明日は時雨か秋晴れか。

常々申し上げているとおり、台湾の政治に関する詳しい考察は、東京外大の小笠原先生のサイトを見てください。いいね? とはいえ、今年行われる政治的イベントとしては最大の山場を迎えるにあたり、全く触れないというのもどうかなと思うので、小笠原先生のサイトへにリンクするという予防線を張ったうえで、たまにはそういうお話を

台湾では来月、地方自治体(って言うとちょっと語弊があるけど)の首長や議員を一挙に選ぶ、いわば統一地方選挙があります。地方選とはいえ、直轄市長は政治的にも大きな影響力を持ちますし、何より蔡英文政権になってから初となる全国的な選挙、そして人によっては2020年の総統選挙にも繋がってくるので非常に大きな重みを持っています。この選挙、首長や議会議員など9種類の選挙があるので、「九合一」と呼ばれていますね。ただし、直轄市長選挙と各県長選挙のように重複しない選挙もあるので、1人の有権者が9回選ぶわけじゃないでっす。この九合一に併せて、国民投票(公民投票)も行われます。日本では「住民投票」と呼ぶことが多い、地域限定の投票も「公民投票」と定義されているので、ここでは「公民投票」で揃えておきましょ。

台湾の公民投票っていうと、「あれ? 立法委員選挙や総統選挙に併せてやるんじゃなかったっけ?」という記憶と「そんなひょいひょいやってたっけ?」という疑問が湧いてくるのですが、実は昨年の12月に公民投票法が改正されていて、公民投票の成立のハードルが下がっています(なお、全国的な選挙に併せて行うのは改正前から変わっていないので、前者の疑問はおいらの記憶違い)。先月の毎日新聞の記事から抜粋して引用。

蔡政権は市民の政治参加を促すとして、住民投票の請求に必要な署名を有権者の5%から1.5%に引き下げ、投票の成立要件も投票率50%から25%へ緩和する改正法を昨年、成立させた。台湾では過去にも数回、住民投票が実施されたことはあるが、投票率50%の壁に阻まれ、一度も成立していない。

今回は成立要件が投票率25%に大幅に緩和されたうえ、統一地方選と同日実施のため、成立の可能性が高まっている。

台湾:住民投票の請求相次ぐ 政権が要件緩和 (毎日新聞)

これは台湾の政治上、大きな改正だと思っています。記事にもあるとおり、公民投票が効力を発するためには、いくつか条件があるのですが、記事ではちょっと漏れているので補足。投票の前後とも「投票内容の提出」、「実施のための署名」、「実際の投票者数」および「賛成票数」という4つのハードルがあるわけですが、記事では1つ目がほぼザル化したこともあり飛ばされているし、後ろの2つはちょっと説明が雑。まず実際の投票までの関門である前半2つですが、「直近の総統選挙の有権者数の0.5%以上→同0.01%以上」および「直近の総統選挙の有権者数の5%以上→同1.5%以上」と、実施しやすくなっています。もっとも、これ以外に内容の審査もあるわけですが。一方、投票結果についての要件は、従前の「有権者の1/2以上の投票」と「有効投票の1/2を超える賛成」が必要とされていたものが、「賛成票が反対票よりも多く、かつ、賛成票が有権者の1/4以上」となりました。確かに、改正後の要件を満たすためには、どんなに少なくとも「賛成票が有権者の25%以上+反対票がゼロ」が必須なので、「投票率25%以上あれば成立しうる」であれば誤りではないのですが、「賛成が13%+反対が12%」だったら「賛成票が有権者の1/4以上」を満たさないので、「投票率25%以上が成立要件」というのは誤りなんじゃない? この辺、11日の朝日新聞はしっかり要件を書いています。最後の結論部分も重要な意味を持ちますが、これは後述で。

いずれも、投票の結果、賛成が反対を上回り、かつ有権者数の4分の1以上であれば、政権の判断を拘束することになる。

日本産は「核災食品」か 台湾、輸入の再開を住民投票へ (朝日新聞)

前回、2008年の立法委員選挙と総統選挙で行われたのべ4件の公民投票では、まさにこの「有権者の1/2以上の投票が要件」を逆手に取った棄権戦術が泛藍陣営を中心に繰り広げられました。4件とも賛成票が過半数(約58%~約94%)となったものの、公民投票の投票率は約26~約35%であえなく不成立。それじゃああんまりだというわけで、蔡英文政権下での改正に至ったわけですが、今度は国民党サイドが公民投票制度を逆手にとって蔡英文にプレッシャーをかけようとしています。これについても後ほど。

このように実施のハードルが下がると、雨後の筍のように提案がなされるのは大方の予想通り。中選会のサイトを見ると、1月以降、かなり多岐にわたる提案がなされています。日本での報道を見ると、やはりというか何というか、「福島県など5県産食品の輸入解禁」「国際大会や2020年東京オリンピックへの『台湾』名義での参加」という、割と日本人にも関係してくる議題が多く取り上げられている印象があります。

中選会は、10月2日10月9日および10月16日の公告で計9件の提案を投票に付すと公表しています。上で「九合一って言うけど、9回投票するわけじゃないから」って書いたけど、マジで9件の投票をすることになりそうです。

ちなみに、2日の公告の標題にもあるとおり、既に亡くなった人や代書の存在が全般的に明らかになっていて、特に後述する国民党の立法委員が提案したものは無効署名が1/3以上に及ぶなどしたため、中選会は割とブチキレです。これに対し、5日の自由時報によれば、国民党の曽銘宗が「2008年の公民投票で民進党が提案した議案も併せて追求するべきだ。もっと多くの無効署名があったのではないか」と言ったそうですが、その比較も違うんじゃないすか。

で、その9件をざっくり書くとこんな感じ。カッコ内は提案者の名前と、国政政党の党員であれば党籍も書いています。

  • 7:火力発電所の発電量について、「平均年1%以上の低下」方式で低減することに賛成するか? (盧秀燕・中国国民党)
  • 8:「いかなる石炭火力発電所や発電機の新設や拡張(深澳火力発電所の拡張を含む)を停止する」というエネルギー政策の確立に賛成するか? (林徳福・中国国民党)
  • 9:日本の福島第一原発事故関係地域である福島県と周辺4県(茨城・栃木・群馬・千葉)等の農産物および食料品の輸入再開を認めない政策を維持することに賛成するか? (郝龍斌・中国国民党)
  • 10:民法が、婚姻の規定を一男一女の組み合わせに限るべきだということに賛成するか? (游信義)
  • 11:中学校と小学校において、教育部や各学校が性別平等教育法施行細則に定めるいわゆる同志教育を行うべきではないことに賛成するか? (曽献瑩)
  • 12:民法の婚姻の規定に依らず、その他の形式で同性の二人が共同生活を営み続ける権利を保障することに賛成するか? (曽献瑩)
  • 13:「台湾」を正式名称として、全ての国際スポーツ大会や2020年の東京オリンピックに参加申請することに賛成するか? (紀政)
  • 14:民法の婚姻規定に基づき、同性の二人による婚姻関係の成立を保障することに賛成するか? (苗博雅)
  • 15:「性別平等教育法」の規定で明記されたとおり、義務教育の各段階で性別平等教育を行い、かつその内容は感情教育、性教育、LGBT教育などのカリキュラムを含むものであることに賛成するか? (王鼎棫)

大きく分けると、泛藍陣営が蔡英文政権への政策に待ったをかけようとしているのが7から9。そして昨年の司法院大法官解釈に反発するのが10から12で、さらにそのカウンターが14と15といった感じでしょうか。日本で最も話題になっている「台湾名義での東京五輪参加」が最も浮いている感じが否めません。

同性の婚姻や性別平等教育に関する内容は、今年5月のハフポストに記事があったので、そちらを参照くだしあ。個人的には、そもそも大法官解釈っていう制度自体が「ん?」っていう気がしているんだけど、それを正とする法秩序であるならば、解釈を否定するような公民投票が実施されるっていうことが輪をかけて「ん??」って感じ。

さて、建設中だった第四原発が事実上廃炉となり、エネルギー問題が喫緊の課題である中、「大気汚染をなくし、住民の健康を」という趣旨で石炭火力発電所の稼働を抑えよう、というやや緑寄りな提案は、それだけ替わりの電力確保手段の選択肢を狭め、隘路に追い込もうと狙いが見て取れます。もっとも、12日に中央通訊社がこれとかこれで報じているとおり、頼清徳・行政院長は立法院での答弁で、深澳発電所の改築停止や、台中火力発電所の4つの発電機を今後停止していくことを表明しています。文字通り、政治的な火消しの印象は拭えないですね。逆に言えば、公民投票という手段がそれなりに役割を果たすという証左でもあります。このあたり、あえて公民投票を使う藍側も、また乗っかる緑側に対しても「それって立法院不在じゃん?」ってところはありますが、ことを動かすためには誰かがケツを叩かないわけなので、大いにありかと思います。

また、福島県などからの食料品などの輸入禁止を継続するかどうかについても、先ほどの朝日新聞の記事にも

蔡英文(ツァイインウェン)・民進党政権は当初、輸入解禁に前向きだったが、国民党が「核災食品(原発事故にあった食品)」などと呼んで反対。政治問題化している。

日本産は「核災食品」か 台湾、輸入の再開を住民投票へ (朝日新聞)

とあるとおり、公民投票の結果を武器に、蔡政権の動きを止めようというわけです。これは国民党サイドとしてもかなり思いきったなあって感じ。

この点、上の方の朝日の記事の引用で「政権の判断を拘束することになる」とありましたが、もうちょっと詳しく書いておきましょ。公民投票法の規定上、仮に公民投票の内容が成立した場合には、法律の制定や廃止に関するものであれば、その後2年間は廃止や再制定ができなくなくなり、政策の方針に関するものであれば、その後2年間はその内容を変えるような政策がとれなくなります。

確かに、そのくらい拘束力がなければ公民投票を行う意味がない、とも言えるのですが、総統選の中間期であるこのタイミングで、残り2年間を丸々縛られるというのは与野党ともにけっこう重たいお話。なので、先ほどの火力発電所のように、泛緑サイドとしても一定の手は打たねばなりません。さりとて同時に行われる地方選挙も重要な戦い。むむむ。けっこう複雑だぞこれ。

6つ目の力が新たな道を示すのか、それとも既存の力に利用されるのか、同性婚の投票の件といい、隣が気になる秋になりそうです。

★ 補記(10/18 00:00)

16日に公告された2件に合わせて一部修正。

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