竹書房の『近代麻雀』で連載されている『ムダヅモ無き改革 プリンセス オブ ジパング』に蔡英文が登場したと聞いて、怯えながらも1月1日号を買いました。いくら漫画とはいえ、麻雀の雑誌を買うというのは度胸がいるのです。で、蔡英文の描かれ方がヤバいというは聞いていたのですが、そもそも『ムダヅモ無き改革』の頃から実在の政治家が登場し、 ハイレベルな麻雀 途方もないバトルをしてきていたので、今さら卓上で国共内戦が始まろうがそんなに驚くつもりもありません。何より今年から始まった新章『プリンセス オブ ジパング』は、
本日発売の近代麻雀からムダヅモ無き改革の新章連載開始ですなう。
誰も止める人がいないのでフリーダム度500%増量でお送りいたしておりますなう。
ドンミスイットなう!— 大和田秀樹 (@hideki6809) August 11, 2017
Q.近代麻雀とはどんな雑誌ですか?
A.菊の紋章も怖くない、表現の自由を追求する麻雀漫画雑誌です pic.twitter.com/fZ1gmXMOBN— TSUBAMEiL (@tsubame_JP) December 4, 2017
と、プロローグからアクセル踏みまくりなので、今さら蔡英文がどんな麻雀をしても、「まずいですよ」とはならないんじゃないかしらん。
ということで、多少侮りながら読み始めると、話の後半でようやく 蔡英文が登場します。
まずいですよ!!
「第14代台湾総統 蔡英文」と、正式な国名であるところ「中華民国」総統ではなく「台湾」総統としているのは、比較的ご愛嬌の世界。むしろ、胸に右から「中山女高」と書かれているとおり、この作品の世界では、蔡英文が台北市立中山女子高級中学の女子高生として存在していることにびっくりでっす。実際に蔡英文が卒業した高校ですね。女子高生が総統を務めていたとしても「そんなオカルト(略)」と驚きもしないのは、この作品の積み上げてきた歴史がなせるある種の麻酔でしょう。むしろ、ニュースや教科書で見たことのある人たちに限りなく近い何かがお話を進めてきた作品で、よりによって突っ込んできた改変要素というのが、「女子高生を総統にしてしまうフィクション」ではなく、「総統を女子高生にしてしまうフィクション」というのは、攻め方として確かにヤバい。
蔡英文が登場するパロディ作品と言えば、韋宗成を、特に昨年発表した『霸海皇英』を避けて通れません。そもそも中華圏の政治パロ漫画は韋宗成のホームグラウンドですし、しかも『ムダヅモ無き改革』と路線が近いため、あえて外してきたのかなという感じもします。『霸海皇英』ではかなり大人な描写が多いので、年齢設定を変えることで、ネタの重複や妙な比較を避けたのかなあ、と。いや、もちろん『プリンセス オブ ジパング』は女子高生が主人公なので、ここに合わせたっていうのが実際でしょうけれど。そういう意味では、哈亞西の『台大裸体芸術社』の方が近いかもしれません。
それと、これは大和田秀樹がわざとそうしたのかどうか分かりませんが、「中山女高」の文字の刺繍は、実際には右からではなく左から書かれています。もしかすると、蔡英文が在籍していた頃は右からだったのかな。なお、「中山女高」の横に横線が三本あるので三年生ということが分かります。年級槓ってやつですね。その下にある文字と数字がクラスと学籍番号のはずなのですが、これも現在の制服を見ると左から「クラス(漢字)+学籍番号」なのですが、作品の中では右から書かれているうえに数字の桁数がかなり少なめ(クラスは実在)。実際の中山女中にいる生徒と同じになってしまうのを避けたのかもしれませんね。
そして、作品中の蔡英文ですが、やっぱりというかなんというか、勝打を放ってきます。黒のプリーツスカートというのも中山女中の制服そのまま。そして、何だかニチアサの魔法少女モノみたいなアイテムを掲げていますが、高校生でそれはどうなんだ。
この左側で「ぐァァ!!」と叫んでいるのは、台南市長の頼清徳。こちらも現実の頼清徳によく似た何かになっています。っていうか、蔡英文は若返らせたのに、頼清徳はそのままなのかよ。
なんと、「蔡英文総統の支持率がイマイチなので、てこ入れのために頼清徳に行政院長を要請し、麻雀勝負に敗れたためこれを引き受ける」という、「麻雀勝負に敗れたため」以外はどこかで見たような話を無駄になぞっています。この政治ネタを披露するためだけに、やられ役として頼清徳が登場したことは容易に想像がつきますし、このネタって日本の読者の何パーセントが分かるんだよっていう心配すら覚えます。大丈夫大丈夫、これって麻雀漫画だしさ。
もともと『ムダヅモ無き改革』は、台湾でも『小泉麻將傳說』というタイトルで台湾角川から出版されており、まったく知られていないわけではありません。台湾の麻雀って日本と全く違うのにね。案の定、12月4日にはACGポータルサイトの巴哈姆特の掲示板で話題になります。そしてこれを引く形で5日以降、自由時報や中国時報、そして東森などで取り上げられています。特に東森は、「これが初めてではない」として、『霸海皇英』のほか『総統級猫奴』も紹介しています。
各記事にもあるとおり、ネットの反応は「美化しすぎだろwww」みたいなのが多く、今のところ許容されているような感じですかね。これで台湾と縁ができましたので、やがては、はいてない方の麻雀漫画にも北一女みたいな学校が登場したりして。