決してわざとではなく。

立続けに台風が爪痕を残した後に書くのは若干腰が引けつつも、今さらながら『天気の子』関係の話でもしようかと。いろいろあって、公開から約1か月後の8月に観ました。直後感想がさっぱり要領を得ないものなので、今でも恥ずかしす。


そうだねえ、離島だったねえ、エロゲだったねえ。というわけで、今回は「離島」の「エロゲ」の話をしましょう。そうしよう。3行前のことなんか忘れた忘れた。

怒られてしまいそうだけれど、もともと離島というのは「大多数のユーザ」から遠い場所になるので、諸々の設定が可能になるので極めてゲーム向きです。そのため、まったくの想像上の島で話を展開することだって可能なのですが、律儀にも実在の島を舞台にしたりモデルにしたりした作品もあるのですね。

そういう前振りの下、ド直球で書くとすれば、『天気の子』と同じ神津島がモデルになっている『この青空に約束を』になるのでしょう。でもダメです。おいらが神津島に行ったことがありません(おい)。とは言え、そもそもおいらが行ったことのある離島って少ないんですよね。離島振興法で指定される255島の離島振興対策実施地域 [pdf]のうち、行ったことがあるのは3島しかありません。さらに言えば、複数回訪れたことのあるのは1島しかありません。それが、今回の話で取り上げる山形県は酒田市の飛島です。酒田市は、いろいろな都合もあって比較的立ち寄ることの多い街ですが、航路を使わないと行けないため、飛島まで行く機会はあまりありません。

そんな酒田の市内や飛島が舞台になったアダルトゲームが、2011年に「しゃんぐりらすまーと(現在のあかべぇそふとすりぃ)」が出した『恋ではなく ―― It’s not love, but so where near.』です。R-18なので、公式へのリンクの代わりにWikipediaの項目ニコ百の項目へのリンクで勘弁してください。っていうか、なんで両方とも記事があるんだよ。

「離島」と「エロゲ」でなんでこの作品が浮かんだかと言うと、このゲームは実際の街並みや風景をかなり忠実に背景で再現しているんです。さきのニコ百にも

上述の通り、本作の舞台である田舎町は山形県に実在する港町・酒田市である。そのため、作中で登場する舞台(川沿いの通学路、商店街、公園など)も酒田市内の実際の町並みや風景が再現されているのも特徴。具体的には、

  • 川沿いの道(通学路):新井田川の川沿い(風景的には酒田消防署近く?)
  • 山居橋(ロケ地):同じく新井田川沿いの橋、及び山居倉庫のある通り
  • 商店街:酒田市中町商店街(清水屋のある通り)
  • 公園:日和山公園。灯台や千石船、そして海が一緒に見える桜の名所としても知られる
  • 飛島港:山形県唯一の有人島・飛島と酒田を繋ぐ港。旅客船「とびしま」や貨物船「かもめ丸」が行き来している

など、かなり高い再現度である。まあ地元民くらいにしかわからないのが残念だが。

恋ではなく ―― it’s not love, but so where near. (ニコニコ大百科)

と、わざわざ書いているくらい。でも、「田舎町」言うな。作品中でも、省吾が見下すような感想を言ってたしなめられたり、典史や祐未が卑下するようなことを話して友情出演したすーぱーそに子にフォローされたりしていましたね。確かに、現実の酒田市を見ても「何もない田舎町」という感じはありません。どちらかと言えば、「都会になり切れない感じ」が切羽詰まっているように思います。あはは。あと、ニコ百は「地元民くらいにしかわからない」とか言うなし。

――む。であるならば、実際にどのくらい丁寧に描かれているのか、紹介することにしましょう。おっと、その前に。

この作品のいいところ

トモセシュンサクの絵もいいのですが(ここを話し始めると長くなる)、シナリオもいいですね。ニコ百の「概要」にもあるとおり、自主制作の映画を撮ろうとする登場人物たちは、撮影を通じた人間関係や、互いの才能、社会のどうにもならない枠組みといった有形無形の力をぐりぐり受けて、それぞれに成長していくわけです。特に、写真に対する情熱ほとばしる男性側の主人公である典史と、ファッションモデルとして東京と酒田を行ったり来たりする女性側の主人公である祐未の二人は、古傷の痛みに耐えたり、自分たちが社会で通用するかと悩んでみたり、同年代よりはるかに高次元で身と心を削り合っていきます。はっきり言ってエロゲっぽくない。おいらは登場人物たちの年齢の頃に、こんな風に自分の才能とか将来だとかを考えたことはさっぱりなかったからね。それはもう、満月のワンタンよりも薄っぺらい子でした。なので、テキストを追っていて苦しくなるというか、なんていうの、『耳をすませば』の「てんでレベル低くて、やんなっちゃうね」的な感じで十六羅漢から身を投げたくなります。登場人物やテーマが青春小説っぽいにも関わらず、中身の精神年齢がそれよりも上で描かれているという点では、確かにアダルトなのかもしれないです。もうドラマ化しちゃえばいいのに。

また、ゲーム内で祐未が「……まったく、写真バカはこれだから……」と言っているくらい、登場人物たちは揃いも揃ってカメラに対する、というか写真や映像に対する熱量が半端ないです。むしろ、祐未も大概です。カメラという媒体は、何かを表現したいお年頃のお供にするには格好のモノであると同時に、個人的には酒田が舞台になった決め手でもあるように思います。昭和の名写真家である土門拳が酒田の出身ですし、市の中心部から少し外れたところにある飯盛山公園には、日本初の写真専門美術館である土門拳記念館が建っていますからね。おいらも酒田に行ったときにはたいてい土門拳記念館に立ち寄ります。もっとも、芸術全般に善し悪しが分からないおいらなので、作品鑑賞が目的というわけではなく、定期的に展示されている川端康成の写真が目当てです。康成については、『天気の子』関係で後ほど触れるのですがそれはさておき、土門拳が数多く撮影した肖像写真の一つで、恐らく最も有名なのがこの康成ではないでしょうか。昭和26年に撮影されたらしいので、既に五十代に入っている頃。それでもこの強い眼光と澄んだ瞳。記念館では間近で見られるため、目に反射した景色が見えそうなほどで、もう参ってしまいます。

さて、ゲームの中身に戻りましょう。お話は3ルート(扶・亮輔・尚人)+グランドルートの4つの結末があります。個人的には、写真部の美月部長を攻略するルートが無かったのがショックでした(しろめ)。4つのお話とも、それぞれに誰も幸せにならないこともなければ、誰もが幸せになることもないし、少しのボタンの掛け違いで微妙に違う結末に終わるというのも面白かったです。ただし、どれも暗さとくどさがあるので、好みが分かれそうです。というわけで、ぶっちゃけエロシーンはスキップしていいから(おい)、一度やってみてくらさい(おいおい)。 “決してわざとではなく。” の続きを読む