名は千載の後までも。

先週11日、自由時報の副刊に気になる記事があったので、今回はそのお話。
日本の童謡が教えてくれる私たちのこと」というこの記事、「中正紀念堂は、台湾の民主主義が発展する過程において、移行すべきだ」とか、「故宮の台湾化も歴史が進んでいく中で必然のことだ」などと、のっけから自由時報らしい始まり方をします。もしかして、これはタイトル詐欺か、と思っていたら、「かつて日本の植民地であったことも台湾の歴史の一部分だ」などと進むので、いよいよ不安な展開に。すると、いきなり「最も面白い例として、この年末年始にネットユーザの間で広まったのが、初音ミクの歌う『台湾周遊唱歌』の中国語字幕付きバージョンだ」と、予想外の初音さん。記事の中で「YouTube上で広まった」とあるので、おそらくこちらの動画のことかと。

ちなみに、中文の字幕が入る前のものは、おそらくニコニコ動画のこちらが初出のはず。

ニコニコ動画版から5年半、YouTubeの中文字幕版から3年近くたってから、というのは何やら不思議な感じがしますね。ニコニコ動画版の投稿者コメントにもあるとおり、今から100年以上前の1910年(明治43年)に出来た曲で、歌詞は90番まであります。初音さんも23分間歌いっぱなしです。

明治期のこういう紀行ネタ的な歌と言えば、鉄道唱歌が思い出されます。名前のせいと、「汽笛一声新橋を」という有名すぎる第一集の歌い出しのせいで、鉄分が高めな歌という印象がありますが、どちらかと言えば沿線の風景や名所を盛り込んだ歌詞なので、どちらかと言えば「地理」的な内容です。

この台湾周遊唱歌も、時の台湾総督府が歌の学習のために作った(というか作らせた)ものですが、台湾の旧跡や名勝を織り込んだ内容で、4番で基隆港に上陸したあと、反時計回りで台湾を一周します。ただし、当時は西海岸の交通が発展していたこともあり、80番でようやく恒春に到達し、東海岸は海路で北上するような駆け足ぶりです。このあたりにも時代を感じますね。

さて、記事ではこれらの歌詞について、「最初は、当時の日本の帝国主義に満ちた地理を洗脳する童謡かと思ったが、台湾の歴史と産業の特色が詳しく、そして平易に紹介されているとネットで好評を博した」と高評価。いいのかな。1番でいきなり「我が日の本の新領土」とか出てくるし、78番では牡丹社事件も描かれるなど、けっこう微妙な線を行っているんだけど。

また、初音ミクが歌っていることもあって、「初音ミクといっしょに訪ねる台湾」だとするネットユーザの声や、自分に関係のある部分を切り出して「初音ミクといっしょに訪ねる台南」と編集した人も取り上げてますね。記事では「この歌を通して、まだ知らない台湾を発見してみては?」と前向きに締めくくってます。

あまりに好意的に取り上げているので、なんだかかえって違和感すら覚えます。この記事を書いた凌美雪という記者さんはどういう人なんだろう。

と思ってぐぐったら、なんかいきなり魔法少女が出てきてますます混乱しました。どういうことなの。魔法少女が初音さんを紹介していたとか、自由時報始まりすぎだろ。(混乱)

どうやら、2008年に中国で制作されたドラマ・アニメ『巴拉拉小魔仙』の登場人物が同じ名前のようです。恥ずかしながら、この作品は知らなかったなあ。主人公の姉妹のうち、15歳の姉が凌美琪、14歳の凌美雪が妹という設定。なるほど。初音さんは2007年に世に出ているし、16歳なので、あらゆる面で彼女たちより先輩ってことですね。(錯乱)

意外なニュース記事から、意外な知識にたどり着いてしまいました。いやはや、あの歌を通して、まだ知らない情報を発見してしまうとは。