる人にとっては面白いものじゃないよね。今年4月の国会でも、

○ 佐藤茂樹:(略)要するに、これが事実だとすれば、まさに紛れもない日本の領土である島の一部までしか防空識別圏に入っていないんですね。また、沖縄県の資料によれば、与那国空港の上空も防空識別圏に入っていないし、日本の領空を防衛するという観点からすると大きな問題ではないか、そのように考えるんです。(略)
○ 北澤俊美:(略)防衛大臣としての立場も含めて申し上げれば、現状は極めて不正常であるというふうに思っておりまして、与那国の皆さん方が安心して生活できるような状況に一日も早くしなければいかぬ、このように思っております。台湾との関係がございますので、関係省庁とも協力しながら、前向きに、しかもスピーディーに処理していきたい、このように思っています。

平成22年4月9日 第174回国会衆議院安全保障委員会


という公明党の佐藤議員と北澤防衛大臣のやり取りがありました。でもこれ、別に最近になって持ち上がった話じゃなくて、それこそ沖縄返還前にも、

○ 久保卓也:空の区分というとわかりにくいのですが、防空識別圏のことでありますれば、大体は米側のものを引き継いでよろしいんではなかろうか。これは台湾の防空識別圏と近接をしてちょうど一線を画しているわけでありますが、その際に問題になりますのは、御承知のように尖閣列島が中に入っているということ。それから与那国島という一番端っこの島の上を通っているということ。

昭和47年4月25日 第68回国会衆議院内閣委員会


という防衛庁の久保防衛局長の答弁もあるとおり、把握はしていたわけです。じゃあそれを正すかどうか、というとその後は結構モタモタしていて、以下ざくっと抜粋。

○ 久保卓也(防衛庁防衛局長):事務的にはADIZをどの線に引くかということについていろいろ検討いたしておりますが、やはり台湾側との関係もありますので、どういう範囲にどういう時期にそれを決定するかということはきわめて慎重に考慮しなければならないという長官の御方針で、長官が適当な時期を定める、こういうことでお預けになっております。

昭和49年5月17日 第72回国会衆議院外務委員会

○ 塩田章(防衛庁防衛局長):このADIZはいわゆる防空識別圏でございますから、このこと、いわゆる識別の圏域、識別圏をどこに置くかということでございますから、別に、何といいますか、国の領土の、あるいは領空の主権とか、そういうこととは直接関係ございませんので、いまのところこれを特に変えなければいけないというふうには感じておらない、こういうことでございます。

昭和56年3月24日 第94回国会参議院予算委員会

○ 池田維(外務省アジア局長):(略)ただいま先生御指摘の防空識別圏につきましては、これは国際法上確立した概念ではございませんで、一般に各国が自国の安全を図るために国内措置として設定しているという空域でございますが、これによって領空ないし領土の限界とか範囲を定めるような性格のものではございません。したがいまして、我が方から台湾側に対して防空識別圏の線引きの変更を申し入れるということは考えていないわけでございます。
 しかしながら、防空識別のためにとられます具体的な措置が他国の領空の主権を侵犯するということは当然許されるべきことではございません。したがって、領空侵犯が発生しました場合は、これまでも台湾との関係では、交流協会を通じまして台湾側に厳重な抗議を行っておりますし、今後とも同様な措置をとっていきたいと考えております。(略)

平成5年3月5日 第126回国会衆議院予算委員会第二分科会

○ 久間章生(防衛庁長官):(略)ただ、今おっしゃられるように、防空識別圏を、単なるそういう便宜上のものだとしても、変えたらどうだという話でございますけれども、そうなりますと台湾と交渉をしなければならないわけでございます。台湾は、要するにそこまでが向こうの防空識別圏として来ているわけでございますけれども、与那国まで来るわけじゃございませんで、そういうような、領空は、領海は領海であるわけですから。
ただ、防空識別圏はそうなっている。それを交渉しようとすると、台湾と交渉しなければならない、現実的には。ところが、台湾は中国の領土の一部ということで、その中国の言う主張を我が国としては尊重するという立場をとっております。
そういうこともございまして、かつてそういうことを内々やってみましょうというような答弁を国会でされた方もおったようでございますけれども、現実問題としてはなかなか難しいわけでございます。だから、この問題については慎重に対応していくという答弁を従来から政府はやっておるということでございますし、現実問題としては、それほどの影響は出ていないということでございます。

平成10年3月18日 第142回国会衆議院予算委員会

○ 阿南惟茂(外務省アジア局長):(略)それで、この防空識別圏につきましては、歴史的経緯で、台湾が一方的に設定したものではございません。そういうこともございますし、防空識別圏という事の性質上、もちろん住民の方々からは見直してくれという御意見があったということも承知はしておりますが、今台湾との間で政府チャネルで話すということもできませんし、今のところでこれを見直すということは考えていない、こういうことでございます。

平成10年5月13日 第142回国会衆議院外務委員会


と、ここでも「相手方が台湾」という「政府対政府の交渉を行うと、それ自体がある意味地雷」がネックになっているようで、ずるずるずると来てしまっています。「ま、そうは言っても防空識別圏と領土領空は一致しないものだしね」「領空は警戒しているしね」ということで時間が経過していたのですが、さて民主党政権誕生後はと言うと、実は前の国会で北澤大臣は沖縄選出の島尻安伊子参院議員に対し

○ 北澤俊美(防衛大臣):これにつきましては、我が国の領空又は領土の限界又は範囲を定める性質のものではない、これは一方的にそれぞれの国が定めるということで、各国が合意をしてどうこうという性質のものではないというふうに承知をいたしておりますから、そういう意味では、強い意思を持って、我が国がこのことに問題意識を強く持って変更をすると。ただ、そうはいっても今日の状況でありますから、台湾側の了解をしっかり取るというような友好的な上での解決方法というものは模索しなきゃいかぬと、こんなふうに思っています。

平成22年3月19日 第174回国会参議院外交防衛委員会


と、答えているように、上の4月の発言の以前からもかなり前向きな発言もしていました。まあ、後半は旧来の官僚チックな逃げの答弁の要素も強いですけど、それにしても従前に比べるとかなり意気が感じられます。というか、そう言っておいてあのネゴ無しの様相ですか。っていうのはあるんですけどね。
また、ことこの「地元からの要望に対して」という点においては、どうも普天間基地の問題における対地元用のカード(しかもあんまり役としてよくない)として使った節があります。5月の防空識別圏変更の動きも、普天間の「5月末まで」というので焦って動いたんじゃないか、という邪推は拭えません。
まあ、ただ図面の上での話だけで言えば、小笠原諸島なんて与那国島より人口が多いのにまるっと防空識別圏から外れているんですけどね。何やってたんですか、旧東京第2区の代議士の先生方は。って石原慎太郎でした。

と、脱線したところで、話を戻しましょうか。防空識別圏の話で同じようによく出てくるのが北方四島と竹島。どちらも日本の施政下にないことなどを理由に防空識別圏から外されています。一方で、与那国島の北東にある尖閣諸島はきちんと圏内に収まっています。これは沖縄が返還される前の年の国会でも、当時の福田外務大臣が公明党の多田省吾とのやり取りで、

○ 多田省吾:いま藤田委員も総理の答弁ということをおっしゃっているし――矢追委員の防空識別圏の問題で、竹島の場合は防空識別圏の中に入っていない、わが領土と主張しておりながら。なぜ尖閣列島だけを防空識別圏の中に、そういう紛争がありながら、また予想されながら、入れようとしているのか、その辺の明確なお答えを最後に総理からお願いします。
○ 福田赳夫:この竹島の場合と尖閣列島の場合は違うのです。竹島の場合はわが国の領土だという主張はしているが、現実に施政を行なっておらぬ、こういうことなんです。ところが、これは今度の協定で経緯度をもってはっきりしておるように、米国の施政権下に入った尖閣列島があの経緯度の中に入ってくるのです。わが国の領土が復元をされる、施政権が復元をされる、そこで完全な領土としてわが国のものになるわけなんです。ですから、ここにわれわれが防衛上の責任を持つ、これは当然だろうと思います。

昭和46年11月9日 第67回国会参議院予算委員会


と言ってますしね。ではなおのこと、「領土領空≠防空識別圏とはいえ、日本の領土で日本の施政下にある与那国島の西側が外れているのはおかしくね?」となるわけ。確かにこれは日本国内においても対外的にもすっきりするお話。でも、この日本にとって「すっきりした状態になる」ことが、台湾にとっては厄介なことだったり。というわけで、まずは5月29日の6月24日の両方の外交部コメントを訳。

一、中華民国と日本との間にある現行の防空識別圏(ADIZ)境界線は、第二次世界大戦後にアメリカ軍が琉球を占領していた期間に定められたもので、当時のアメリカ軍が「与那国島」上空を縦貫する東経123度線をもって台日間のADIZ境界線とし、線よりも東側を日本空域、西側を台湾空域として今日までずっとその線を援用し続けてきたものである。
二、このたび、日本政府は「与那国島」住民の要求によって、「与那国島」西側12カイリの領空線に加えて2カイリの緩衝帯を設置するつもりで、それを我が国との新たなADIZ境界線とし、我が方に通知をしてきた。
中華民国は、ADIZを隣接する国家として、日本側が我が方と事前に充分な意思疎通を行わなかったことに対し、政府として遺憾の意を表する。中華民国政府は、本件が我が国の主権と空域の完備に関わることであることから、日本側の今回の決定を受け入れることはできない。

日本政府が台日間の防空識別圏境界線を広げようとしていることに対する我が国政府の回答 (中華民国外交部)

日本政府が、前もって我が国と交渉を行わない状況下で、台日間の防空識別圏(ADIZ)境界線の引きなおしを6月25日から実施することを一方的に決めた動きに対して、中華民国政府は極めて遺憾であることを表明するとともに、我が国としては日本側の今回の決定を受け入れられないという一貫した立場を重ねて明らかにするものである。
なお、台日双方のADIZ範囲が与那国島上空の一部で重複するという現象が今後発生することについて、我が政府としては、当該空域における現行の関連作業方式を堅持するつもりであり、併せて我が方の航空管理および飛行の安全を確保していくものである。

日本が一方的に台日間の防空識別圏境界線を引きなおすことに対し、受け入れられないことを重ねて明らかに (中華民国外交部)


と、基本的には「何勝手に、うちの防空識別圏内に食い込ませて来てんだよ」というのが前に前に出されています。じゃあ、事前にネゴっていたら大丈夫だったかと言うと、どうも微妙だった様子。外交部コメントを挟んだ5月28日と30日の聯合報から2つの記事から抜粋して訳。

日本が防空識別圏を西側に改めようとしているが、国家安全会議の高官は27日「我が方は真っ先に、Noをはっきりと言わねばならない!」と強硬に話した。しかし、外交部と軍、国家安全会議の上層部の口ぶりは、必ずしも一致しない。「まだ、見極めと議論の段階だ」と強調し、最初の時点で日本の要求を拒絶することはしていない。
外交部副発言人の章計平は27日、日本側から要求を受けていることを裏づけした。初期段階として、交通部、国防部などの部署に文書が送られ、全体で協議を行う。しかし、現在のところ研究と議論の段階にあり、その結果をもって体外的な説明を積極的に行う。
総統府はこの件に関して控えめな距離を取っており、外交部が対応するべきだと話している。しかし、調べたところによると、国家安全会議サイドは日本の防空識別圏西側拡張について、ことは主権に関わるものと認識し、極めて敏感になっていることから、おいそれと譲歩または妥協することはできないと考えている。

高官はまた、台日が交渉過程にある中であっても、この件については譲歩の余裕が無いとして「Noと言わざるを得ず、Noを貫き通さざるを得ない!」と強調している。
いかし、国防部の趙世璋副部長は同じ27日、現在のところ関係機関で慎重に協議しているとしながらも、国家の安全あるいは国家の権益に影響を与えない範囲で、専門部署として政府の政策決定の参考に意見を具申すると述べ、「国防部は政府の政策に協力し、その取扱いに従う」と話した。
空軍将校は、この防空識別圏は形式上のものにすぎず、事実上は台日間でこれまでも暗黙の了解があったと指摘する。しかしこの将校は、「与那国島と台湾との距離はわずか110kmであることから、外交部としては日本と境界線引きなおし交渉をする際にも、日本側の『もうちょっとだけ』により我が空域と主権を損なうことを避けるため、非常に慎重にならざるを得ない」とも打ち明ける。

日本の防空識別圏拡大 国家安全会議高官「No」を貫く (聯合報)

政府が頑強になってきた。日本が防空識別圏(ADIZ)を西側に動かそうとし、与那国島西側12カイリの領空線の外側プラス2カイリに緩衝帯を設けようとしている。これに対し外交部は29日、今回の件は我が国の主権と空域の完備に関わることであり日本側の決定を受け入れることはできない、と正式に表明した。また日本側が事前に我が国に対してコンタクトを取らずいきなり宣言したことに対し遺憾の意を表した。
(略)外交部副発言人の章計平は、政府の今回の件に対する姿勢に「変更」はないと述べた。外交部、国防部、交通部など関係機関が共同で議論を重ね、国家の主権と空域の完全性を堅持しなければならないという点で認識が一致したという。全体を勘案して、政府として日本側の今回の決定を受けれることはできないとした。
わかったところによると、外交部では今回の我が国の決定に関して日本側に事前に通知を行わなかったという。ある対日交渉職員によると、日本側が我が国の声明文の言葉の使い方について「不快に覚えることがあるかもしれない」と見ているという。しかし、日本側も我が国に対して事前の交渉を行わずいきなり決定しており、両方とも「お互い様」だろうという。今後は、それぞれが思い思いの行動をし、互いに主張していくことになるだろう。

日本の交流協会台北事務所の堤尚広総務部長は、「防空識別圏は国際法に基づく折衝に拠るものではなく、各国が自ら線引きを設定するものだ」とし、日本として今回の動きについては「論評は無い」としている。
調べによると、日本側の姿勢はかなり慎重なものがあり、今回の件が日台関係に影響するまで拡大することを望んではいない。事情筋によると、日本は沖縄問題を解決するために、両国の長きに渡る暗黙の了解を壊すことを勝手に決定し、かつ事前に我が方に通知することもしなかった。これは確実に我が方の外交部に不満を与えるものである。我が方は抗議し遺憾の意を表した。日本は道理の通らなさを自ら知り、慎重に対応するばかりだ。
調べによると、外交部が29日に声明を発表して以降、亜東関係協会はただちに交流協会と緊密な連絡を取り、お互いを尊重し、これまでの実質的な暗黙の了解を維持し続けることを希望した。また、台湾と日本の交渉系統はこの事件を単一のものとして扱い、両国関係に影響を与えるようなことは望んでいない。

日本の勝手な防空識別圏移動、我が方は断固として受け入れず (聯合報)


さて、与那国島を基点として半円状に西側に拡大することが(ちなみに、最終的には島の南北の幅で西側に12+2カイリに伸ばしたいびつな形に)、はたして台湾の「主権と空域の完全性」に影響を及ぼすものなんでしょうか。むー。確かに本土への距離という点では台湾と日本とで危機感のレベルが違うとは思いますけど、台湾の東側だし少なくとも領空ではないよね。この半円部分を削ったら即死角とはちょっと思えません。むしろ代わってそこを管理するのは日本なので、台湾海峡に対する日米のリーチが若干伸びるという極少ながら利点もある。現に記事では国防部サイドは反対してないし。
となると、「主権と空域の完全性」っていうのはあれかな、「琉球も諦めていないぞ」ということなのかな? でも、だとしたら今の「暗黙の了解」状態も許されないよなあ、なんて考えていたところで5月31日の自由時報にヒントとなる記事があるのでこちらを抜粋して訳。

日本が台湾と日本の新たな防空識別圏を引きなおそうとしている件で、外交部は29日、日本側の決定を受け入れることは出来ないという立場を正式に表明した。政府筋の関係者も29日、日本は今回の件の手続きにおいて「情勢を見誤った」と明確に指摘した。台湾は、日本と釣魚台あるいは与那国島の防空識別圏に関係する問題で、協議を行うことはできるが、主権の問題においては譲歩をすることは絶対に不可能だ。
(略)党政府筋の者は、「台湾と日本は、与那国島の防空識別圏などのテーマについて腰を下ろして議論する確率がある。しかし双方の交渉は、一つの議題のみで進み譲歩があることはないだろう。釣魚台の主権などの問題を含め、全て含めて考えに入れる必要がある。そのため、これは一つの高難易度な折衝であり、短期間のうちに結論や解決を導けるものではないだろう」と指摘する。

防空識別圏、我が方は日本との協議を排除せず (自由時報)


ああそっか、そういうことか。というわけで同じ31日の聯合報に載っていた、中山大学海洋政策研究センターの胡念祖主任の投稿を抜粋して訳。こっちの方がわかりやすいかな。

(略)現在、台湾と日本との間のADIZの境界線は、日本の与那国島を南北に縦断し、島の西半分の領空は台湾側のADIZにされてしまっている。この線引きには特有の歴史的要素があるが、しかしもし我が国が与那国島を日本の領土として認めるのであれば、その不合理な点を明らかにすることができる。通常においても、我が国では既に軍の活動において日本の領空であるという意味を表明している。もし日本の要求が与那国島の領空の範囲を日本側のADIZとするというもので、半円状の範囲で示されるのであって、東経123度線のADIZ境界線の全てを西にずらすというものでければ、「友日」の大政策の方向性の中で、日本との協議を行うことを妨げるものではない。
しかしながら、与那国島と蘇澳鎮の距離はわずかに60カイリであり、日本が現に要求しているのは陸上の西側12カイリの領空プラス2カイリの緩衝帯であることを考えると、我が空軍の活動および反応する空域を大幅に減少させるものだ。したがって、我が国の譲歩する空域で最良のものは、与那国島の領空の範囲に限るというものだ。
その上、同様の理由により、我が政府は協議の中でぜひ、円状の方式により東経123度線の東側の釣魚台列嶼の領空も台湾側ADIZに組み入れるようにしてほしい。日本はこの協議に果たして同意するかどうかは、人が住み飛行場の滑走路設備や小中学校もある与那国島と、無人島の釣魚台列嶼との間でその相対的な比重を正しく見て考えることになるだろう。

台日の防空識別圏、与那国島と釣魚台を交換で (聯合報)


結論から言ってしまえば、「そんな譲歩、日本がするわけないでしょ」なんですが、尖閣問題を絡めようっていう発想は面白いですね。というか、台湾の記事を見ていると「日本との線引きの問題」という点からか、尖閣の文字が(いや、台湾だから釣魚台だけど)けっこう踊っていて引っかかってはいたんですが、そういうことですか。ECFAなどのタイミング的に、「対中国関係を慮った」というのもありそうだけれど、いくらなんでもそこまで軽重を間違えないよねえ。
つまり、今回日本の「与那国島って日本の領土だし、そこに自国の防空識別圏が入っていないっておかしいよね。だから台湾側に食い込んでいいよね、というかその部分だけ台湾も外してちょうだい」という意思は、一見して理由がある。ところがこれに対して台湾が「それもそうだね、じゃあ東経123度線を基本に、与那国の近辺だけ半円状に西に迂回していいよ。これで日本の領土上は防空識別圏に含まれるし、お互い重複しないよね」と応じるとちょっと困ったことになる。上の文中でも書かれていますが、与那国から地図の上の方に目を移すと123度線の東側に尖閣諸島が点在しています。「日本の領土の上には日本の防空識別圏を」という論理をベースに与那国の変更を認めてしまうと、既にすっぽり日本の防空識別圏に収まっている尖閣諸島の方で「それとこれとでは話が違う」と言いづらい。
だったら、この主任が言うようにダメ元で交換条件として出すか、あるいは「この線って米軍が勝手に引いたものだし、防空識別圏って領土領空とあんまり関係無いし、喉もとの防空識別圏が食い込まれるのも気持ちのいいものじゃないし、お互いこれまで比較的上手くやってきたんだから別に元のままでよくね?」と現状維持を主張するしかないんだろうね。

もちろん、こんなことはあくまでおいらの推測でしかないのですが、台湾にとって与那国島とその西側空域が防空識別圏から外されることに対する直接のデメリットがあまり感じられない以上、むしろ123度線つながりで「尖閣諸島問題との絡み」というのは結構ありうるのかなあと思っています。もっとも、そういう話をしている媒体が日本ではお目にかからないので、あんまり自信はないんですけどね。それとも、またおいらのアンテナが低すぎるのかなあ。

大前ェ...。

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さて、第22回参議院議員通常選挙が告示されました。ということで例によって代わり映えのしない看板案でも。って、作った直後に鯖移転かよ!(live28→kamome)

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参議院選挙ってもっぱら7月に行われますけど、あれって4月に引っ越した人にとって紛らわしくて仕方ないと思うんですよね。投票するにはその市町村に3ヶ月以上住んでいないといけない、というのは結構知られているんじゃないかと思うんですが、その基準日って実は投票日じゃなくて公示日。
公職選挙法上、選挙人名簿というものに登録されていないと投票ができません(法第42条)。これは各市町村の選管が管理しているんですが(法第19条第2項)、登録されるにはその市町村に住所を有し住民票が作成されてから3ヶ月以上住民基本台帳に登録されてないといけません(法第21条第1項)。書類上も実態上も住んでなきゃダメっていうことですね。
で、この名簿をいつ作るかというと、毎年3の倍数月と「選挙を行う場合」になっていて(第19条第2項)、「選挙を行う場合」というのは、当然投票日ではなく選挙を行うことが決まった公示・告示のタイミングになるわけで、公示・告示のその日を基準にしてその日に作るというのはしんどいということで、もっぱら「公示・告示の前日」を基準日として作られています。
ということはどういうことかと言うと、新年度から新生活を始めた人、つまり3月の終わりとか4月の頭に引っ越した人で、7月11日の選挙の時点で既に3ヶ月以上住んでいる人であっても、今回の選挙の基準日が公示の前日である6月23日になるので、「3月23日以前に住民票を移して、6月23日時点で引き続き住んでいる人」でないと新住所で投票できないっていうことになります。一方、旧住所の方での名簿は、転出の日から4ヶ月以内は登録されているので(第28条第2号)、3月24日以降に住民票を移した人、っていうか4月から生活環境が変わっただいたいの人は、前の住所地での投票になっちゃうんじゃないでしょうか。
なお、「前の住所の場所なんて遠すぎですよゴルァ」っていう人もいると思いますけど、いちおう法律上は前の住所地での投票の他に、投票用紙と投票用の封筒を請求して、最寄の市町村で投票できるという仕組みもあります(法施行令第50条)。詳しくは、前の住所地の選挙管理委員会に電話してみたり、Webサイトを見てみたりすればいいと思うよ。

さて、そんなどうでもいい話を並べていた後、賞味期限が切れそうな「けいおん!」の話でも書こうかと思っていたのですが、「そのうち大前さんが国共論壇に呼ばれそうな気がしてきた。」などでも取り上げた大前さんが、また台湾で取り上げられていたのでそちらの話でも。
大前さんはことのほか馬英九と仲が良いようで、22日に台湾を訪問した際も馬英九総統がかなりの厚遇で面会しています。なぜか同行している佐竹敬久・秋田県知事も若干霞み気味という展開。とりあえずは総統府のリリースから訳。

馬英九総統は22日午前、総統府で日本の戦略大家である大前研一博士および佐竹敬久秋田県知事と面会し、中華民国政府と国民を代表して心からの歓迎の意を表した。
馬英九総統は、「大前研一博士は、経済の動向を予測する大家であり、『戦略マスター』の称号を持ち、アジアにとどまらずアメリカ大陸やヨーロッパでも名声を得ている。大前博士は台湾の発展に大きな関心を抱いているばかりでなく、台湾の産業界や政府とも密接な関係を保持し、中でも、各界に多くの重要な啓発を提供するため両岸関係のテーマに関する知識を積み重ねている」と話した。
馬総統は、「過去2年間に世界が直面した金融ショック、経済の衰退は台湾も例外ではなかった。この半年で台湾経済は急速に回復し始め、輸出入とも大幅に伸びた。今年に入ってから5月までの間、台湾の輸出は53%の増加、輸入は71%増加し、ともに過去最高を記録した。失業率は下降を続け、各関係機関も台湾の今後の景気に対し楽観的な予測をしている。政府も今年の経済成長率を6.14%に達するものと予測している。このほか、政府は正式に大陸と「両岸経済協議(ECFA)」の締結に向けた交渉を行おうとしているが、既に政府が決定した政策ではあるけれども、社会的には多くの異なる意見が存在している」と語った。
馬総統は続けて、「昨年、大陸は世界最大の輸出経済体になり、世界第2位の輸入市場となった。今年は世界第2位の経済体になることが予測されており、過去数年を見ても、台湾から大陸、香港への輸出は、輸出全体の40%を超えている。今後、両岸がECFAを締結すれば、よりいっそうの要因が加わり、台湾の大陸への輸出は増加を続けるだろう。そのため、国内の一部の人々は、台湾が過度に大陸に依存することにより、経済面、政治面でマイナスの影響が生じるのではないかと憂慮している。また、別の一部の人々は、世界的に見て大陸への依存はおしなべて増えていることから、こうした現象を過度に心配する必要はないと考えている。上流産業の鍵となる技術を押さえておけば、双方の貿易量の増加は懸念する必要がない」と話した。さらに馬総統は、「こうした論述を支持する人は、台湾と日本との数十年間の関係を例として示している。日本と台湾の双方はずっと巨額の貿易量を維持し続け、昨年は507億元、一昨年は640億元だった。日本は台湾に対し巨額の輸出超過状態だが、日本は台湾に対する過度の依存という問題を憂慮したことはない」と述べた。
大前研一博士と佐竹敬久秋田県知事らは午前中、施顔祥経済部長とともに総統府を訪れて総統に謁見し、国家安全会議の胡為真秘書長や、財団法人海峡交流基金会の江丙坤董事長も同席した。

馬英九総統、日本の戦略マスター大前研一博士と面会 (中華民国総統府)


ということで、一見して何の波乱も無さそうなのですが、これとは別に、22日に総統府で行った講演が波紋を呼びました。っていうか総統府で講演なんてやれるんだね。台湾各紙の中でもとりわけECFAに御執心な聯合報は1面を含めて大きく取り上げるなどの持ち上げぶり。まずはそんな聯合報から。

日本の戦略大家である大前研一が22日、総統府で講演を行い、両岸経済協議(ECFA)を「苦心して調剤されたビタミン」と形容し、これが台湾経済を助けることになるという考えを示した。ECFA、法人税の17%への引き下げ、大三通という優位な状況下で「日本の会社も(引き寄せられて)台湾にやって来ることになるだろう」と話した。

大前研一は「世界経済の発展の傾向と両岸協力関係の展望」と題し、総統府の月例会合で演説を行った。大前は、台湾の今後の経済見通しを極めて前向きに捉えており、「台湾経済のデータは非常によいものなのに、なぜ記者はいつも不満を言うのだろうか?」と納得がいっていないようだった。
大前研一は、馬政権が両岸関係を大幅に改善させたほか、台湾には人材、科学技術、言語などの優位があり、速やかに金融危機の悪影響から脱出できた最大の要因は両岸貿易の成功であると考えている。また、韓国人が「Chaiwan(China+Taiwan)」という単語を作り出したのは、彼らの懸念を反映しているものだという。

両岸がECFAを締結しようとしていることについて大前は、ゴルフでハンデが無い状態である「スクラッチ」という言葉で形容した。彼は、台湾と韓国の産業は高いレベルで競合していると述べる一方、「ECFAを締結すれば、韓国人は羨望だけでなく、憂慮の感を抱くだろう」と語った。
大前はさらに、日本や韓国が大陸と自由貿易協定を結ぶ交渉の高難度のせいで、外部はもともとECFA協議がこんなにも順調に行くとは予期していなかったと述べ、「我々は台湾を祝福することはないが、台湾は我々(日韓)を祝福してほしい!」と話した。
大前は、「第三者の視点から見ると、両岸がECFAにサインすることは間違いなくプラスに展開し、台湾が他国と自由貿易協定(FTA)を締結する助けになるだろう。その他に金融、知的財産権などでも工程表となり、定率の法人税と併せて、これから先、台湾が大中華圏の中心となるチャンスを得るだろう」と語った。

しかし大前はこの他に、「鴻海の子会社である富士康の事件によって、台湾企業が依存しているOEM、ODMの成功が終幕を迎えたことが露見し、今後は新たなモデルを見つけなければならない」と言及した。
台湾の将来像について大前は、「台湾はECFA締結に向け全力でラストスパートをするべきであり、その後でFTAに進化させるべきだ。公平な競争環境を作ると共に、既存の高い科学技術と管理能力を用い、産業の垂直方向と水平方向の整理統合を行い、併せて販売能力を強化することで、海外の投資利益を増やし、外国企業が台湾に経営の中核を設けることを実現させるべきだ」と示した。

ECFAへのサインは、台湾を大陸により依存させることになるだろうか? 大前は、「これは経済発展の途中段階だ。日本もかつてはアメリカに依存したが、ヨーロッパや東南アジアの市場にも進出した。これからの台湾は大陸の内需市場に深く入り込むことや、世界の舞台に進出しなければならない。今の段階は単なる『前衛を受け持つ』ことにすぎない」と考えを述べた。

大前研一:ECFAは台湾のビタミン (聯合報)


一方、これに真っ向から敵愾心をぶつけてきたのが同じ23日の自由時報。26日、っていうか今日あったのかよ、に予定されている大規模デモの前に水を差されたこともあって、社論を使って「勘弁してくれよ」と。

今週土曜(6月26日)に行われる「反一中、要公投(「一つの中国」に反対、国民投票を行え)」大規模デモは、各地で幅広い反響を引き起こし、当日のECFA反対の声は、熱の入ったものになりそうだ。しかし、このように国民がECFAに反対するため立ち上がっていることに対し、馬英九政権は見向きもせず、関係部局によって公金が使われ、宣伝が行れる一方、もう一方では中国と交渉を加速させ、さっさとECFAを「生米はすでに炊けた状態(今となってはもう変えられない状態の意)」にしてしまおうと考えている。22日、総統府の月例会では大前研一が招かれ講演を行った。その大いに弁舌が振るわれた内容は、「ECFAは心を込めて調合されたビタミンと言えるだろう。台湾の経済を手助け、台湾を成功させ続けることだろう」というものだ。

馬英九総統は、大前研一を動向の大家と直に賞賛した。しかし、彼の多くの話を見てみると、この動向の大家はどうやら台湾を理解していないし、中国も理解していないようだ。例えば、彼はアジア全体はだんだんと中国に依存しつつあると言うが、しかし台湾は優位性を利用しており、しかも中国に過度の依存はしていない。実際、中国の経済統一戦争の策略は、経済をもって台湾を引き付け、台湾が中国に対し様々な点で依存するようになった時には、中国の掌の上から逃れられないというものだ。中国の政府筋のブレーンである胡鞍鋼はかつて、台湾は糖尿病の患者のようになるだと比喩した。中国との貿易を求めることはインシュリンであるかのように見え、もしインシュリンを打たなければ、台湾は生きていけるのか? というのだ。彼はまた、ひとたび中国が経済制裁という貿易戦争を発動させれば、7日で台湾は白旗を揚げるだろうと語っている。この一つまみの台湾の経済統一戦略だけでも、大前研一はより理解をしなければならないようだ。
さらに、大前氏は「ECFAは継続すべきであり、台湾は全力で前進し、ECFAを締結しなければならない。ECFAを自由貿易協定(FTA)に進化させ、台湾を公平な競争の場とすることができる」と話す。この動向の大家は、馬政権のスタッフの前で話すのに、ちゃんとした講義をすることはできないのだろうか? さもなければ、なぜ国民党と共産党は国と国とではない関係でECFAを結び、国と国という関係でFTAを締結しないのか、大前研一はあたかも何も分かっていないようだが? しかも中国側は、国民党と共産党がECFAを締結した後、台湾と他の国家がFTAを締結することは、なお中国の同意を要すると、とっくに警告してきている。大前研一は、このこともまるで聞いたことがないようだが? このように、良いことを報告し悪いことを隠すことは、おそらくまず自らを催眠させる馬政権のスタッフだけが聞き続けることだろう!

ここで、我々は大前研一に対し、台湾に来た以上は現場で理解を深く掘り下げることも構わないと提案したい。なぜ国民党と共産党はECFAのメリットについて美辞麗句を並べ、そして大前自身もECFAを台湾経済のビタミンだと評しても、多くの台湾の国民がなおも心中に懸念を抱き、台湾経済が鎖に繋がれ一つの中国という市場に引きずりこまれ、仕事の機会や実質的な所得の低下、果ては台湾の主権も守れないのではないか、と心配するのか。週末の大規模デモのテーマである「反一中、要公投」は、これらの懸念の全体を物語っているものと言える。「反一中」のうち反対していることというのは、「一つの中国市場」であり「一つの中国の原則」である。台湾経済が一つの中国市場に引き込まれれば、産業や雇用はますます抉り取られ、国の経済と国民の生活に問題が生じる。台湾の主権も一つの中国に引き込まれれば、国民は将来を自ら決めるという権利を失い、殺されるのを待つだけの子羊に没落するだろう。したがって、国民は国民投票を行う権利の行使を求め、よって主権在民の本旨を明確にするのである。大前は主権独立国家から来ているのだから、台湾の国民はおとなしく中国の二等国民になるよう建議するようなことはさせないべきではないか?
「台湾の将来は、2,300万人の台湾の国民が決定すべきものであって、中国共産党の干渉は認めない」。これは馬英九の総統選挙での約束だ。しかし今、馬英九はその国民に対する約束を食み、国民党と共産党による秘密貿易、監督回避の図式によって、経済から主権に至るまで一つ一つ台湾を鎖につないで中国に引き渡そうとしている。この過程の中で台湾が得るものは、中国が言うところの利益還元ではない。大前氏が言うようなビタミンでもない。胡鞍鋼の言う糖尿病だ。少しばかり健康に対する知識のある者なら皆わかるだろうが、糖尿病を患ってしまった台湾は、中国というインシュリンに頼ることでしか命を繋ぐことができなくなり、もし中国の感情を害し薬を絶たれれば命を落とすことになる。台湾の病状が悪化し救いようのない状態になれば、中国はやすやすと台湾の主権を併呑することができる。台湾の国民は、馬英九の終局的な統一という政策からとうにこの動向を見出している。大前研一は国民党と共産党が締結しようとしているECFAに対し、結局のところ浅薄な知識しか持ち合わせていないではないか!

大前研一さん、ちゃんとした台湾の講義をお願いしますよ! (自由時報)


どっちにしてもど素人なおいらがあまり書くと、途端にボロが出るのでやめておきますが、仮にECFAが締結されて実行に移されれば、日本の経済にも大きな影響を与えることは間違いないでしょ。そういう意味では、これだけ波紋を呼んでいる大前さんの話が日本ではからっきし出てこないというのは、ちょっと残念だなあと思わざるを得ないですね。いや、大前さんも残念な方なんですが、そうじゃなくてECFAの話題に対して、ね。

次回はなぜか賞味期限が延びた防空識別圏の話でも...できるかな?

★追記(06/30 12:00)
「『転入後、基準日までに継続して3ヶ月住んでいないと選挙人名簿に登録されない』だと、4月に引っ越した人は基準日時点で前の住所地に住んでいないのだから登録されていないのでは?」という指摘を受けたので、追記。法律上、転居してもすぐには旧住所地の名簿からは抹消されず、4ヶ月後に削除されます。逆に言うと、「2月22日以前に転居届を出し、転入届を3月24日以降に出した人」は、どこの選挙人名簿にも載っていないので、どこにも投票できません。法の欠缺じゃなくてその人が悪いだけ。

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